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第33話 これオカルト研究会ってか、妖怪研究会じゃね?

 放課後の安晴学園、イブはマコトと二人で部室棟を歩いていた。

 それというのも来週末に文化祭を控えているため、それまでに部活に所属しておくようにと担任教諭から指導されたためであった。

 イブとしては萌花のいる手芸部にマコトと一緒に入りたかったのだが、マコトが興味を示したのは別の同好会であり、イブもまたその同好会を選択したマコトの行動に興味があった。


「マコっちゃん、場所わかんの?」


「問題ありません、もうすぐ着きますよ」


 いつもどおり学校では上品な女言葉のマコトは、イブですらよく知らない部活棟を迷いなく進むと、程なくして目的の部室前に到着する。


 その入口には「オカルト研究会」と書かれたプレートがかけられていた。


「失礼します。部活見学をしたいのですが、よろしいでしょうか」


 ノックのあとに開けた扉の向こう側へ、マコトが丁寧にお辞儀をする。

 イブも慌てて頭を下げ、マコトに続いて顔を上げ室内に目を向ける。


 中にいたのは女子生徒が二人。

 どちらもイブはよく見知った顔で、この学園で知らない者は居ない有名な姉妹である。

 青みがかった髪をストレートロングに整え、意志の強そうな目をした少女は、北条(ほうじょう)柚香(ゆずか)

 同色の髪をショートボブに揃え、眠そうな目をした眼鏡の少女は、北条(ほうじょう)芹奈(せりな)

 姉妹は読んでいた本を閉じると、マコトとそのやや後ろに立つイブに向け、揃って怪訝そうな眼差しを向けてきた。


「こんなところに何のようですかな?」


 可愛らしい声で古風な言葉を発したのは北条姉妹の妹、芹奈だった。


「こちらでは、不思議なものを研究されているのですよね? ……妖怪とか」


「妖怪に興味があると申すか! ささ、入られよ!!」


 イブとマコトは喜色満面の芹奈が慌てて用意した椅子に座り、あたりを軽く見渡した。

 書架には本やスクラップブックがみっりと詰まり、入りきらずに溢れたのかテーブル上や床にも乱雑に積み上げられている。

 そのどれもが妖怪に関するもののようで、稀に幽霊や怪奇現象なども含まれているようだが、それらの様子からオカルトではなく妖怪を中心に纏めているようにイブには見えた。


「自分は北条芹奈。朱坂殿と同じ1年で、A組ですぞ。それとこちらは自分の姉で、2年の柚香ですぞ。いやあ、朱坂殿が妖怪に興味を持っているとは、思いもよりませんでしたぞ。むむ? 何やら不思議そうな顔を……ああ、自分が朱坂殿を知っている理由ですかな? 1年C組に転入してきた美少女『朱坂真琴』殿を知らない者など、この学校にはいないと思った方がいいですぞ」


 自分人が有名人だという事実を知らなかった様子のマコトが、呆けたような表情をイブへと向けた。

 イブはマコトの鈍感さに苦笑いを浮かべつつ、そんな抜けたところもマコトの良い所だと考えながら、マコトに肯定の意味を込めて頷きを返す。


「願念殿も他人事ではないのですぞ。いくら校則が緩いからといって、そこまで真っ金々に頭染めてる生徒は他にいないのですぞ」


「あ、あはは……あたしはまあ、自覚してるし。なんだか有名人ばっかり集まっちゃったカンジ?」


 その言葉に首をかしげたマコトの様子から、イブはこの学校で北条姉妹を知らない者が隣にいたことに驚いていた。

 ちょうどその時、これまで訝しげな視線を向けたままだった柚香が警戒を解いたのか、室内に漂う雰囲気が和らいだ。


「ふふ。朱坂さん、願念さん、ようこそ。とはいえわたくし部員ではありませんので、無視して話を進めてくださいませ」


「りょ! あたしのことはイブでいいよ! じゃあここの部長って芹奈ちゃん?」


「そうなるのですぞ、イブ殿。とはいえ部員ゼロですから何の意味もない役職ですぞ。姉上はサボりにきておるだけですしな」


 柚香はお茶を飲みながら、妖怪や怪奇現象とは無縁なファッション誌を広げており、同好会の活動とは関係なく完全にくつろいでいる様子であった。


「芹奈さん、こちらの活動内容に「妖怪研究」とありましたが、どういったことをお調べになっているのでしょうか」


「妖怪との付き合い方や、良い妖怪と悪い妖怪についてですぞ。ここに来て真っ先に妖怪について聞くということは、妖怪が存在するかどうかの話は不要でござろう? 本棚のここからここまでが妖怪の種類について書かれたもので、ここからここまでが妖怪が関わる事件に関する記事なのですぞ。おっと、ひとまずその辺の本でも読んで待っていてくだされ」


 芹奈が畳み掛けるように言葉を続けながらパタパタと書架の前に駆け寄り、本やスクラップブックがみっりと詰まった棚を指さした。

 そして立ったついでと言わんばかりにお茶の用意をし始めたので、イブはマコトと一緒にテーブル上に散乱する本やスクラップブックを手当たり次第に開いていく。


 そこには妖怪の図鑑らしきものや、イブが読めない達筆で書かれた古い文献の写しなどがあったが、イブはその中で新聞や週刊誌の切り抜きが入れられたスクラップブックに目をつけた。


「何これ……空海村消失事件? ……海沿いの漁村が、海に飲まれて消失。村のあった場所には大きなクレーターができており、そこに海水が流れ込んだ模様。クレーターが出た原因は不明……行方不明者500人以上……ねねセリちゃん、これも妖怪が絡んでる事件なの?」


「イブ殿は他人と距離を詰める速度がおかしいですぞ。……その『空亡』事件は自分たちが生まれる前の話で、住民が400人に満たない空海村が消える直前、対妖怪特殊部隊が集結していたらしいですぞ。そしてその事件がきっかけで、ACTが正式に結成されたらしいのですぞ。空亡というのは、空海村が海だけになった、つまり空が無くなった、空が亡くなった、つまり空亡、ということらしいですぞ。ACTというのは――」


 芹奈が途中から紙にペンを走らせながら空亡について説明を始め、その後は警察庁の公安に属しているACTの説明を始めた。

 ACTについて所属などの細かい話に興味が無いイブは、芹奈の説明を聞き流しながらスクラップブックをめくっていく。


「――というように、現在ネット上に残る妖怪などの画像や動画のうち、本物はACTに見つかると削除されるため、古いものはほとんど作り物なのですぞ。しかしここ数年は動画サイトやSNSに掲載される数が増えたせいか、削除が追いついていなくなっていたらしいですぞ。そしてマジカル・フォックス様の登場以降は消すのを諦めたらしく、マジカル・フォックス様以外にも妖怪や幽霊と思われる画像や動画が増えているのですぞ」


 イブは芹奈の話を聞き流しながら、スクラップブックに目を通していた。

 中には関西のとある暴力団同士の抗争や、神社・仏閣などで起こった放火殺人といった、一見すると妖怪に関係しないのではないか、という記事まで含まれていた。

 そして芹奈の長い話にうんざりしたのか、マコトも横目でイブがめくるスクラップブックを目で追っており、イブはマコトがページの最後まで視線が移動したことを確認し、次のページへとめくろうとした。


「むむっ。……これは申し訳ないのですぞ。姉上以外の者と妖怪について語らうのが初めてで、つい話しすぎてしまったのですぞ……」


「あ、ええと、こちらこそごめんなさい。でもちゃんと話も聞いていましたわよ?」


「あ、うん、聞いてたし! チョー聞いてたし!!」


 しょんぼりした様子の芹奈に必死にフォローしていると、クスクスと小さな笑い声が聞こえてきた。

 そちらに目をやると柚香が口元を手で押さえ、上品に笑っていた。


「ごめんなさいね、この子昔から妖怪が大好きなのよ。だからつい、熱が入りすぎちゃったようね。ところで二人共、妖怪の存在を信じていますの?」


「……とても、素敵ですよね。柚香さんは信じているんですか?」


 イブは探るような目をした柚香の問いかけに対し言葉に詰まっていたが、代わりにマコトが明言せずに問い返したのを聞いて身を固くする。

 そして二人の視線が火花を散らしているのを感じたイブは、何かしなければと考え助けを求めるように芹奈を見る。


「はあ。姉上、それくらいにして欲しいのですぞ。マジカル・フォックス様がご自身のことを妖怪だと話しておられたが、他の妖怪は目撃証言や文献のみですからな。それにもし身近にいたとしても、朱坂殿は考えなしに話すような人には思えませぬぞ」


 イブはマコトについての芹奈の言葉に、概ね同意であった。

 そしてこれまでのやり取りから、間違いなくマコトはこの二人のことに気がついていないと判断し、いつ打ち明けようかと考えていると、芹奈が席を立った。


「二人共そのへんにして、お茶のお代わりはいかがですかな? それと茶菓子はきのことたけのこと羊羹とポテチ、どれがいいですかな?」


「あたしも手伝うよ! マコっちゃんはどれが良い? きのこたけのこ以外で!」


 これ以上火種になりそうなおやつは、選択肢から除外するに限る。

 イブはそう考えながらテーブル上のスクラップブックから手を放し、立ち上がりながらマコトへと視線を向けようとした。

 その拍子にスクラップブックのページがめくれてしまい、新聞の一面が視界に入るのと同時に、それを覆い隠すように銀色の毛玉が飛び込んだ。


「わたしはポテチよ!!」


 スクラップブックの上に仁王立ちするタマの姿が、そこにあった。

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