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「バッファウモーが現れたというのは本当かっ!?」
すぐにユルーリット辺境伯が馬に乗って現れた。
「は、はいぃ……。バッファウモーの死体はこちらに……。」
ミトラーさんはそう言って、ユルーリット辺境伯にバッファウモーの死体を指し示す。
ユルーリット辺境伯はバッファウモーの死体を見て、大きく目を見開いた。
そうして、バッファウモーの死体のそばに座り込むと検分を始める。
「首が落ちている……。するどい刃物で一息に切られたようだな……。まるで……神技だ……。」
ユルーリット辺境伯はブツブツ言いながら、時折顔色を真っ青にしながら検分を進めた。
そうして粗方検分が終わったのか、スッと立ち上がってミトラーさんに問いかける。
「して、バッファウモーの死体を持ってきたのは誰だい?」
「そ、そこにいらっしゃるミスティアさんであられまする。」
ミトラーさんはそう言って私に視線を向けた。
ユルーリット辺境伯はミトラーさんの視線を追って私を一瞥してから、
「み、ミスティアっ!!?君は、いったいなんてことをっ……。」
と驚いたような声を上げた。
ユルーリット辺境伯の声が僅かに震えている。
とても怒っていらっしゃるということだろうか。
もしかして、バッファウモーは天然記念物かなにかで、保護する対象だったのだろうか。もし、そうだとしたらとても悪いことをした。
「も、申し訳ございません。私はただ……ただ……バッファモウモウのお肉が食べたくて……。バッファウモーが狩ってはいけない獣だとは知らずに大変申し訳ないことを……。」
「いや、そうじゃない。そうじゃないんだよ。ミスティア。バッファウモーはバッファモウモウの魔獣化した姿なんだ。バッファウモーはとても危険な魔物なんだよ。バッファモウモウのお肉が食べたければ私がいくらでも用意するから。だからこんな危険な真似はしないでおくれ……。私はミスティアのことが心配で言っているんだよ。それにしても、ミスティアはとても強かったんだね……。バッファモウモウを一撃とは……。いや、まさかこんなに強いとは思わなかった。私でもミスティアには敵わないのではないかと少し不安になるよ。」
ユルーリット辺境伯はそう言って私を慰めるように頭を優しく撫でてくる。
私はそんなユルーリット辺境伯の言葉に引っかかるものを感じた。
それは……。
「バッファウモーはバッファモウモウの魔獣化した姿!?なんてことっ!では、バッファウモーのお肉は食べられないということなんですのっ!?」
せっかく狩ったバッファウモーのお肉は食べられないというの。お肉が食べたい気分だったのに。
オキニスもバッファウモーのお肉を食べることを楽しみにしていたというのに、なんてこと……。
私は悲しくなって思わずポロリと涙を流してしまった。
「ち、違うっ!ミスティア、バッファウモーのお肉は食べれる。食べれるから。バッファモウモウと比べるとバッファウモーのお肉は癖があるがそれが良いという人もいるし、それに、旨味でいうと断然バッファウモーのお肉の方が美味しいんだ。だから、バッファウモーのお肉はとても人気があって……。」
「よかったわぁ。ねえ、ミトラーさん。バッファウモーのお肉を解体してくださらないかしら。あと、全部は私食べきれないので、できれば買い取りもお願いしたいのだけれど……。」
バッファウモーのお肉が食べられると聞いて私は涎をこぼしそうになる。しかも、バッファモウモウよりも美味しいというのだ。楽しみでないはずがない。
ユルーリット辺境伯の言葉を遮って私は早速ミトラーさんにバッファウモーの解体をお願いした。
「いやあ、そのぅ……なんというか……。」
「どういたしましたの?」
ミトラーさんは頬を搔きながら、歯切れの悪い返事をする。
どうしたのだろうかと私は首を傾げる。
「あまりに高価すぎて、全部は買い取れませんっ!」
ミトラーさんが平謝りをした。
なんでも、バッファウモーは強いのと、あまり姿を見せないためお肉の希少価値が高いのだとか。それこそ、貴族でないと食せないほど価値があるとか。
つまり、ミトラーさんは正規の値段で買い取ることができない。買い取ったとしても、街の人たちに売れるような値段ではないというのだ。
「それなら、ミトラーさん解体してくれませんか?そのお代としてミトラーさんのお好きなだけお肉をもらってください。余った分は、街の人たちに平等に配りたいと思います。」
ミトラーさんに買い取ってもらえなかったら、せっかくのお肉がダメになってしまう。それはもったいない。
他のお店に買い取ってもらうという方法もあるが、他の街まで移動するには時間がかかる。早くバッファウモーのお肉を堪能したいのに、それでは本末転倒だ。
それならば、と、私はミトラーさんと街の人に提案した。
「「「「「うおおおおおおおおっ!!!バッファウモーの肉が食べれるっ!!!ミスティア様バンザーイ!!!」」」」」
私の発言に街の人は一斉に歓声を上げる。
ユルーリット辺境伯だけが私の発言に生暖かい視線を送っていた。
「……脳筋か。」
ユルーリット辺境伯の独り言は大勢の街の人の歓声によりかき消えた。




