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最強冒険者のグルメ旅 ~据え膳も残さずいただきます~  作者: ひだまりのねこ


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第二百三十八話 帝国第七皇女カグラ


「ご主人さま、今回は私たちの出番は無さそうですね」

「そうだな、リリアたちの出番はむしろ終わった後だからな。そっち方面は任せる」

「お任せください」


「またお留守番? まあ……仕方ないわね、絶対に死ぬんじゃないわよ」 

「わかってるさリュゼ、お前をこの手で幸せにするまでは絶対に死なない」

「わ、わかってるなら……良いのよ」


 本当は抱きしめてやりたいところだが、さすがにこの場でそれをやるのはマズいだろう。間違いなく全員抱きしめることになる。 


「ネージュ、リュゼたちを頼むぞ」

「私も戦えるんですけど……でも、わかりました」


 戦える者が全員居なくなるのはマズい。ネージュが戦いたがっていることはわかっていたが、ここは残ってもらうことにした。


「エレン、アルディナ、フィーネ、ティア、ミリエルは一緒に来て欲しい。シルヴィアは留守を頼む」


「もちろん」

「当然行くさ」

「ご一緒します」

「了解~」

「面白そうだから行くよ」

「かしこまりました」


『ふぁーぎー、どらこたちは?』

「ドラコとシシリーはチハヤを守ってやってくれ」


『わかった~。ままはぜったいにまもるの』

『ワカッタ……マカセル』


 大丈夫だ、俺たちは強い、だから絶対に負けない。


 待ってろよ帝国、今度の戦いは――――総力戦だ。




 さて、帝国との決戦の前に一つ済ませておかなければならないことがある。


 辺境伯の正室、帝国第七皇女の処遇だ。


 本来は俺が関わる問題ではないのだが――――ヒューイとセレスティアに泣きつかれては仕方がない。


 体よく面倒を押し付けられた気がしないでもないが……帝国の皇女もまた政治や謀略のはざまで為すすべもなく押し流されてここにいるに過ぎない。


 帝国のやっていること自体は憎いが、それを個人にまで当てはめるつもりはさらさらない。


 むしろ、何とか救いの道を、出来ることならば今後の人生に幸あれと願っている。



◇◇◇



「カグラさま、ライアン閣下がお亡くなりになりました」

「……そうですか」


挿絵(By みてみん)


 形だけとはいえ一応は夫である人物が死んだのだ。努めて悲しそうな表情を作る。


 夫に対する愛情など微塵も無いが、悲しいのは本当だ。


 辺境伯が敵対勢力である帝国と組んで国家転覆をはかり失敗したのだ。間違いなく一族郎党極刑は免れまい。本当に救いようが無い……私は帝国の皇女という立場ゆえ即処刑ということはないかもしれないが、今後――――王国と帝国の争いが本格化すればその扱いはどうなるのか……ある程度想像がつく。


 

 結局ここにも私の居場所は無かった。


 母は私を産むと同時に亡くなったそうだ。私は母のことを何も知らない。


 皇帝である父とは数回顔を合わせただけ。言葉を交わした記憶もほとんどない。


 私の家族と呼べるのは乳母であったミリーくらいのものか。


 そのミリーも私が十歳になった時病で亡くなってしまった。


 

 それでも私は皇女で生きてゆくために不自由することはなかった。


 そう……不自由はなかったのだ。その代わり――――何一つ私の自由になるものはなかったが。


 鳥籠のような離宮での生活が私にとって世界のすべてだった。



 転機が訪れたのは祝福の儀によって私に福音が与えられたことだった。


 福音『カサンドラ』


 真実を見抜く力だが――――その代償として、誰も私の言うことを信じてくれなくなる。


 私の地獄のような日々が始まった。


 何一つ信じてもらえないというのがこれほど辛いことなのか、嫌というほど味わった。コミュニケーションがまったく成り立たないのだ。


 当然だが友人も出来ない。使用人からも嘘つき呼ばわりされていることは知っていたが、どうしろというのか?


 ある日、父からの命でライオネル王国の辺境伯へ嫁ぐことになった。


 相手は親子以上に年上で、私より年上の息子たちがいた。


 父の考えはわかっている。


 辺境伯を利用して内乱を起こし、王国が疲弊したところを一気に攻め落とすつもりだ。


 扱いに困っていた私の利用方法としては丁度良かったのだろう。



 辺境伯家での立場は最悪だった。本来の正室であった第一婦人は後から来た私に立場を奪われる形になった。当然面白いはずがない。


 当主であるライアンは、私の純潔を信じてくれなかった。


 極度の潔癖症である夫は、純潔を失った女性には触れることすらしなかった。


 結局、私は一度も寝室を共にすることもなく死別することになった。


 何とか王国の危機を伝えようと努力はした。


 言葉が届かないのであればと手紙を書いたりしたが――――もとより信頼関係が成り立っていない者の言葉など届くはずも無かった。


 私は――――どうすれば良かったのだろう?


 福音は呪いだ……私には何もない。希望も――――未来も――――何も無いのだ。



「カグラさま」


「……アドラ、何用ですか?」


 帝国から共にやって来た使用人……というのは仮の姿で、正体は私の監視役で特殊部隊の軍人だ。


「陛下のご命令です」


 温度の無い冷たい瞳で剣が引き抜かれる。


「……そうですか」


 私の命はここで終わる。


 少しだけ悲しいけれど、それ以上にホッとしている。


 もうこれ以上苦しまなくて良いのだと――――楽になって良いのだと言われたような気がしたから。



「御免」


 音もなく接近したアドラの剣が私の急所を寸分たがわず刺し貫く。


「ごふっ……」


 口の中に金属臭が広がる。


 全身の力が抜けて視界が暗転する――――


 何も視えない……何も感じない――――


――――意識が途切れる瞬間――――歌声が――――聞こえたような気がした。

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