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第43話 ヒトガタ、去る


 視界をおおっていた土埃が、ゆるやかに引いていく。

 俺はヒトガタが飛んでいった岩壁を、《暗視》、《視覚鋭敏化》、《透視》のスキルを使って注視していた。


 まだヒトガタは、生きている。


 スキルによって伝わってくるヤツの確かな気配が、緊張を解くことを許さない。

 振り向くことなく、俺は背後の悠可ちゃんに向けて、ハンドサインを送る。


『ここは俺に任せて、一旦、下層から退避してください』

「…………っ」


 悠可ちゃんが頷き、後方へと下がってくれたのが《気配感知》によってわかる。これでひとまず彼女の安全は確保できた。


 素早く意識を戻し、ヒトガタの気配に集中する。


 と。

 土煙が引いた空間に、ぬらりと白い体躯が浮かび上がっていた。

 ……攻めてくるか?


 思わず俺は、腰を低くして臨戦態勢を整える。

 が。


「…………オ、……オ、マエ」

「ッ!?」


 次の瞬間、自分の耳に届いた“音”を認識し、俺は驚愕する。

 この“音”は、ヒトガタの……“声”?

 あまりの衝撃に、身体が硬直して動けない。


「オマ、エ…………オマエ……」


 声を発しながら、ヒトガタが一歩一歩こちらに近付いてくる。

 俺はたまらなく後退あとずさりたい気持ちになりながらも、なぜか足が動かない。

 むしろ逆に、ヒトガタへ吸い寄せられるような感覚すらある。


 もしかしたらこれが、未知への好奇心というやつなのかもしれない。


「オマエ……ダイ、チ。……オ、オモシロ、イ……ヤツ」

「……大地、って……え、俺? お、おもしろい? 俺が?」


 ヒトガタが一度、『ダイチ』と言ったような気がした。

 ……まさか、この短時間で俺の名前を覚えたってのか? 確かに、悠可ちゃんが真剣な声で呼んだ瞬間があったけど……。

 それにしても、である。ゾッとするほどの学習速度だ。


「オマエ……ダイチ」


 手と手を伸ばせば掴めそうな距離にまで、ヒトガタが近づいてきた。俺は逃げることも忘れて、ヒトガタを見つめることしかできなくなっていた。

 戦闘中は真紅に染まっていたヒトガタの目が、今は穏やかな青空のような色――紺碧こんぺきに彩られていた。


 意図せず、目が合う。 


「ダイチ、オモシロイ……マタ……アウ?」

「え……?」

「マタ、アウ……?」

「は、はい……」

「……マタ……アオウ」


 ふっ、と。

 ヒトガタが笑ったような気がした。


『お前、面白い。また、会おう』


 ……そういうことなのだろうか?

 まさか本当に、俺との戦闘の中で言語や感情、その他にも意図や慣習、様々なものを習得したということなのか?

 そうだとしたら、なんとも……末恐ろしいことだ。


「…………」


 しかし。

 暗闇に溶けていったその背中は、どうしてかもう。

 怖いものでは、なくなっていた。


◇◇◇


「大地さんっ!」

「おわっぷ!?」


 常に背後を気にしつつ、下層区域を脱出するや否や。

 悠可ちゃんに抱き着かれた。

 何度も何度も背後を振り返りながら戻ったので、めちゃくちゃ急に出現してきた感じ。

 死ぬほど驚いたよぉい!!


「よかった、よかったですっ!」

「はは、本当よかったです」


 抱き着いたまま、もしゅもしゅとおでこを擦りつけるようにスキンシップを取ってくる悠可ちゃん。ほぇぇ、なんか髪が甘い匂いして気を失いそうっ!


「配信の方も無事、楓乃姉さまとシルヴァちゃんがつつがなく終わらせてくれたみたいです」

「さすがギンカノコンビ。頼りになる」


 俺はヒトガタへの対応で手一杯になっていたので配信云々を忘れてしまっていたけれど、どうやら楓乃さんとシルヴァちゃんが上手く対応してくれたらしかった。

 今はすでに配信を終了し、オフライン状況だった。


「はぁ、それにしてもヒトガタに出くわしちゃうなんて……本当、大地さんと一緒だと色んなことが起きますねっ」

「はは、迷惑をかけちゃってすいません……」

「迷惑だなんてっ! 今だって守ってくれたっ!」


 言い、悠可ちゃんはようやく身体を離す。

 あぁ、天上の温もりが離れてゆく――って。


「ぶふぇらッ!?」


 俺の鼻から、大量の血が噴き出す。


「えっ!? ど、どうしたんですかっ!?」


 心配した悠可ちゃんが、再び寄り添ってくれるが、待って待って本当にちょっとだけ待って。今色々と俺の中で()()()なのです。


 俺はつい先ほどまでヒトガタと対峙していたため、かなりの興奮状態だった。

 さらに危機は去ったとは言え、警戒状態のまま戻ってきていたため、様々な《ダンジョンスキル》が発動中だった。


 その中で、ダンジョン内エチケットとして有事以外での使用は控えている《透視》のスキルを、発動したまま悠可ちゃんと合流してしまっていた。

 直前までは抱き着かれていたので、上手いこと視界に入っていなかったのだけれど――身体を離した今、まさに。


 そう、見えちゃったのです。

 その、美しきお身体がっ!!


 大事なことなので、もう一度言います。

 見えちゃったのです、色々と!! ウィロウィロとッ!!

 OPAッ! OPAッ!! 慎ましやかなッ、OPAッ!!


 OPAの中心が可憐な桃色に色づいていたけど、きっと服の中に紛れ込んだ桜の花びらかなにかだよね?(すっとぼけ)

 突き上がるように昇る鼻血を、誰が止めることができましょう?


「はぁ……はぁ……ヒトガタなんかよりこっちの方が強烈だぜ……っ!」

「えっ、なんの話ですかっ!?」

「い、いえ。なんでもありません」


 俺は静かに、《透視》のスキルを停止する。

 名残惜しさで血尿が出るんじゃないかと思うほどだが、奥歯が欠けるレベルで歯を食いしばり、煩悩に打ち勝つ。


 神々しいほど美しく、陶器のように滑らかな肌を、いつまでも俺のような凡人が盗み見ているなど、神に背く行為といって過言ではない。

 事故だったとは言え、反省、反省。


 ……もう絶対人前では《透視》を使わないよ? 使わないからね?


「あ、そう言えば。なんか俺、新しい《ダンジョンスキル》を習得したみたいです」

「えっ、どんなのですか!?」


 意識を他に向けるため、俺はさっき気が付いたことを悠可ちゃんに話す。

 興味津々のキラキラスマイルが、俺の煩悩を再び煽るが、耐える。


「……聞いても、引きません? なんかたぶん、すごい変なスキルです、これ」

「えー、絶対聞きたいっ! 引きませんから、教えてくださいっ!!」


 まだ使用していないので効果などはまったくの未知数だが、だいたいのスキルは名称でその能力・効果の想像がつく。

 その意味では今回覚えたスキルは、かなりイレギュラーなものな気がしていた。

 しかし、悠可ちゃんの笑顔の前には、何人たりとも嘘や隠し事はできないのである。


 俺は渋々、スキルの名前を答えた。


「……《対魔物交流》、だそうです」

「っ!?」


 悠可ちゃんの顔が、とびきりの驚きに彩られる。


 あ、まさか、これって。

 もしかしてだけど、魔物を仲間にできるとか?


 ……それ、どこのド〇クエよ?



この作品をお読みいただき、ありがとうございます。

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ありがとうございます!!

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