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最強冒険者のグルメ旅 ~据え膳も残さずいただきます~  作者: ひだまりのねこ


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最終話 合同結婚式


「はあ……酷い目に遭いました」


 レーヴのコレクションを延々と見せ続けられたセレスは疲労困憊だ。


「でも今日はおかげで助かったよ、ありがとなセレス」

「そうですね、エステル姉さまも無事で本当に良かったです。まさか……本当の姉になっているとは思いもしませんでしたが」


 喜びつつも苦笑いするセレス。


「俺もめちゃくちゃびっくりしたよ。普通に姉上で通じるからまさか血が繋がっていないとは想像もしてなかった」


 姉上は幼い頃から俺の養育係兼幼馴染としてイデアル家に滞在している時間が多かったらしい。そのため俺がエステルのことを姉上と呼ぶのは皆が知っていることで、婚約者となった今でもその癖が抜けていないということで気にする者は本人含めて誰もいなかった。


 ちなみに俺と姉上の昔の記憶は今のエステルにも同じように受け継がれている。変える必要のない部分は極力そのままで――――というのが事象改変の凄いところなのだろう。ただ、大人になってからのエステルのことは当然俺も知らないわけで――――これから少しずつ知っていきたいと思っている。


「でも――――良かったですね先生」


 謁見の後、二人で色々調べた結果――――大きく変わっていることがいくつかあった。


「そうだな……まさかイデアル家が存続しているなんてな」


 たしかにエステルの事件が無ければイデアル家が潰される理由がない。そもそも王家から王女が派遣されるほど良好な関係を築いていたのだ。となれば、まだ確認は出来ていないが――――父上や母上も生きている――――可能性が高い。


「それに――――セリーナも」


 セレスが嬉しそうに微笑む。


「ああ……本当にな、早く伝えてやりたい」


 イデアル家が存続していることで、同じようにブレイド家も存続している。残念ながらセリーナの父や兄が戦死したのは改変する前の出来事なのでそれは変わっていないけれど、少なくとも母親は生きているはずだ。 


 まだ詳しくは確認していないが、大きな変化はそのくらいで、後はほとんど変わっていない。セラフィルが言っていた通り、極めて限定的な改変に留まっているからだろう。なぜ家が存続しているセリーナが冒険者になったのか、など疑問はあるものの、それは俺も同じこと。事象改変は現在の状況に集束するように強制力、修正力が働くそうなので、まあ……そういうことなのだと納得するしかない。

 

 改変前の記憶については、事情を知っているメンバー全員そのままとなっている。これは神獣たちが気を利かせてくれたことに加えて、チハヤが頑張ってくれたこともある。その点に関しては感謝しかないのだが。




 王国歴1040年8月13日――――


 王都にて救世の英雄ファーガソンと勇者シバの合同結婚式が執り行われる。


 この世紀のイベントを一目でも見届けるために大陸中から人が集まり、王都はとんでもない熱気と喜びの空気に包まれていた。


 街の至る所で吟遊詩人による英雄ファーガソンと勇者シバの物語が吟じられ、劇場では二人とその恋人たちの演目が歴史的な興行成績を記録し続けていた。



「まさか……お前と一緒に結婚式を挙げることになるとはな……」


 真っ白な正装に着替えさせられながら、シバは苦笑いする。


 一方のファーガソンはと言えば――――隣でメイドたちの着せ替え人形と化していた。


「ああ……まったくだ。お前と結婚するんだと勘違いした女性たちから散々突撃されて俺はもう疲れたよ……」

「ああ……それな? 俺も同じだよ……まったく腐女子どもはどこの世界にもいるものだな」

「フジョシ? なんだそれは?」

「気にすんな、男同士のカップルが好きな連中のことだよ」



「勇者シバさま、奥方さま方の着替えが終わりましたのでこちらへ」

「わかった、じゃあなファーガソン、俺は先に行くぞ」

「ああ、また後でな」


 シバの準備はすぐに終わったというのにおかしい――――とファーガソンは訝しむが、今日は彼の優秀なメイドたちは参列者として参加しているのでここにはいないのだ。もちろん、ここにいるメイドたちは王国最高峰の者たちばかりではあるのだが、それゆえに最高の素材が与えられたことでプロ意識に火を点けてしまった。


 だが問題はそこではない。問題はファーガソン自身の魅力が破壊力抜群なことで、メイドたちがヘロヘロになってしまい動けなくなってしまったことだ。これでは準備が終わるはずもなく――――


「まったく……こんなことだろうと思ったよ」

「エレン……来てくれたのか!!」


 ミスリールの女王でファーガソンの前世からの妻であるエレンは、今回の結婚式には参加しないが、皆の晴れ姿を見ようとお忍びで王都までやってきていた。


「仕方ないね、私がやってあげる」


 ファーガソンの魅力にやられて使い物にならないメイドたちに代わって、エレンが手慣れた手つきでファーガソンを整えてゆく。


「うん、さすが私の旦那さまは良い男!! どこに出しても恥ずかしくないね」


 頬にそっとキスを落として微笑むエレン。


「ありがとうエレン、愛してる」

「知ってる。私も愛してるよファーガソン。でも今日だけは花嫁さんのことだけ考えてあげないと駄目だからね?」

「ははは、わかってるさ」



「英雄ファーガソンさま、皆さまの準備が整いましたのでこちらへ」


「わかった、それじゃあエレン、今度はミスリールの結婚式でな、今日は楽しんで行ってくれ」

「実は皆で来てるんだよ、今日は話す時間は無さそうだけど、遠くから見守ってるから!!」


 エレンに見送られながら部屋を出たファーガソンは、そのまま新婦たちが待つ控室へと向かう。


 ファーガソンは忙しい。今日、王都で結婚式を終えた後――――来週にはミスリールで、エレン、エリン、フリン、アルディナ、カリン、ミリエル、フィーネ、ティア、ルーイ、そしてシルヴィアとの結婚式を執り行うことになっている。その後も――――フレイガルド、帝国、魔王国、さらにはホウライ各国の王女、皇帝との結婚式も控えているのだ。そしてさらには――――私たちも結婚式がしたいと言い出した神獣やセリカとも結婚式をする羽目になってしまった。


 さすがのファーガソンも、当分結婚式はお腹が一杯となるハードスケジュールだ。




「ファーガソン、どうですか?」

挿絵(By みてみん)


「とても綺麗だ姉上……このまま永遠に眺めていたい」

「もう……結婚式の時ぐらい名前で呼んでください」

「あ、ああ……綺麗だよエステル」

「ふふ、ありがとうございますファーガソン」



「先生……私はどうですか?」

挿絵(By みてみん)


「セレス……まるで美の女神エスフィアが降臨したのかと思った」

「まあ……そんなことを聞かれたら女神さまに嫉妬されてしまいます」



「ファーギーどうかな? ウエディングドレスって憧れてたんだよね」

挿絵(By みてみん)


「チハヤ、お前は本当に可愛いな……このまま攫ってしまいたい」

「んふふ~、ファーギーもカッコイイよ!!」



「ファーガソンさま……どう……ですか?」

挿絵(By みてみん)


「ああ、とても似合ってるよセリーナ、まるで女神イラーナの化身だ」

「嬉しいです……剣が無いのが少し手持ち無沙汰ですけれど……」

「ははは……まあ今日ぐらいは、な?」



「ファーガソンさま、本当に私もご一緒してよろしかったのですか?」

挿絵(By みてみん)


「当たり前だろマリア、こっちこそ俺の妻になってくれてありがとう」

「礼を言うのはこちらの方です。一生愛し続けますわ」



 今回の合同結婚式に参加するのは、聖女であるチハヤを除けば王国出身の貴族だけだ。元々貴族以外には結婚する習慣が無い。貴族以外の人間にとって、大勢の前で長時間笑顔を浮かべながら対応したりパレードしたりするのは苦痛でしかないのだ。



「くっ……悔しい……私も参加したかったわ」


 リュゼが悔しそうにしている。


「悪いなリュゼ、お前が成人したら絶対に結婚式しような」

「約束よ……ファーガソン」

「ああ、約束だ。それに考えてもみろ、俺もお前も相手を独り占め出来るんだぞ? そっちの方が良いんじゃないか?」

「それもそうね……なんだか私が勝者な気がしてきたわ!!」


 みるみる機嫌が良くなるリュゼ。


「ふふん、まあ……ファーガソンさまを独り占めするのは私たちが先ですけどね!!」


 双子の片割れマギカがリュゼを挑発する。双子とはいえ、二人で独り占めというのが正確な表現なのかはともかく。


「ちょっと待ちなさいよ!! なんで私と同じ歳のマギカとマキシムが先に結婚式するのよ!!」

「あはは、魔族はね、十四歳で成人なんだよ!! 残念だったねリュゼ」


「きいいっ!! そんなのズルい!!」


 マキシムの言葉にショックを受けるリュゼ。


「ふふふ、すまないが、ファーガソンを最初に独り占めするのは私だ」

「ぐぬぬ……フレイヤ」


 そう、順番的に一番最初に単独で結婚式を挙げるのはフレイヤだ。彼女が王国での合同結婚式に参加しなかった最大の理由でもある。



「お嬢様、結婚式などどうでもいいではありませんか」

「ネージュは結婚式したくないの?」

「獣人族にそのような風習はございませんし、煩わしいだけです。そのような時間があるのでしたら……その分ファーガソンさまと二人だけで過ごす時間が欲しいですね」


 他種族と比べて寿命が短い獣人族は時間を無駄にすることを好まない傾向がある。


「私もファーガソンさんの側に居られるだけで十分幸せですから特に……」


 近くで聞いていたファティアもネージュに同意する。


「く……これじゃあ私がわがまま娘みたいじゃない。まあ……たしかに二人の言う通りそれは私も同じだけど。でもね、私は絶対にウエディングドレスが着たいのよ!!」


 リュゼが懸命に主張する。


「それならうちの商会でウエディングドレスのレンタルと二人の肖像画セットプランやってますよ、リュゼノワールさま。私は結婚式は面倒くさいけどウエディングドレスは着たいのでそのプランで済ますつもりです」


 このレンタルプランは、リリアが前世の記憶を元に考案したものだが、貴族文化に憧れる貴族以外の富裕層に大人気となっている。最近では貴族の間でも、経費削減のためにこっそり申し込む例が後を絶たない。


「たしかにそれも良いけど……やっぱり皆にファーガソンと私を直接見てもらって、祝福してもらいたいの!! あ……そうだ!! 良いことを思い付いたわ。お父さまにお願いして王国の成人年齢を引き下げてもらえば良いのよ!!」


 自らの閃きに瞳を輝かせるリュゼを見て、ファーガソンは、あのフェリックスなら本当にやりかねないと内心焦り出す。


「なるほど……その手がありましたか……これは我が国も急ぎ導入しなければ……」


 更には、トライデントのアリエス王女までがとんでもないことを言い出し――――ファーガソンは、自分のせいで世界の成人年齢が引き下がったりしたら責任取れないと頭を抱え始める。


「ま、待て、それなら結婚式だけ先にすれば良いんじゃないか? 厳密には結婚式ではなく婚約式だが――――本番含め二回式が出来るしお得だと思うぞ?」


「なるほど、そういうことなら……」

「そうですね……それなら……」


 なんとか納得してくれたみたいだと安堵するファーガソン。が、そのせいでますます殺人的なスケジュールになってしまうのだが――――本人はまだそのことに気付いていない。

 


「そうだ!! ところで新婚旅行なんだが、せっかくなら皆でトライデントにグルメ旅行っていうのはどうだ? アリエスも久しぶりに里帰りしたいだろ?」


「「「「「賛成!!!」」」


 この世界で新婚旅行というものは一般的ではないのだが、リリアの影響で王国では近年急速に根付きつつある。そしてチハヤが皆の前で新婚旅行の話をしたことがきっかけで、どこかへ行こうということだけ決まっていたのだ。



「皆さまご準備はよろしいですか? それではご入場お願いします」


 次の旅行の目的地が決まったところで、タイミングよく係の人間が呼びにやってくる。


「それじゃ行こうか皆!!」

「「「「「はい!!!」」」




「ん? どうしたのファーギー、考え事?」

「いや……今日は俺が愛する者たちの笑顔があふれているな、と思ってな」

「んふふ、だったらファーギーも笑っていないと、ね?」


「そうだな、ふふふ、お前の言う通りだチハヤ」


「姉上、俺は……もっとその輪を広げていきたいです」

「ええ、もちろん出来ますよ、一緒に広げていきましょうね。あと……姉上じゃないと何度言えば……」

「ははは……すいませんエステル」


「セレス、俺はこの国が――――この大陸が――――この世界が笑顔にあふれた幸せで満ちて欲しいと思ってる」

「そうですね……私も同じです。先生の隣で同じ景色を見たいと思っていますよ、必ず実現しましょう!!」


「俺一人の力では難しいかもしれない。でも――――皆と一緒ならきっと出来る。これからも力を貸してほしいんだセリーナ」

「私の剣と力のすべてはファーガソンさまのためにあるのです。今更ですよ、ふふふ」


「焦ることはないのですよ、ファーガソンさま。私たちの旅はまだ始まったばかりなのですから、ね」

「そうだな……これからはずっと一緒に旅が出来る。それがたまらなく嬉しいよ、マリア」

「ええ、私もですわ……ファーガソンさま」


 

 ファーガソンたちは知らない。


 この日――――天上の神々が彼らの結婚式を見るために降臨していたことを。


 そして――――そのあふれんばかりの祝福の光は――――


 太陽ととも大地に降り注ぎ――――雨となって海に溶け込んだ。


 風となって余すところなくこの星を巡り――――月の光とともに生きとし生けるものを優しく包み込む。


 

 この歴史的な日――――少なくともこの日だけは――――世界はあまねく癒され――――笑顔と幸せに満ちていたのだ。


 

 完

ご愛読ありがとうございました。これにて本編完結となります。

気付けば約70万文字の大長編になってしまいました(;^_^A ファーガソンの旅に最後までお付き合いくださった皆さまの人生が、笑顔と幸せに満ちたものであることを。そして願わくば――――この作品が皆さまの心の片隅で生き続けてくれますように――――


ひだまりのねこ

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