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最強冒険者のグルメ旅 ~据え膳も残さずいただきます~  作者: ひだまりのねこ


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第二百三十九話 恋焦がれた温もりに包まれて


  聖なる光よ、我が足元に集いて


  天の純白なる輪となり結界を成せ


  浄化の薫り高く、慈悲深き守護の力を


  天使達の翼よ、この聖域に舞い降り


  すべてを穢れから解き放たん

  


 『光輪聖陣シャインサークル!!』




「もう大丈夫だ、遅れてすまなかった」


 意識が徐々に浮上して来て……若い男性の声が耳に入ってくる。誰だろう……少なくとも聞いたことのない声だ。


 ゆっくり目を開くと――――心配そうに私の顔をのぞき込む殿方の顔が思ったよりも近くにあって驚いてしまう。


「きゃっ!?」


 その時初めて私がその殿方に抱き抱えられていることに気付いた。


 しかも――――間違いない、これは……お姫様抱っこだ。一度だけ見たことがあるがまさか私がされる日が来るなんて……


 羞恥心で顔が熱くなる。どんな顔をすれば良いのか皆目見当もつかないが、とにかく現状を把握しなければならない。


「……私は……生きているのですか?」


 自分でもおかしな問いかけであると思うけれど、私は間違いなく刺されたのだ。あれが夢なはずがない。


「ああ、チハヤの魔法ですっかり傷は治っている」


 チハヤ……異世界風の名前ですね……私たち帝国の皇女は異世界風の名前を付けることが伝統となっているので何となくそう思った。


 それにしても魔法ですか……たしかに刺されたはずの傷口が無くなっている。痛みもない――――どころか頭がすっきりしていて何時以来かわからないほど体調が良く感じる。私は魔法に詳しくは無いけれど、皇宮には治癒魔法を使える神官が大陸中から招聘されていたから、どこまで出来て何が出来ないかはよく知っている。だから……たとえ魔法であったとしてもこれが普通ではないことはわかる。


 もしそんな簡単に治せるような魔法が当たり前なのだとしたら、私の母やミリーは死ななくて済んだはずなのだから。


 死の淵から……まるで何も無かったような状態まで回復させる魔法……あるとすれば聖女の神聖魔法……とするとチハヤというのは聖女……いや、やめておこう。恩人を詮索するような真似はしたくない。


「あの……チハヤさんはどちらに? 御礼を言わなければ……」

「チハヤならもう遅いから寝るって先に戻った」

「……そうでしたか。そういえばアドラは?」

「アドラ?」

「私を殺そうとした男です」

「ああ、そいつなら無力化して拘束したから安心しろ」


 あの男を……無力化? 一個小隊を単独で相手に出来るバケモノを?


「貴方は……お強いのですね」

「まあ、そこそこな? 悪い、自己紹介がまだだったな、俺はファーガソン、白銀級冒険者だ」


 白銀級っ!? なるほど……白銀級ともなれば小国を単独で攻略できると聞いたことがある。道理でアドラが勝てなかったわけだ。


「私はカグラ=インペリアル、ご存じかと思いますが帝国第七皇女です。助けていただいたことを感謝いたします」

「……そのわりにはあまり嬉しそうではないな?」


 ファーガソンさまは責めているのではない。私を慮ってくださっているのだ。


「……そう……ですね……また地獄のような日々が続くのかと思ってしまうのです」


 なぜだろう……この方には本音を話したくなる。こんなこと初めてだ。


 そうか……ファーガソンさまに抱かれていると安心するんだ……でも――――


「私には関わらない方が良いですよ? 嫌な思いをさせてしまうから」


 離れたくないと思ってしまっている。


 この温もりが――――初めて感じた人の――――温かい温もりが――――恋焦がれたものを失いたくない。


 でも――――駄目だ。だからこそ巻き込むわけにはいかない。


 この方は恩人で――――こんなに温かくて――――その優しい瞳を――――穏やかな表情を――――私のせいで曇らせたくない。


「ふぁ、ファーガソンさまっ!?」


 そのたくましい両腕が私を強く――――優しく包み込むように拘束して離さない。



「駄目だ――――お前は離さない。そんな辛そうで――――悲しそうに泣くお前を誰が見捨てるものかよ」


 私は――――泣いていたのか? とうに涙など枯れ果てたと思っていたのに――――


「で、でも――――でも――――私は呪われて――――!!」

「もしかして福音の力か? それなら勝手に悪いとは思ったが消させてもらった。あれは人を破滅させる力だからな」


 え……? 福音を……消した!?


「ほ、本当に……? 本当に……そんなことが?」

「ああ、信じられないなら試してみたらどうだ?」


「……ファーガソンさま」

「ああ」

「私は……貴方と離れたくありません」

「ああ」

「信じてくださいますか?」

「信じるよカグラ」


 私の中で何かが弾けたような気がした。



「これは……夢でしょうか? 夢ならこのままずっと……醒めて欲しくありません」

「夢なんかじゃない。カグラ、お前はもう苦しまなくて良いんだ」


 ああ……このまま温もりに包まれていたい。


 でも――――きっとそれは叶わない。


「私は……どうなってしまうのでしょうか?」


 少なくともこの国において私は敵国の皇女で大逆人の妻だ。良くて生涯軟禁で地下牢で毒殺、普通に考えればこのまま極刑となるだろう。ファーガソンさまもそれをわかっているからこそ、こんな私に優しくしてくださっているのだろう。


 最後に夢をみさせてくれたのですね……ありがとうございます。本当に優しい人……。


 出来ることなら――――違う形で出逢いたかった……出逢い……たかった。



「……カグラ、お前はどうしたい?」


 私がしたいこと――――そう……ですね……もしも叶うなら――――



「私を――――女にしてください」

「……どういう意味だ? お前はライアンの妻だったのだろう?」


「ライアンとは手も繋いだこともなければ――――キスしたこともありません。私は――――清い身体のままです」


「そうか……わかった」


 ファーガソンさまの熱を感じる。こんな私を何も言わずに受け入れてくれることが嬉しい。


 せめて証が欲しかった。最後に誰かに愛されたという証が――――



 その夜――――私は初めて男の人に抱かれた。

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