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最強冒険者のグルメ旅 ~据え膳も残さずいただきます~  作者: ひだまりのねこ


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第二百五十五話 海と言えばスイカ割りだよね 


「チハヤ、これを見て!!」


 リリアが自慢げに披露したのは、人の頭を二回りほど大きくしたくらいの丸い物体。


「そ、それは……まさか……スイカ……なの!? でもこの世界にはスイカは無いってリリアが……」


 色合いが黒地に赤い模様が入っていることを除けば、見た目は完全にチハヤの知るスイカそのものである。


「ふふふ、せっかくなんだし、やっぱりスイカ割りしたいじゃない? 私も諦めていたんだけど、もしかしたら知らないだけで、お米みたいにこの世界のどこかにあるのかもしれないって思ったのよ。駄目元でセリカさまに聞いたらあるって教えてくれて――――アズライトさまが用意してくれたの!!」

「な、なるほどね。でもセリカはわかるんだけど、なんでアズライトちゃん?」


 少しだけ嫌な予感がするチハヤ。


「あはは……なんかね、この世界のスイカは海産物らしいのよ」

「うっ……スイカが海産物!? なんかしょっぱそうだね……」

「ま、まあ……多少のことは良いじゃない。スイカ割りが出来れば目的は達成できるんだし」


 露骨に嫌な顔をするチハヤだがリリアの言うことも一理あると納得する。


「それもそうだね」

  

 二人は早速スイカ割りをするべく準備を始めるのだった。



「――――というわけで、これよりスイカ割り大会を始めます!!」


 興味津々な様子で熱心に説明を聞く一同。


「まずは実際にやってもらった方がわかりやすいよね。誰かやってくれないかな?」


「それでは私がやらせていただきます!!」


 チハヤの言葉にすかさず手を挙げるセリーナ。


「おおっ!! さすがセリーナ、悪いけどお願い」

「ふふふ、ようはそのスイカとやらを叩き斬れば良いのでしょう? 私にとっては児戯に等しいです」


挿絵(By みてみん)


 セリーナにとっては目隠しなどなんの障害にもならないが、愛するファーガソンの前で良いところを見せたい、ついでに水着姿をちゃんと見てもらいたいという思惑がある。  

 

「はうう……やっぱりセリーナさんの競泳水着は眼福ですう~!!」

「うむ、全面同意! あれは良いモノだ」


 チハヤとリリアは密かにセリーナの水着姿を鑑賞して愛でることに余念がない。


「それではセリーナ、目隠しをしますよ」

「ふん、そんなもので私の剣が鈍るとでも――――なっ!? なんだこれは……」


 チハヤに目隠しをされた途端、震えるセリーナ。


「あはは!! それはね! 我がミスリールに伝わる国宝級の魔道具、その名も『絶』聴覚以外のすべての感覚を完全に遮断する恐ろしい代物だよ、さすがのセリーナでも歩くことすら難しいと思うけどね」

「くっ…エレンの仕業ですか……だが――――これでなくては張り合いがないというものです」


 口では強気なセリーナだが、平衡感覚すら失った状態ではさすがに厳しい。なにせ今立っているのかすら自覚できないのだ。


「じゃあ皆でセリーナをスイカに導いてあげてね」


 チハヤの言葉に、状況を見守っていた皆が一斉にアドバイスを送り始める。


「セリーナ、もう少し右だ!!」

「行き過ぎ!! 少し左に戻って!!」

「そのまま真っすぐ!!」



「セリーナの奴……凄まじいな。聴覚だけを頼りによくまああれだけ動けるものだ」

「ですよね……肌感覚すら無い中では距離感や方向感覚すら掴めないはずなのに……」


 ファーガソンとセレスティアは強者だからこそセリーナのやっていることの凄さがわかる。


 そして二人の素直な賞賛を聞いて思わず口元がにやけてしまうセリーナ。


「――――そしてあのキョウエイ水着とやらも素晴らしいですね先生」

「ああ、あれは素晴らしいな……自分を抑えるのが難しいくらいだ」


 セリーナの表情が他人に見せられないほどだらしなく緩んでしまっているが、本人は感覚が絶たれているので全く気付いていない。


 その様子を見ていた仲間たちは、あらためて目隠し『絶』の恐ろしさを目の当たりにして恐怖に震撼する。せめて何も見ていなかったことにしてあげることにしたのは、彼女たちの優しさ、あるいは明日は我が身という同情、危機感かもしれない。


「なるほど……先生はああいうのがお好きでしたか。わかりました、今夜は私もあのキョウエイ水着でお邪魔しますね」

「おいおいマジか!? セレスのキョウエイ水着……危険すぎるだろっ!?」


 チッ――――セリーナの表情が修羅のごとく怒りに染まるのを見て、慌てて口をつぐむファーガソン。今のセリーナは聴覚に全振りしている状態なので、どんな小声でも聞き逃すことはない。


 その怒りを己の剣――――ではなく木の棒にぶつけるように高く振り上げる。


 毎日毎日、意識が無くなるまで――――いや、意識が無くなってもひたすら振り続けた鍛錬の日々は決してセリーナを裏切らない。呼吸をするよりも自然に――――鼓動よりもスムーズに振り下ろされたその一撃は――――美しく――――正確にスイカを捉えて――――



 ぐっちゃあっ!!!


「うわああっ!!!」

「きゃああああ!!?」

「嫌ああああ!!!」


 破裂したスイカから撒き散らされたどす黒い鮮血と内臓が撒き散らされる。


 その生臭い強烈な匂いと凄惨な光景に言葉を失って呆然と立ち尽くすファーガソン以下一同。



「なあチハヤ、リリア……スイカ割りって……色々と……ヤバいな」 


「ち……違っ……」


 強烈なトラウマを刻まれて完全に涙目のチハヤ。


「こ、こんなの……スイカじゃ……ないですううううう!!! セリカさまあああああ!!!」


 余りの事態に号泣するリリア。



『ふむ……何かやってしまったか……でも……美味しいよ?』


 セリカは不思議そうに首をかしげる。


 この後ビーチを阿鼻叫喚の地獄絵図に変えたスイカたちは――――全員で美味しくいただきました。 

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