第二百三十七話 説得力ゼロ
「さて、皆に集まってもらったのは大事な話があるからだ」
「また? どうせどこかに攻め込むつもりなんでしょ?」
チハヤのヤツ……鋭い。
「……わかった。帝国に攻め込むんだね? どうせセレスティアあたりが言い出したに違いないけど」
フレイヤ……お前絶対に盗み聞きしていただろ……。
「ま、まあ……その通りだ。明日の朝、帝国へ転移して情報を収集、可能であればそのまま帝都に進み皇帝を倒そうと思っている」
「「「…………」」」
なんか全員ポカーンとしているな……俺も自分で言っていて何言ってんだコイツと思い始めているくらいだからな……。
「私は先生と共に帝国へ行くつもりです。止めても無駄ですよ」
凛々しい立ち姿のセレスが隣に並び立つが――――
「ははーん? さてはセレスティアも相当焦ってるんだ? まあ……気持ちはわかるけどね」
「ち、チハヤ!? ち、違います、私は純粋に帝国という憂いを絶つために――――」
真っ赤になって必死に否定するセレスティアに説得力はゼロだ。
「ふふふ、そうですか……それは殿下がお気の毒です」
「せ、セリーナ!? なんですかその余裕は……はっ!? ま、まさか……?」
「まあ……私は許嫁ですので殿下が気になさる必要などございません」
「くっ……また先を越されたのですね……悔しい……」
もはや隠す気は無くなったようだな、セレス。
「帝国へ攻め込む理由はよくわかりましたけど、転移魔法って距離が伸びると必要な魔力が桁違いに必要になるんでしたよね? しかも人数が増えればその分必要なコストも増加すると聞いてます。ここから帝国までの距離を考えると現実的じゃないと思うんですが……?」
ファティア……帝国へ攻め込む理由はそれだけじゃないんだが!? とはいえ、ファティアの疑問ももっともだ。一人送り込むのと大人数では意味がまるで違う。それにしても……最近の彼女はフレイヤのおかげで簡単な魔法なら使えるようになってきているし、適性のある保存の魔法はとても重宝するようになってきた。めきめき成長する姿を見るのは嬉しいものだな。
「それに関しては問題ない。実はエレンから使っていないゲートを提供してもらった。すでにフレイガルドにはゲートが設置してあるから、一旦そこまで行って、そこから先遣隊が帝都へ飛んでゲートを設置すれば大人数を送り込むことが出来る。まあ……大人数と言っても基本的には少数精鋭で作戦を実行するつもりだがな」
もちろんゲートを使うにしろ魔力は必要になるが、そこはミスリールとフレイガルドが全面的に協力してくれることになっているから問題ない。
「今回は今まで以上に危険な作戦になる。皆も知っているように帝国には福音という異能持ちがいる。正直十万の軍勢よりも一人の異能持ちの方が厄介かもしれない。だから――――」
「わかってるよファーギー、私の福音を取り除く能力が必要なんだよね? もちろん行くから止めても無駄だよ?」
「チハヤ……すまない」
「ファーギー、そこはありがとうでしょ?」
「そうだったな、ありがとうチハヤ」
「うん」
「ということは今回の作戦、チハヤの存在が鍵ということになるな」
「その通りだアルディナ、攻撃以上にチハヤを守り切れるかが鍵になる。攻守のバランスをコンパクトにして常に想定外の状況に対応できるようにするべきだろう」
チハヤさえ無事ならば正直何とでもなる。彼女に頼ることになってしまうが、それが成功率が一番高い。
「ファーガソンさま、帝国には例の魔消石があります。私たち魔族やフレイヤさん、エルフの皆さまにとっては相当に厄介なのではないですか?」
マギカが不安な表情を見せる。それはそうだろうな、魔族であるマギカにとって魔力とは命そのものだ。戦力ダウンなどというレベルではないのだから。
「それに関しては問題ない。私とミリエルがすでに対策してる。まあ……チハヤの神聖魔法でも処理出来るけど、何でもかんでもチハヤに頼るわけにはいかないから」
フレイヤがそう答えるとマギカも安心したようだ。
「まあ……私の本音を言えばね、通常の戦闘なら火力はファーガソン、フレイヤ、セレスティアだけで十分過ぎると思うんだよ。怖いのは未知の福音と皇帝の能力、後はそうだね……帝国に福音をもたらした道具もしくは存在に関して何もわかっていないという点かな」
エレンの言うことは正しい。俺が帝国に手を出すことを躊躇っていた理由もまさにそこにある。
「エレンの言う通り帝国に関してはわかっていないことも多い、だが……だからこそ放置できないのも事実。こうしている間にも何をしでかすかわからない。どこかのタイミングでこちらから動かなければ手遅れになるかもしれない。今俺たちには転移魔法がある。いざとなれば撤退することも出来る」
『大丈夫です、ファーガソンさまには私がついておりますし、いざとなれば店長が全てを無に……』
『うん、任せて』
たしかにアリスの存在は心強いが……セリカの出番が無いことを祈ろう。
『ファーガソン、そうじゃない。もし帝国の背後に人ならざる者が居た場合、私が動く』
その深淵なる瞳が俺を真っすぐに射抜く。
ゾクッ……背筋が一瞬冷えた。
セリカの言葉が重い。もしそんな事態になったら――――それはもはやこの世界の存亡に関わる一大事だ。




