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最強冒険者のグルメ旅 ~据え膳も残さずいただきます~  作者: ひだまりのねこ


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第四十八話 出発前の後始末


「え? 依頼をキャンセルしたい……ですか?」


「すまないアリスターさん、どうしてもこの街でやっておかなければならないことが出来てしまったんだ。もちろん違約金は払うし、代わりの冒険者が見つかるまで協力させてもらう」


 アリスターさんの商隊は、明後日の早朝ウルシュへ発つ。俺のせいで護衛に穴が空くなんていう事態は絶対に避けなければならない。最悪希望者が見つからなければ、俺が大金を出してでも必要な人員を雇うことも考えている。冒険者だけじゃない、ファティアの代わりの料理人も必要だ。


「そうですか……ちなみに期間はどのくらいかかりそうなのですか?」

「おそらくは数日程度だと思う」、

 

「それならキャンセルする必要はないですよ。実はこちらから出発の延期をお願いしようかと思っていたところだったんです。大変興味深い商材の仕入れを追加しようと思っていまして、もう二、三日滞在を延期することになりそうなのです。そういったわけで、こちらは数日程度遅れてもむしろ助かりますので、逆にファーガソン殿の予定に合わせますよ」


 そこまで言ってもらえるなら是非もない。ありがたくアリスターさんの言葉に甘えさせてもらうことにした。




「え? ファーガソン様に来ている指名依頼の『草むしり』、を今日まとめて全部ですか?」

「すまないが頼む」


 いつも対応してくれるローラやシンシアは、チハヤたちと街へ出ているので、ここには居ない。というわけで、初めましての受付嬢に依頼の受理をお願いする。


 にこやかに対応してくれているのは、ジルというグレーの髪をアップにしている知的な印象の女性だ。ここに来たときから思ったが、このギルド、受付嬢のレベルが高すぎる。おそらくこの子も相当の教育を受けているであろうことが伝わってくる。


「おらっ!! 早く並びな!! もたもたするんじゃないよ、このボケナス!!」


 ……まあ、約一名は別の意味でレベルが高い。


 

「でもファーガソン様って噂通りの方なんですね。私も個人的に『草むしり』依頼しちゃおうかしら?」


 どんな噂が広がっているのか聞くのは怖いのでやめておく。


「君みたいな子からの依頼なら大歓迎だ」

「やだ……本気になってしまいますよ? 明日なんてどうですか、私、御休みなんです」

「残念だ、明日は街に居ない」

「本当に残念です。戻られたら声かけてくださいね?」


 いかん……なんでいつもこういう流れになるんだ?


「それから、悪いんだが、俺の仲間たちにこれから二日ほど依頼で街を出ることを伝えておいて欲しい。出発が延期になったことも。ローラやシンシアと一緒に行動しているはずだ」 

「かしこまりました。彼女たちの行動はわかってますので、喜んでお受けいたしますわ」


 瞳を輝かせるジル。そういえば、人気のお店を食べ歩きしているんだったな。合流して楽しむつもりなんだろう。


「悪いなジル、これで好きなものでも食べてくれ」


 多忙な受付嬢に気分よく動いてもらうためにもチップは当然必要だ。相手が思っているよりも多めに渡すと喜んでもらえるので、十万シリカを渡す。

 

「ええっ!? こんなに良いんですか? やった!! これで堂々と遊びに……いいえ、外出出来ます」


 他にもいくつか頼みごとをしてギルドを出る。


 次は白亜亭だ。荷物を準備するために一度宿に戻る。



「あ……ファーガソン様っ!! 丁度良かった、実は――――」


 宿に着くと、ハンナが青い顔をして泣きついてきた。


「サラが戻って来ない――――だと!?」


 ハンナによると買い出しに出たままサラが戻って来ないのだという。


 そして先ほど宿泊客の一人が、サラが数人の男たちに連れ去られるのを目撃したらしい。


「ちっ、まさかガインが強硬手段に出たのか。ハンナ、すぐにギルドへ状況を伝えてくれ。俺の名前を出せばギルドマスターが動いてくれるはずだ」


「わ、わかりました。それでファーガソン様は?」

「サラを助けに行って、ついでにクズをぶちのめしてくる」



 白亜亭は貴族街の入り口にあるので、そのままガインの屋敷を目指す。事前に場所を調べておいて本当に良かった。


 正門から力づくで強行突破しても良いのだが、これから街を空けるのに必要以上に騒ぎを大きくしてマリアに迷惑をかけるわけにはいかない。警備の緩い裏口からすばやく侵入する。


 頼む、間に合ってくれよ。





「ガイン様、や、やめてください!! これ以上は本当に領主さまに訴えますよ?」


「ふん、強情な奴だな。だが無駄だよサラ。教えてやろうか? 今の領主はまもなく交代になる。そして次期領主は我らがアンドレイ様だ。これからは我々がこの街を牛耳る。私の天下がやって来るのだよ。サラ、いい加減俺のものになれ。そうすればお前も今より何倍も良い暮らしや贅沢が出来るんだぞ?」


「……死んでもお断りです。貴方のように権力と力が無ければ何も出来ない卑劣な人間とは口も利きたくありません。恥を知りなさい!!」


「貴様……大人しく言う事を聞いていれば……まあいい、たっぷり時間はある。じっくりと理解させてやるさ。誰がお前の主人なのかをな」


「……必ず後悔しますよ。だってファーガソン様がそんなことを許すはずがありませんから!!」

「ああん? ファーガソン様? 誰だそいつは」


「俺だよ、クソ貴族」


「なっ!? 貴様……一体どこから? 警備は何をしていたんだ、誰――――ぶへらっ!?」


 部下を呼ばれても面倒なので引っ叩いて黙らせる。信じられないぐらい弱いな……軽く引っ叩いただけで気絶しやがった。


「大丈夫か、サラ」

「ファーガソン様……信じていました、必ず助けに来てくださると」


 気丈に振舞ってはいたが、恐ろしかったに違いない。涙ぐんで胸に飛び込んできたサラをそっと抱きしめる。


 間に合って良かった。


「サラ、服が破れているじゃないか!!」

「え? ああ、抵抗した時に破れたんですね……」


「新しい服を買わないとな。コイツから慰謝料もらっておくか……なんだ五万シリカしか持っていないとはしけてるな。仕方がない、この趣味が悪い指輪を二、三個いただいておこう。素材は良いから少しは足しになるだろ」


「あの……こんなことをしてしまって大丈夫でしょうか?」

「問題ない。奴には幻の次期領主さまと一緒に牢屋に入ってもらうからな」


 ガインは縄で縛って屋敷の目立たない隅っこに埋めた。家人が気付く頃にはギルドやマリアも動いてくれるはずだ。 

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