第二百四十七話 物語の最終盤に水着回を持ってくるのは間違っているだろうか?
ミスリールヘイヴンから王国最大の港湾都市ウルシュまでは、馬車で三日ほどの距離となる。
ウルシュは諸外国からの輸入窓口でもあり、多くのモノや人が往来するが、ほとんどの場合はウルシュから王都を経由して王国もしくは大陸中に広がってゆくことになる。単純にその方が早いということもあるし、街道も整備されていて平坦な道が続き、中継地点として中小の宿場町も存在するからだ。
一方のミスリールヘイヴンを経由するルートだが、険しい山道を越える必要があるため中継地点となる町が存在せず、必然夜営となってしまう。また、王国内各地に向かうのであれば、ウルシュから直線距離で最も近い大都市ダフードですら、王都を経由した方が早い。
したがって、このルートを通過するのは基本的にミスリールヘイヴンを目的にやってくる者だけで、通行量は決して多いとは言えない。
「ファーガソンさま、何かお考え事ですか?」
「いや、何でもないんだセリーナ。ただ、当初の目的であったオコメ探しは必要なくなってしまったな……と思ってな」
「ああ、オコメ!! アレ美味しいですよね!! 私すっかり気に入ってしまいました」
最近の食事はオコメ料理が多くなっている。ファティアがチハヤやセリカと協力してどんどんレパートリーを増やしているからな。今では俺もすっかりオコメの魅力に憑りつかれてしまっている。もう元には戻れそうにない。
「ふふ、そういえばそうだった。でも、そもそもファーガソンが商人の護衛依頼を受けているっていうのがすごい違和感だ」
「はは、まあそう言うなフレイヤ、護衛依頼も立派な冒険者の仕事なんだからな」
「まあ……私は海が見たいだけだから文句はない」
よほど楽しみなのだろう、フレイヤの頬は紅潮し瞳がキラキラ揺れている。
「私も楽しみです海!!」
セリーナもフレイヤに同意する。実際、俺たちのパーティメンバーで海を見たことがあるのは、俺とセレスだけだ。皆、初めての海を本当に楽しみにしている。
「え? 私は海見たことあるよ、っていうか夏になると毎年行ってたし」
夜営地で海の話題になった際、チハヤがそんなことを言い出した。
「そうだったのか……だが、なぜ夏になると海に行くんだ?」
暑いだけだと思うんだが……?
「は? なんでって……海水浴に決まってるじゃん!! 海で遊んだり泳いだりするんだよ。え? もしかしてこっちの世界では海水浴しないの?」
「カイスイヨク……? 海で遊んだり泳ぐ……? 普通に危険だろ、海には危険な魔物が潜んでいるからな」
「ええええっ!? そうなんだ……せっかくの水着回だと思ったのに……」
あからさまに落ち込むチハヤ。ミズギカイって何だ?
「大丈夫だよチハヤ!!」
突然リリアが鼻息荒く立ち上がる。
「本当、リリア?」
「安心したまえチハヤ君、聞いて驚くな、ウルシュには海水浴場もあるし砂浜リゾートもある。そして何より――――我がフランドル商会が流通させた水着専門店が軒を連ねているのだよ!!!」
「グッジョブだよリリア!! 私は最初から信じてた!!」
「ふふふ、もっと褒めても良いんだよマイシスター!!」
駄目だ……リリアの言っていることがさっぱりわからない。というかお前……普段とキャラが全然違うんだが……。
「というわけで――――ウルシュに到着したら――――まずは我がフランドル商会ウルシュ支店で皆の水着を選ぶよ!!」
「おおっ!! テンション上がって来たー!!」
周囲の困惑もお構いなしに盛り上がるチハヤとリリア。
「水着ね、私も持っているわよ!! 今回ウルシュで休暇する予定だったから事前に取り寄せておいたのよね」」
意外なことにリュゼもミズギを知っているらしい。さすが流行に敏感なお嬢さまということなのだろう。
「リュゼはミズギを持っているのか? 良かったら見てみたいんだが……」
「え? み、見たいの……!? ま、まあ……ファーガソンがどうしてもっていうなら……でもちょっと恥ずかしいかも……」
なぜか顔を赤くするリュゼ。
「なぜそんなに恥ずかしがるんだ?」
「ぬ、布面積が小さいのよ……ぱっと見は、し、下着……みたいだし……身体のラインがはっきりと出るから……ね」
な、なんだと……!? 異世界ではそんな恰好で……!?
「な、何よ? 言っておくけど水着と下着は全然違うよ? 変な想像しないでよね!!」
チハヤがぷいっと頬を膨らませる。
「そうですよご主人さま、水着は読んで字のごとく水の中で活動したり遊んだり、泳ぐことに特化した服です。そして機能性だけではなく、可愛さとエロさを追求したデザインもまた至高なのですよ!! ちなみに異世界では夏に男女の仲を深めるのに欠かせないアイテムなのです!!」
いや……リリア、結局エロいって言ってるようなものじゃないか。フォローになっていない気が……。
だが……そうなのか……何と言うか皆の水着姿を見てみたくなってしまった。
「あ~!! ファーギーがいやらしい顔してる~!! もしかして私の水着姿想像しちゃった? ねえねえ?」
くっ、相変わらず鋭い……チハヤのやつ絶対に心を読む能力持ってるだろ……。
「んふふ~、ねえご主人さま? リリアの水着、可愛いのとエッチなのどっちが見てみたいですか~?」
なんだとっ!? むう……可愛いのも見てみたいしエッチなのも……
「りょ、両方……かな」
「あははは、素直なご主人さまのために両方用意しますね~!! 楽しみにしていてください」
しまった……つい本音が……!?
「り、リリア、私も……そのミズギとやら興味があるのですが……」
「むふふ、セリーナはスレンダーでカッコいいから競泳用水着とか似合いそう!!」
「きょ、キョウエイヨウ?」
「私は……その、あまりスタイルに自信がないのだ……背も低いし胸も……」
「フレイヤは絶対にスクール水着が似合うと思うよ!!」
「す、スクールミズギ?」
専門用語はまったくわからないが、いつの間にか水着相談会が始まってしまった。
「リリア……異世界だからってやりたい放題だね……グッジョブだよ!!」
チハヤが実に良い顔をしている。良いことでもあったのだろうか?
「ん? そういえばリュゼとネージュはどこに行ったんだ?」
「リュゼさんとネージュさんなら、水着に着替えてくるって言ってましたよ?」
「そ、そうか……ところでファティアはミズギを着るのか?」
「えっ!? きょ、興味……あります?」
恥ずかしそうに上目遣いでこちらの反応を気にするファティア。
「当たり前だろ? ミズギがどんなものかよくわからないが、ファティアの可愛かったりエッチな姿なら一日中見ていたい」
「なっ!? ななな何言ってるんですか~っ!? も、もう……馬鹿ああああ!!!」
「わ、悪かったよ、別に無理に着る必要はないから気にするな」
「べ、別に……嫌なわけじゃ……ファーガソンさんが恥ずかしいこと言うからですよ……」
恥ずかしいことを言ったつもりは無いんだが……?
「ま、まあ……せっかくの海ですし、私たち海洋民族は伝統的に布面積が小さい服に慣れてますので……ファーガソンさんがそこまで言うのなら……ちょっとリリアに相談してきます!!」
よくわからないが、ファティアもミズギを着てくれるらしい。楽しみが増えたな。




