第二百四十六話 ミリエルの研究成果
「ミリエルいるか?」
「ああっ!! ファーガソンさま、忙しい中わざわざありがとうございます!!」
ミスリールに戻ったら来て欲しいとミリエルに言われていたので、彼女の研究施設兼自宅へお邪魔している。
「いや、ミリエルに呼ばれたのならどんなことがあっても駆け付けるさ」
「……も、もうっ……わ、私のこと好き過ぎませんか?」
「今更だな、ここ数日ミリエルの顔が見れなくて辛かったぞ」
「はわわ……も、もう駄目です……好きにしてください!!」
「話があったんじゃなかったのか?」
「……意地悪しないでください」
「じゃあ……アレ頼む」
「はあ……わかってますよ――――『ファントムレザレクション』!!!」
「それで? 何か発見でもあったのか?」
ミリエル絡みであれば新しい魔法か新種の植物でも見つけたのか……?
「は、はい、実は人族にとって画期的な発見をしました」
「人族にとって? エルフには意味がないのか?」
「ええ、エルフにはあまり意味は無いですね、寿命に関する発見ですので」
なるほど、たしかにエルフには意味が無いな……だが……我々にとっては大いに関心がある。
「まさか……!! 寿命を延ばすことができるのか?」
「はい!! ですが……女性限定ですけれど」
残念……いや、だが……むしろ好都合だ。俺自身は前世の経験と知識によってある程度寿命を延ばすことが出来る。特に晩年に知った方法を若いうちに実践することが出来る分、今世の方がはるかに長生き出来るだろう。
その方法を皆にも使ってもらいたいが、これは神獣の血を受け継ぐ俺だから使える方法……普通の人族には効果が薄い。セラフィルの血を受け継ぐセレスやリュゼならばある程度効果は期待出来るだろうが。
「ミリエル、良くやってくれた!! ぜひ教えてくれ!!」
「ちょ、ちょっと、落ち着いてください……ち、近いです……あ……もう……」
しまった……興奮してつい……,。
「……気を取り直して、聞かせてもらっても?」
「はい、実はですね、ファーガソンさまとファーガソンをすることでわずかに若返りの効果が確認出来ました」
「な、なんだってっ!? それは……すごいが、どうやって調べたんだ?」
「ふふふ、皆さまにご協力いただきまして、エルフ、獣人、人族に関しては種族の差はなく、概ねファーガソン一回につき一週間ほど若返ることが判明しております!!」
自慢げに薄い胸を張るミリエル。皆に協力してもらった……だと? いつの間に……
「それはすごいな!! ということは、週に一回ファーガソンをすれば理論上若さを保てるということじゃないか!!」
「それに関してはまだデータが少ないのであくまで理論上は――――ということになりますけれど。あ……魔族と異世界人のデータが欲しいので早めにお願いしますね、特に魔族の方は双子ですので非常に興味深いデータがとれそうですし」
「お、おう……前向きに善処する」
チハヤはともかく魔族の双子は一応あの見た目でも成人しているんだよな……。最悪ミリエルの魔法で……って、俺は何を考えているんだ!?
「それにしても一週間か……」
ということは、それが俺の限界ということになる。大切な人を守るためにそのラインは超えるわけにはいかない。前世の時のように無制限に増やしてしまえば必ず後悔することになる。
「ファーガソンさま」
「なんだミリエル?」
「たとえ長命種であっても――――あまり放置されてしまうと悲しいのですよ」
そうだよな……平等に愛せないのであれば意味が無い。それは絶対に忘れてはいけないことだ。
「馬鹿だな、こんなに可愛いお前を放置するわけないだろ?」
「ファーガソンさま……わざとですか? わざとなんですよね?」
この後、めちゃめちゃファーガソンした。
「そういえばファーガソンさま、今夜ミスリールを出発するのでしたね?」
「ああ、色々世話になったな、ミリエル」
もうすっかり自分の居場所のように感じていたので名残惜しい気持ちはあるが、今は依頼を受けている途中だ。色々あって忘れかけていたのは事実だが。
「私は何もしていませんよ、むしろしてもらってばかりで。あ、ウルシュに到着したら連絡してくださいね? 合流しますので」
出発すると言っても、毎晩のようにエレンの所には来るし、その気になればゲートがあるからいつでも戻ることだって出来るからな。
「わかってるさ、そういえばミリエルは海に行ったことはあるのか?」
「無いですよ? 私はこの国から出たことがないので」
そうだったな……愚問だった。
「あ……それから先ほどの若返り効果の件ですが、あくまでミスリールにおいてのデータなので、この地の影響を受けている可能性も排除できません。他の土地でのデータも集めたいので引き続き協力お願いしますね?」
「わ、わかった……よろしく頼む」
「ではファーガソンさま、道中お気を付けて!! 私は研究に戻りますね~!!」
上機嫌な様子で地下に消えるミリエルを見送る。
「さて……出発の準備もあるし戻るとするか」
「お待ちください」
「し、シルヴィア!? いつから居たんだ!?」
「ミリエルに呼ばれたのならどんなことがあっても駆け付けるさ、と仰っていたところからですが」
「ほぼ最初からじゃないか!?」
シルヴィアの気配遮断は尋常ではないな……この俺ですら感知出来ないとは……。
「ええ、ミリエルさまとイチャイチャ……イチャイチャ……イチャイチャしていたところを見せつけられておりましたよ」
くっ……気まずい。
「なんか悪かったな」
「いいえ、お気になさらず。それよりもミリエルさまの研究のためにメイドのデータが必要なんじゃないですか?」
「……メイドは種族じゃないのでは?」
「……メイドは種族ですが?」
「そ、そうだったな……うん、メイドのデータも集めないとな」
「僭越ながら私、シルヴィア=アイスハート、研究のために協力は惜しみません」
「えっと……今からか? ちょっと時間が――――」
「……前回私がファーガソンしていただいてからあと十分で丁度一週間経過します。そうですか……私はファーガソンさまの『大切な人』には含まれないと。よくわかりました――――」
「ち、違うんだっ!? お前との時間を過ごすには時間が足りないと嘆いていただけだから!!」
「あら、そうでしたか……たしかに時間はあまりありませんね……」
「大丈夫だ、セラフィルの異空間の中なら時間の経過が緩やかだし、そこへ行こうシルヴィア」
「お義母さまのところですか、私が行ってもよろしいのでしょうか?」
「母上は可愛いものが大好きだからむしろ喜ぶと思うぞ」
「わ、私……可愛い……ですか?」
珍しく頬を染めるシルヴィア。
「ああ、お前が可愛くなかったら、この世界に可愛いものなど存在しなくなる」
「ご、ご主人さま……私を殺すおつもりですか!?」
今日のシルヴィアはやけに可愛いな、いや、徐々に素の部分が出てきているのかもしれない。分厚い氷の仮面が少しずつ溶けているのか。
「そんなわけないだろ? 大切なお前をどんな形でも傷つけたくは――――」
「も、もう良いですからっ!? わかりましたから!!」
「そ、そうか? そうだ、スケジュール管理やってくれるそうだな、本当に助かるよ」
「い、いいえ、私にもメリットはありますのでお気になさらず。あ……毎朝スケジュールの確認をしますので時間を取ってくださいね?」
悪戯っぽく、ふふふと微笑むシルヴィア。
なるほど……メリットね。
「了解した、これからもよろしくな」
「はい!! 私はファーガソンさまのメイドなのですから当然です!!」




