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最強冒険者のグルメ旅 ~据え膳も残さずいただきます~  作者: ひだまりのねこ


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第二百六十五話 事象改変

『それでは我は準備をするゆえチハヤを呼んでくるのだ』


「チハヤを?」

『うむ、神獣たる我らが行うわけにはいかないのでな、実際に行使するのは聖女たるチハヤの仕事だ』

「わかった、チハヤに頼んでみる」

『その必要はない、すでに話は通してある』


 いつの間に……だが――――ありがたい。チハヤにもきちんと礼をしないとな。


『チハヤだけではないぞ? お前の仲間たち全員知っていることだ』

「ど、どういうことだ?」


『ファーガソン、実はな、お前の代償だけでは足りなかった分、皆が少しずつ負担してくれたのだ。話をしたら全員喜んで協力してくれた。良い仲間を持ったな』


 そうだったのか……みんなが……


「は、母上っ!! わ、私にも何かお手伝いできることは無いのですか?」


 話を聞いていたセレスが焦ったように食い下がる。自分だけ役に立てないなど許せないのだろう。


『セレスティア、お前には魔法を行使する間しっかりとエステルを支えてもらいたい。他の者では不可能な大変な役割だがやってもらえるな?』

「無論です!! このセレスティア、見事にその役目を果たしてご覧にいれます!!」

『うむ、頼んだぞ』





「ファーギー、私、絶対に成功させてみせるから!!」


 いつになく気合十分なチハヤ。


 事前にセラフィルから『事象改変』の魔法は本来人間が使えるものではなく、チハヤの肉体に多大な負担をもたらすのだと聞かされているにもかかわらず彼女は気にした様子もない。本当に……ありがたくて涙が出てくる。


『安心して。私がバッチリサポートしてあげるんだから』

「ありがとうフィアライト」


『ふん、フィアライトでは不安だろう? 私がいるのだ、大船に乗った気でいろ』

「ああ、頼りにしているよエメラルダ」


『ふふ~ん、だいじょうぶだからね、ふぁーがそん? アズがついてるんだから』

「アズライト、お前がいてくれるなら安心だ」


 なにしろ一部とはいえ世界を書き換える大規模な行為をしようというのだ。セラフィルだけでも出来ないことはないらしいが、より影響を抑え、安定させるために四神獣が一堂に会してくれた。



『それではいくぞ、聖域展開!!』


 四体の神獣が四方から聖域を展開してゆく。


『続いて座標固定、よし。いいかセレスティア、絶対にエステルを離すではないぞ?』

「わ、わかりました!!」


 絶対に離すまいとしっかりと姉上を抱き抱えるセレス。俺は――――こうして見守る事しか出来ないことが歯がゆい。


『チハヤ、後は頼んだぞ』

「了解!! いっくよ~!! しっかり持ってね、私の身体!!」


 チハヤの身体からこれまで感じたことがないほどの魔力の奔流があふれ出す。無尽蔵に思える彼女の魔力を根こそぎ使い切ってなおギリギリだという事象改変というおそろしい魔法。成功を祈りつつも、チハヤの身体が心配でたまらない。


『大丈夫じゃ。お前はトレースさまのお気に入りだからの』


 トレースさま? もしかして運命の女神トレースのことなのか?


 そうしている間にも――――チハヤの詠唱が始まった――――


 

 我は全存在をもって祈りを捧げる 運命の女神トレースよ 汝の力を我に与えたまえ


 時空を超越し 運命の糸を辿り 世界を再編することをどうか赦したまえ


 開かれし扉の向こう 虚ろな未来に救いの光を与え


 運命の風車を廻し 過ぎ去りし負を浄化せしめるために


 魂の契りを糧に 哀しみの鎖を断ち切り 新たなる希望の楔を打ち立てよ


 失われし日の残響 泡沫の如く儚く散れ 全ては新たなる幕引きへ



 ―――― 事 象 改 変 ――――








「どうしたんだファーガソン、せっかくキミからもらった茶葉で淹れた紅茶が冷めてしまうぞ?」


 え……? レーヴ? ここは――――白獅子宮か……?


「あ、いえ、すみませんいただきますね」


 隣に居るセレスに視線で助けを求めるが、彼女も同じように困惑しているようで、小さく首を振る。


 おそらくは事象改変の影響なのだろうが――――とりあえず話を合わせつつ様子を探るしかない。


「す、すみません父上、私も少しボーっとしていまして……何の話をしていたのでしたっけ?」


 ナイスだセレス、助かった。


「本当にどうしたんだ二人とも? まあいい、来週の合同結婚式の話だ。国内はもちろん大陸中から来賓が来ているからな、今からそんな有様だと本番で持たなくなるぞ、ハハハ!!!」


 ご機嫌な様子で楽しそうに笑うレーヴ。


 それにしても……合同結婚式? なんだそれは……もしやイベントそのものの内容まで変わってしまっているのか?


 参ったぞ……ここまで状況が変わっているとは思わなかった。さて、どこから探ればいいものやら……。


「あの……父上? つかぬことをうかがいますけれど神獣の乙女のことは覚えてらっしゃいますか?」


 悩んでいるとセレスが思い切って斬り込んでくれた。これで姉上のことが少しはわかるかもしれない。チハヤの魔法が発動したことはこの状況からいって間違いないが――――


「セレスティア……本当に大丈夫か? どこか具合が悪いのなら休んできた方が……」

「い、いえ、全然大丈夫です!! この通り元気ですのでっ!!」


 どうやらあまりにも変な質問過ぎたらしい。レーヴの反応を見た感じ、知らないというよりは……なぜそんな当たり前のことを聞くのかといった風に映った。ならば――――


「お父さん、姉上はどうしてますか?」


 直球で尋ねた方が早い。


「ああ、エステルならそろそろ来るはずだが――――」



「お待たせしました~!!」

「おお、噂をすればなんとやら、丁度来たみたいだぞ、ん? どうしたんだファーガソン」


 この声……間違いない――――姉上だ。


 心臓がバクバクして息苦しい。あれほど望んだことなのに――――怖い。


 どんな顔をして会えば良いんだ? 


 俺が知っている姉上じゃないんだ……一体どうすれば……?



「ごめんねお待たせしちゃって。あら、セレスったらなんて顔して見てるの? 何か私の顔に付いてるのかしら……ねえファーガソン? って、ファーガソンもどうしたの?」


 ああ……駄目だ……これ。


 何気ない顔して話すなんて出来るわけない――――姉上が歩いて――――呼吸をして――――話をしている。俺のことをファーガソンって――――呼んでくれた。すっかり大人の女性になって――――びっくりするぐらい綺麗になって――――その笑顔も――――困っている表情も昔のままなにも変わっていない――――姉上がそこにいるんだ。


「ち、父上、ちょっと秘蔵のコレクションを見たくなったのですが!!」

「ん? そうか、仕方ないな。エステル、ファーガソン、ちょっと席を外すぞ」


 セレスが気を遣って二人にしてくれた。


「あ、はい、ごゆっくり~。あ、そうだ……あのね、王都で話題のスイーツを買って来たのです。一緒に食べ――――」


「――――姉上!!」

「ふぁ、ファーガソン?」


 もう我慢できなかった――――姉上を抱きしめてしまった――――その体温を――――鼓動を――――温もりを確認したかった。


「あらあら……どうしたのですかファーガソン? 怖い夢でも見たの?」

「ああ……とても怖い夢をみていた……長い間ずっと……」

「そう……それは怖かったですね……もう大丈夫ですよ、ファーガソンがとても強い子だってことは私が一番知っていますけれど――――辛いときはいつでも甘えてくれていいのですよ……よしよし」


 突然泣き出した俺を――――姉上は優しく抱きしめてずっと頭を撫でてくれた。


 少しずつ冷静さが戻って来て――――同時に羞恥心がむくむくと湧き上がってくる。


 危なかった……セレスが気を利かせてくれなかったら――――レーヴの前でこの姿を晒していたに違いない。



「あ、姉上、もう大丈夫です」


 慌てて離れようとしたが――――


「駄目ですよ、まだ万全ではないのでしょう? 遠慮せず大人しく私に撫でられていなさい」

「で、ですが……レーヴにこの姿を見られたら――――」


 想像しただけで死ねる。


「ふふふ、そんなことを気にしていたのですか? 大丈夫ですよ、父上はコレクションのこととなると鬱陶しいくらい夢中になりますから。当分戻ってこないと思いますよ」 


「それなら良かった――――って、姉上……今、レーヴのことを父上って……?」

「ん~? 私、何か変なことを言いましたか? 父上は父上ですけれど?」


 そうか……冷静に考えたら姉上はとっくに結婚している年齢だ。


 ということはつまり――――姉上は王子の誰かと結婚したということか……。宰相のヴィクトールがどうなったかわからないが、姉上が生きているということはあのクズ野郎とは婚約していないわけで――――


 

「そ、そういえば旦那さまとは上手く行ってるの?」

「へ? ず、ずいぶん変なこと聞くのですね……? なんだか恥ずかしいですけど……上手く行っていると思いますよ?」


 恥ずかしそうにこちらを見る姉上の顔は真っ赤になっている。


 ああ……こんな表情の姉上は初めて見た。なんか悔しいけど……幸せそうで嬉しいよ。


「ははは……ごめんなさい姉上、変なことを聞いてしまって」

「本当ですよ!! 何を言わせるのかと驚きました……」


「あはは、それにしても良かった。姉上はその人のことが本当に好きなんですね」

「ちょ、ちょっとファーガソン? まだその羞恥プレイを続けるのですかっ!?」


 ますます真っ赤になってわたわたしている姉上が可愛らしくて仕方がない。


「別に良いじゃないですか、そんなに恥ずかしがらなくたって」

「恥ずかしいに決まってます!! 本人を目の前にしてそんなこと言わせるなんて――――ファーガソンは本当に意地悪ですね」


 思い切りジト目で睨みつけてくる姉上。


「――――え? 本人? 目の前?」


「そうですよ、それにいくら来週結婚するからって――――旦那さまとか……少し気が早いのではないですか?」


 今度は恥ずかしそうに目を逸らす姉上。


「ちょ、ちょっと待って……もしかして俺と姉上が――――結婚するのですか?」

「はあ? 今更何を言っているのです? 今日だって来週の合同結婚式の打ち合わせに来たのではないですか。今日のファーガソンなんだか変ですよ?」



 ええええっ!? 何がどうなって――――こうなった??  


 たしかにもはや俺が知っている姉ではないって言ってたが――――そういうことかああ!?

 

ちょっと長くなってしまいましたが――――愛しの姉上も無事ヒロインの仲間入りしてめでたしめでたし(´艸`*)


次回はいよいよ最終話です。ここまでお付き合いくださった皆さまには感謝しかありません。

ちょっぴり寂しさもありますが、私らしくハッピーエンドで終幕といたしますよ(≧▽≦)


それでは皆さま、次回最終話でお会いしましょう(*´▽`*)


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