第37話 男はツラいよ、引越しミッション
「うわー広いっ! 楓乃姉さま、見てくださいっ!!」
「本当だ、すごいね、海が見える!」
悠可ちゃんの歓迎会から、一ヶ月ほどが経過した平日。
今俺は、チャンネルメンバー全員で住むことになった新居に荷物を運び込んでいた。リビングにある大きな窓からは、遠くにだが海が見える。
その窓に仲良く貼り付き、嬉しそうな声をあげる楓乃さんと悠可ちゃん。その様子は本物の美人姉妹のようで、非常に微笑ましい。マジてーてー。
ちなみに。歓迎会のあとどうなったのかと言えば。
俺はきちんと終電前に帰りました! 女性陣はみんなでお泊まり会して仲を深めたらしいけどね! 全然寂しくなんかなかったもんね! 下半身が爆裂しそうでツラかったとかまったくなかったもんね!!
……はい、すいませんツラかったです。
「大地さんは先にいくらか荷物は運んであるんですもんね? 内見にも来てくれたみたいで、ありがとうございます」
「いえいえ。動画撮る以外やることもありませんでしたから」
この一ヶ月、俺はチャンネル用にいくつか一人で動画を撮影した。
内容としては、当たり障りのないダンジョン探索の動画だ(自分の企画力の無さを痛感した)。ぶっちゃけあまり伸びなかった……ツラいお。
そんな中、この家を見つけてくれたシルヴァちゃんの代わりに、俺が実際に部屋を内見して状態や雰囲気を見ることになった。シルヴァちゃん曰く「どーせ暇っしょ?」とのこと。はい、その通りです。
チャンネルメンバー全員で同居する、ということが決まってからのシルヴァちゃんの動きは、迅速そのものだった。
各自の求める条件をまとめ上げ(と言っても条件面で一番わがままを言ったのはシルヴァちゃんだったけど)、希望に沿った物件を即座にネットで調べ、数件をピックアップ。皆の意見を聞いた上でさらに絞り込みを行い、俺を派遣して内見を済ませ、一気呵成に契約までこぎ着けた。
そんなスピード感に急かされ、俺たちも早急に引越しの手続きなどを済ませ今に至っている。楓乃さんと悠可ちゃんはこの期間かなり忙しかったらしく、俺一人で動画を撮影する羽目になったというわけだ。
なぜ俺だけ暇があったのかと言えば、女性に比べると荷物が少ない、というのに尽きる。今も続々と運び込まれている段ボールのラベルを見るとわかるが、とにかく女の子は荷物が多い。
特に、服。ものすごい量である。もう『服』って書かれた段ボール六つぐらい見たもの。ファッションショーでもするんかな? するならぜひ最前列で見させていただきたい。
「はぁー。それにしても、こんなすごいところに自分が住むなんて、思ってもみなかったなぁ」
楓乃さんが広いリビングで腕を広げ、グーっと伸びをした。胸を張っているせいでOPAの主張がすごい。形クッキリでマジどエロい。
じゃなくて。
正直、俺としてもこんなにすごいところに住むなんて、考えたこともなかった。
これから俺たちが住む部屋は、4SLDKという、一人暮らししかしたことのない人間からすると規格外の広さを誇る賃貸住宅だった。
足を伸ばして入れる浴槽に、高級ホテルの様な独立洗面台。玄関には天井までびっしり靴が入る下駄箱と、だだっ広いウォークインクローゼット。四人それぞれの個室があり、さらにフットサルができそうな広さのリビング。
タワーマンションではないのでそこまでの高さはないが、出入り口には常駐のコンシェルジュもおり、セキュリティは万全である。
ちなみに家賃は——月々三十三万円なり。
高っけぇ!!
多少バズったとは言え、まだまだ庶民である俺と楓乃さんははじめ、反対した。絶対家賃払えない、と。
だが、シルヴァちゃんが冷静に『四人で分割すると家賃八万二千五百円よ? 都心部で一人暮らしなら普通でしょ』と言われ、一瞬で納得させられた。
「わたしも、前までは事務所指定のところに住んでいたので、自分で物件を選んで住むのははじめてで興奮してますっ! あぁ、どんなインテリアをおこうかなっ、ワクワク!!」
「私もインテリアとか食器、新調したいなぁ。……そだ、悠可ちゃん一緒に買いに行こうよ」
「えー楓乃姉さまとお買い物!? なんですかそれ幸せすぎますっ!!」
新居を一通り見回り終え、キャピキャピと弾むように笑い合っている楓乃さんと悠可ちゃん。花の咲く笑顔で本当に楽しそうな様子だ。
あぁ……こんな尊い光景を、これからは同じ屋根の下、毎日見れるのかと思うと本気で不安になる。運を使い果たして明日死ぬとかないかな? 家に引きこもってた方がいいかな?
「そう言えば、シルヴァちゃんの荷物っていつ来るんでしたっけ? 私たちで運び込まないとですよね?」
と、そこで楓乃さんが、今は不在であるシルヴァちゃんを気にかけた。
俺はふと思い至り、言葉を紡ぐ。
「あー、でも俺一人でやっておくので、お二人は遠慮なく出かけていただいて大丈夫ですよ」
「え、そんな悪いです。私たちの分だってまだまだあるのに……」
「ほとんど引っ越し業者の人が搬入してくれますし、俺一人いれば十分ですよ。その代わり、お二人はこの辺のお店とか色々見て、イイトコあったら俺に教えてくださいね」
俺はニンマリしながら二人に出かけるよう促す。お忙しい中で引越しの準備をして疲れが溜まっているだろうし、ぜひこのタイミングでリフレッシュなどしてもらいたい。
「大地さん……ありがとうございます。……本当、こういうとこポイント高いよね?」
「ですです! わたしもああいうところにきゅんしましたっ!」
「え? 何か言いました?」
「「いえ、なんでもないです!」」
二人は急にヒソヒソとささやき合うが、内容を教えてもらうことはできなかった。まぁ、女性同士の秘密の会話に首を突っ込むのも野暮だな。
「じゃあ、お言葉に甘えて行ってきます。本当、ありがとうございます」
「いえいえ。むしろ人が少ない方が業者の方々もやりやすいでしょうし、気にせず羽を伸ばしてきてください」
「大地さんも無理しないでくださいね。私たちの荷物は部屋に置いてくれるだけでいいので!」
「はーい。いってらっしゃーい」
仲良く連れ立って出かけていく二人を、手を振りながら見送る。
そして、その背中が見えなくなった瞬間。
「…………っ!」
俺は一目散に自室へと飛び込み、『重要書類』と書かれた段ボール箱を急ぎ開封する。
「今のうちにッ、この『重要書類』たちをッ、部屋のどこかに完璧に隠さなければッ!!」
この『重要書類』というのは。
端的に言うと——エロ本である。
今どきは確かにスマホ一つ、FA○ZAできればいつでもどこでも一人プレイをエンジョイ可能なのだが、個人的には紙媒体には独特の良さがあると思っている。
しかも最近は期せずして超絶美女の甘い香りや柔肌、尊すぎるOPAと遭遇(?)する機会が多いせいで、マイSON(息子)共々、触れ合う機会が大変多くなっている。
それゆえ、この重要書類を見つからず、かつ出し入れがしやすいポジションに設置することは、今回の引越しにおける最重要ミッションだと個人的には考えていた。
女性陣を自然な流れで外出させることには成功した。あとは隠し場所だが、やはりベッドの下か真面目な自己啓発本の裏か……
「大地さん、なにしてるんですかっ?」
「はびゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
が。
外出用のマスクと帽子を取りに戻った悠可ちゃんに目撃され。
俺の最重要ミッションは失敗に終わり、すべてリサイクルショップへ売却処分と相成った。
あぁ……FA○ZAへの課金が増えそうな予感。
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