第二百六十一話 シスコンお兄ちゃん
「紹介するよ千早、ファーガソン。パーティメンバーのセイランとミヤビだ。トウガは――――紹介する必要ないよな?」
勇者シバと三人の仲間たちとエリン、フリンを加えたメンバーが揃って同じテーブルに顔を揃えている。
ここはエリンが手配してくれたギルドの特別室。厳重に守られているので盗聴される心配も無く話をすることが出来る。
「まあ……本当にシバさまそっくりで……お可愛いです!!」
「ああ、本当に可愛いな……シバの妹とは思えねえ……」
「えへへ、ありがとう」
ミヤビとセイラン……感想は同じなのに言っていることが真逆だな。
「私は神官のミヤビです。公にはしていませんが元帝国の皇女なんですよ」
「あ、カグラが言っていた姉というのはミヤビのことだったのか!!」
仲の良い姉が出奔したと言っていたが、まさか勇者のパーティーメンバーだったとはな……。
「え!? カグラを知っているんですか!! あの……あの子は今どこに?」
おそらくずっと気にしていたのだろう、妹を心配する姉の顔になっている。
「ああ……えっと……話すと長くなるんだが、今は帝国で皇帝をやっている」
「……へ? カグラが……皇帝? 意味がわからないんですが……?」
「ははは、まあ……その話はまた後で、な?」
「そうだよ、それよりチハヤとファーガソンはどんな関係なんだ?」
セイランが興味津々な様子で尋ねてくる。
「保護者兼パーティメンバーだな」
現状を表すなら一番無難な答えがこれだろう。
「え? 何言ってんのファーギー、恋人で婚約者だよ?」
ぶふぉっ!? 俺とシバが同時にコーヒーを噴き出した。
「ちょ、ちょっと待てファーガソン、それは本当なのか?」
「いや……はっきりとそう言ったわけじゃないが……いずれはと思っている」
「くっ……ま、まさか……手を繋いだりしていないだろうな?」
「お兄ちゃん……今時小学生でも手ぐらい繋ぐよ? 恋人なんだから当然キスぐらいしてるって」
「な、なななな……き、キス……だと!? 俺だって千早としたことないのに……」
「お、お兄ちゃんっ!? 兄妹はキスしたりしないんだよ?」
「シバさま……さすがにそれはないかと」
「うわっ、シスコン拗らせすぎだろシバ!!」
「そ、そうなのか? 俺は子どもの頃、姉上にいつもキスされていたが……?」
「ほ、ほら見てみろ、俺は間違っていない!!」
「姉と弟なら仕方ないです」
「ファーガソン可愛いし仕方ない」
「ぐはっ!? 理不尽すぎる……」
すまんなシバ、助けになれなくて。
「ち、畜生……こうなったら一発殴らせろファーガソン!!!」
まあ……気持ちはわかる。大切な妹を俺なんかに取られたんだ。一発ぐらいなら甘んじて受けてやるか……。
「わかった、来いシバ!!」
「良い覚悟だファーガソン!! 喰らえ勇者の力を!!!」
う……シバの奴、割とマジで殴る気か……よく考えたら勇者の一撃ってヤバいのでは? 念のためライオニックオーラでガードを――――
「この、シスコンお兄ちゃん!!!」
「ぶへらっ!?」
拳を振り上げたシバの顔面にチハヤの鉄拳がめり込んでそのまま吹き飛ばす。
「あはは!! さすが聖女だよね、勇者の無敵障壁も完全無効化してる」
「加えてチハヤちゃんは異世界チートの怪力ですからね……シバくん生きてるかしら?」
エリンとフリンがこらえきれずに笑いだす。
「もしかして聖女って勇者の天敵なのか?」
「もちろんだよ。勇者が暴走したら困るでしょ? そのための聖女というわけ。よく出来てるよね」
「シバさま……自業自得です」
「うんうん、愛する妹の鉄拳制裁、シバもあの世で喜んでいるだろう」
……まだ死んでないぞセイラン。
「まあ……仲の良いことは良いことだな」
トウガは我関せずでコーヒーを口にするのであった。
「今日はチハヤちゃんとデートなんだよね? それじゃあごゆっくり」
「ああ、悪いなエリン、久しぶりに会えたのに」
「別にいいって、それよりマリアもファーガソンに会いたがっていたからちゃんと時間作ってあげてね?」
「了解した」
皆と別れて再びチハヤと二人きりになる。
「でも良かったのか? せっかく再会できたんだ、兄妹水入らずで話したいこととかあったんじゃないか?」
「ううん、それならこれからいつでも出来るから。でも――――」
ファーギーとの時間は今しかないから
いつになく距離が近いチハヤにドキリとしてしまう。
「ねえファーギー……私たちも――――いけないこと……しちゃおうか?」
ごくり……
「それって……良いのか?」
こくりと頷くチハヤの瞳が熱っぽく揺れて――――密着している身体は熱を帯びている。
「……王都で一番の宿を貸し切りにしよう」
「ば、馬鹿……ファーギーってば張り切り過ぎ……だよ?」
しかし、全国から人が集まっているこの時期に部屋が空いているはずもなく――――
結局悩んだ挙句、ミスリールの首都エルミスラの高級宿へ向かう二人であった。
――――翌日
「お待ちしておりましたファーガソンさま」
出迎えたのは灰色の髪をおさげにした赤目の眼光が鋭いメイド。マリアのメイド長兼護衛のアリシアだ。
「久しぶりだなアリシア、元気だったか?」
「はい、私もマリアさまもこの日を指折り数えておりました」
熱っぽい視線に照れくさくなってしまう。そこまで再会を熱望されていたとは男冥利に尽きるというものだ。
「お久しぶりですわ、ファーガソン様」
相変わらず美しく妖艶で――――それでいて少女のように可憐だ。
「マリア……少し痩せたか?」
「慣れない旅でしたので少し。ですが、こうしてファーガソン様と再会できたのですから苦労した甲斐がありましたわ」
マリアに対する愛おしさが溢れ出して思わず抱きしめてしまう。
「まあ……相変わらず情熱的ですわね……このまま寝室へ連れて行ってくださって良いのですよ」
言われなくともそうするつもりだ。だが――――
「だが――――本当に良かったのか?」
「ええ、もちろん構いませんわ。もちろん二人きりでお会いしたかったですが、一刻も早くこうしたかったのですから」
「というわけだから遠慮なく」
「楽しみ過ぎて昨日は寝付けませんでしたよ?」
エリンとフリンがすでにベッドで待機している。
「マリアさま……本当に私もご一緒して良いのでしょうか?」
「良いのよアリシア、貴女には私のすべてを知っておいてもらいたいの」
「アハハ! ファーガソンこそ四人相手なんて大丈夫なのかな~? ただの四人じゃないよ、全員飢えた獣だよ?」
ニヤニヤとエリンが挑発してくるが――――
「ふふ、お前たちと別れた後に俺は進化を遂げたからな!! 今なら四十人が相手でも大丈夫だ、今夜は寝かせるつもりはないぞ?」
「さっすがファーガソン!! じゃあお先っ!!」
すかさずエリンが飛び込んでくる。
「ああっ!! ズルいですエリン!!」
「抜け駆けは許しませんよエリン!!」
フリンとマリアも負けじと参戦してくる。
「ええぇ……この中に入って行くとか……無理なんですけど……」
そんなアリシアのつぶやきが聞こえたような気がしたので、強引に抱き寄せる。
「ふぇっ!? ふぁ、ファーガソンさま!?」
今夜は――――長い夜になりそうだな。




