第27話 トップアイドル、合流す
「はぁ、久しぶりだなぁ」
久しぶりの休み。
俺は前に潜った悪夢級ダンジョンに入ダンしていた。はぁ、このジメっとした空気、落ち着く。
先日までDGDにて十日以上の連勤をこなしていたので、ノビノビと潜れる休日のありがたさが身に染みる。あぁ、やっぱりダンジョンは人の少ない夜に限るぜ!
……とか言いつつ、ここはナイトメアなので日中も人がいないけど。
「……ん?」
と。
入ってすぐの場所でストレッチをしていると、のそのそと近づいてくる気配が一つ。これはまさか。
「お久しぶりですっ」
「あ、あぁーこないだの」
気配の方を振り向くと、以前出会ったフェイスガードポニテ女子が立っていた。相変わらず、フェイスガードに縁取られた瞳が、キラキラと輝いている。天才的なアイドル様かな?
今日の服装はユーベのジャージではなく、胴が赤、袖が白のアー○ナルの長袖ユニフォームだった。胸にO2と書かれているインビンシブルズ時代のものだ。いや、マジでシブすぎだろこの子。
三十路前のおっさん世代にとっては、完全にサッカートークホイホイマシーンやん。一緒にマンデーフッ○ボール見たい。
「また会えましたね!」
「まぁ、はい」
満点の笑顔を向けられ、なぜか恥ずかしくなり、俺は後頭部をボリボリとかく。フルフェイスヘルメットだけど。
「あの……少しでいいので、ご一緒しませんか? お邪魔でなければ、ぜひお側で、色々と学ばせていただきたくて……」
「ぜ、全然、いいですけど……」
「本当ですか!? ありがとうございますっ!」
めちゃくちゃ丁寧に頼み込まれ、逆に恐縮させられてしまう俺。
今日は本業に関係もなければ、副業の配信でもない。こんなに純粋に学ぼうとする人を、誰が拒めようか。
てかあんなチワワのようなキラキラの瞳で見つめられたら、不動明王ですら優しくなって口角上がっちゃうと思う。
「じゃ、サクッと最寄りのセイフティゾーンぐらいまでいってみましょうか」
「はい! お供させていただきますっ!」
言って、俺とポニテちゃんは探索を開始した。
で。
端的に言うと。
ポニテちゃんとのツーマンセルは、非常に快適だった。
悪夢級にはDホーネット(スズメバチ)という、身体は小さいながらも致死性の毒針で刺してくる魔物がいる。こいつが非常に厄介なのだが、身体が小さめで俺なんかよりも小回りが利く彼女が迅速に対応してくれるおかげで、スイスイと探索が進んだ。
個人的に行っているマッピング(地図作成)とアイテム収集がはかどり、大変有意義な休日の探索となった。
「今日はありがとうございました。おかげさまで、リフレッシュになりました」
「こちらこそです! 新卒メットさんとの探索、すっごくやりやすかったです! 一歩一歩何気なく進んでるように見えて、実はその都度周囲を索敵したり罠も検索かけてくれるし、なにより歩きやすいように石をどかしたりもしてくれるし、本当そういうのって女子的にはポイント高いっていうか! その他にもまだ――」
「ちょちょ、ストップストップ」
「あぁごめんなさいっ、わたしったら!」
恒例のマシンガントークが開始されたので、慌てて制止する。この子は、本当にダンジョンが好きなんだろう。どちらかと言えば染みついたクセと義務感で毎日来ている俺とは違う。本当に、こういう人こそがダンジョンビジネスで成功するべきだと思う。
「……実はわたし、最近お仕事で独立をしたんですけど、やっぱり不安で……前までは、その、なんていうんでしょう。影響力のある事務しょ……じゃなくて会社にいたんです。だから与えられた仕事を一生懸命やっていれば安泰、って感じだったんですけど……」
そこでふと、ポニテ女子はうつむきがちに言った。もしかしたら、色々とたまっているものがあるのかもしれない。
俺は黙って首肯し、相槌をうつ。
「でもそういう、一部の大人が及ぼす影響力みたいなもののせいで、本当にがんばってる人や、本来その仕事をやるべき人がチャンスを失っているって知って……わたし、どうしてもこのままじゃいけないと思ってしまって。それで、グループを卒業したんです」
確かに社会では、公平で平等な競争ではなく、力を持った大人が自分たちの都合で色んなことを勝手に決めてしまうことがある。彼女は、そんな社会のルールが許せなかったのだろう。
真面目がゆえ、潔癖なところがあるのかもしれない。
それにしても……グループを卒業?
あぁ、自分がいた部署とかのことかな? 退職が卒業ってこと?
うん、そういう会社もきっとあるよね。
「わたしがチャンスを奪ってしまった人たちに対して、独立したからって罪滅ぼしになんてならないってことはわかってるんです。……けど、これからはせめて自分の力で、本当にちゃんとがんばってる人たちと正面から向き合える自分になろうって、決めたんです。だから忘れられちゃう前に、今がんばらなくちゃって、思ってて……」
ずっと誰かに話したかったのか、せきを切ったように語るポニテちゃん。
その声は少し強張っていて、気負っているのがわかる。
……心配だ。
「……俺も今、会社をやめるために色々と動いてるところなんです。会社の社長に大事な人を傷つけられたんで、退職前に仕返ししてやろうと思ってて」
「え、すごい! 社長に盾突こうなんて、尊敬しちゃいます! わたしは辞めるぐらいのことでしか、抵抗できなかったから」
「い、いやいや、むしろただの社会不適合者ですよ、はは」
俺は言いながら、自虐的に笑う。
まさか、冗談めかして言った社長にやり返すことを、肯定的に受け取られるとは思っていなかった。
彼女も色々なものを、押し殺してきたのかもしれない。
「本当憧れちゃいます……わたしずっと、事務所の社長の言いなりでしたし。信頼していた人が社長の都合でクビにされても、カメラの前ではヘラヘラ笑って……どんどん芸能界に染まってく自分も、嫌いになってちゃって。そんなときなんです、ダンジョン配信をはじめたのは」
「へぇ。じゃあある意味、ダンジョンに救われた感じなんですね」
「はい、そうなんです! だからもっともっと、ダンジョンのことを知りたいし、探索とか配信だってうまくなりたいんです!」
「そっかぁ。それは素敵ですねぇ…………ん?」
そこで、気がつく。
事務所、カメラ、芸能界?
会社にそういう名称の部署が……ってあるわけない。
俺はそこでようやく思い至り、彼女を凝視した。
暗いダンジョンの中でもキラキラと光を宿す瞳、華奢に見えるが程よく丸みのある身体、水をはじくようなきめ細かい素肌に、丹念にメンテナンスしているのであろう美しく揺れるポニーテール。
極めつけは、どんなにド派手な照明や演出にだって負けないであろう、元気湧き出る満点の笑み。
「もし違ったら言ってほしいんですけど…………白金悠可さん、ですか?」
「えっ」
思ったことを、聞いてみる。
すると彼女はあからさまに目を泳がせ、焦りの色を浮かべた。目が魚より速く泳いでいるもの。
「ごめんなさい。ぶしつけでしたね。忘れてください」
「えっと……はい、たぶん、一応……本人です」
「あー、人違いですよね。すみません、失礼してしまって……え?」
……って、え?
本人? え?
ほげええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!??
まさかのっ! マジもんのっ!
天才的なアイドル様だったッッ!!
呼吸を忘れていたのか、クラクラとめまいがしてきた。
やば。マジもんのアイドルやば。顔ちっさ。カッワエなにこれ!!
「あば、あばばば」
「あのっ、バレちゃったからもうわたし、ハッキリ言います! もっともっと新卒メットさんと仲良くなりたいし、できればちゃんとお名前を知ってもらって、連絡先とか交換したり、相談に乗ってもらったり、ダンジョントークももっとしたいし、あと、それから――」
アワアワ言ってる俺の手を取り、ブンブンと揺らしてくる白金悠可ちゃん。
あぁあぁあぁアイドルの手がやわらやわらやわらけぇぇぇ!?
あとフェイス、フェイスが近い! 顔が零距離! 威力タカスギィ!!
「――わたしとコラボ、してほしいですっ!!」
こんな風に真摯に頼みごとをされて。
誰が、断ることができましょう?
目の中に、流星群でもあるんかな?
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