第33話 有名人にストーキングされる一般人
トップアイドル白金悠可ちゃんからの、チャンネル加入申請。
今後の不安に苛まれたばかりの俺としては、日本屈指の人気者である悠可ちゃんがチャンネルの仲間になってくれるというのは、大変ありがたい。
だがしかし。
前に楓乃さんとファミレスで話したときには、仲間を増やしていく、というチャンネルコンセプトでやっていくことにはなったけど、俺の一存だけでホイホイと人を増やしていいわけでもない。
それに、悠可ちゃんの意志とは言え、俺こと『新卒メット』などという、変なのがいるチャンネルに入ってしまって大丈夫なのだろうか? 今回の話は一時のコラボとは違い、悠可ちゃんに対しての世間のイメージにも、少なからず影響を及ぼすはずだ。
……うーん、考えることは多い。
結局その場で結論を出すことはせず、各々で数日考えることになった。
そして、今は帰宅途中。
「あの……大地さん」
「あ、はいっ」
俺は楓乃さんと並んで、駅までの道のりを歩いていた。考え事をしていたせいで、ほとんど無言になってしまっていたようだ。申し訳ない。
「大地さん、私って……このチャンネルに必要なんでしょうか?」
「えっ……きゅ、急にどうしたんですか?」
楓乃さんはどこか浮かない様子で、俺の服の袖口をつかんだ。
どうしたのだろう?
必要かどうかなんて、考えるまでもないことだ。楓乃さんがいてくれなくちゃ、ダメに決まっている。
「もし白金悠可ちゃんがチャンネルに入ったら、私だけがお荷物ですよね?」
「楓乃さん……」
「大地さんも、シルヴァちゃんも人気があるのに、私にはなんの数字も魅力もない。未だにただの一般人です。……チャンネルにいる意味、ないですよね?」
立ち止まり、うつむき加減に話す楓乃さん。声にはいつもの明るさがなく、元気もない。
俺は楓乃さんの方へと向き直り、正面に立つ。
「……楓乃さん」
「……はい」
「少し前にも言いましたけど、俺は楓乃さんがいたから、今みたいな生き方を選ぶことができたんです。収益が大事じゃないとは言いません。でも……それよりも楓乃さんがいてくれることの方が、大事なんです」
「…………っ」
伏し目がちだった楓乃さんは顔を上げ、上目遣いにこちらを見た。その瞳はうるんでいて、頬も少し赤い。うお……この仕草、久しぶりだ……くそエロい……!!
しかも今日は楓乃さん、ボディラインがくっきりなニットを着ているせいで、胸元のOPA(久々登場!)がばゆゆいん(?)している。
……今はそういうことじゃない!
「だから……チャンネルにいらないだなんて、そんなこと絶対言わないでください。楓乃さんがいてくれないと、俺……」
「…………大地さんっ」
「ほわぁぁぁ!?」
と、楓乃さんが急に抱きついてきた。
思わぬ展開に、俺の心臓が激しくバチビコビン(?)する。
「大地さん……あの」
「は、はひっ?」
体を離し、唇が触れそうな距離のまま、再び上目遣いで見つめてくる楓乃さん。
深めのニットの襟元からのぞく柔らかそうなOPAが、もう完全にOPAOPA(!?)している。
うん、もう俺は冷静じゃない。
「――私の家に、来ませんか?」
いつぞやのときと同じ言葉に、俺は生唾を飲み込む。
喉が、ゴクリ、と鳴った。
◇◇◇
「ア、アァ、アイツらなにしてくれちゃってんの?! きゅきゅ、急に抱きあっちゃってさぁぁ!?」
「わ、わわわ、見たらまずい、見たらまずいですよ紅坂さん!」
「とか言ってアンタ、めっちゃ指の隙間からガン見してんじゃん!!」
「あぁあぁ! わたしったら、もうっ!!」
大地と楓乃の少し後方、街路樹の背に身を隠したシルヴァと悠可が、興奮気味にじゃれあっていた。
端的に言えば、二人は今、大地と楓乃をストーキングしていた。
なぜ、そんなことをしているのかと言えば。
気になったから、であった。
「だから言ったじゃない。絶対楓乃のヤツ、抜け駆けして大地のことお持ち帰りするって!」
「いやいやでもでも、まだそうと決まったわけじゃ……」
「ってかアンタね、後から出てきて厄介なんだっつーの! アタシと楓乃でやり合ってるとこに入ってくんじゃねーし!」
「イヤです! わたしだって今までちゃんと恋愛禁止でアイドルやってきたんですから、事務所を辞めた今こそ、こういう気持ちは大事にしていきたいんですっ!!」
あーでもないこーでもない、とやり合うシルヴァと悠可。
全国的な知名度を誇る二人だが、今はお互いマスクに帽子をかぶっているためバレていない。
しかも奇声を上げている二人組、という風に見られているせいか、むしろ通行人は避けて通っているような状況だった。
と、そこで大地と楓乃が再び歩き出す。
「あーもうっ! こうなったら家までつけるわよ。アンタ、覚悟はできてんでしょーね!?」
「はいっ! 白金悠可、一世一代の追跡劇です! チェイスチェイス!!」
「こんなとこで名乗るな! このサッカー馬鹿!」
「えーうれしいっ! サッカー馬鹿だなんてっ!」
「褒めてないっつの! アホなの!?」
シルヴァと悠可の有名人コンビはこの日、はじめて追われる側から追う側となった。
ちょっとだけ……いや、かなり楽しんでいたのは、言うまでもない。
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