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最強冒険者のグルメ旅 ~据え膳も残さずいただきます~  作者: ひだまりのねこ


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第二百二十七話 寂しがり屋さん


 ひっそりと部屋を出て行ったチハヤが気になって後を追ってみたら、人気のない場所でうずくまっていた。その表情は先ほどまで明るく振舞っていたのと同一人物とは思えないほどで……。


「チハヤ、疲れただろう?」

「ファーギー……」


 声をかけられると思っていなかったのだろう。驚いたように顔を上げる。


「私さ……ちゃんと振舞えてたかな……? いつもみたいに……ちゃんと振舞えてたかな……?」

「チハヤ……。ああ、大丈夫だ。ちゃんといつも通りだったぞ」


 チハヤ……お前……震えて……


「ねえファーギー……なんでかな? なんで……あんな酷いこと出来るのかな? それとも……私がおかしいのかな……」

「チハヤ、お前はおかしくない、お前は本当によくやったんだ、だから……だから胸を張れ、俺がついてる、心配いらない、何があっても俺はお前の味方で必ずお前を守る」


 人一倍共感性が高いチハヤにとってどれほど辛かっただろう。人の死など見慣れてしまった俺ですら吐きそうなほど嫌悪感が抑えられなかったのだ。くそ……俺が守ってやらなければならなかったのに……。


「私ね……この力があって良かったって思ってるんだよ。今回だってラクスを助けることが出来た。でもね――――この世界にはどうにもならない死が満ちていて……私が知らないところで今この瞬間も何の罪もない人が死んでいるんだよ。私がのんきに美味しいものを食べたり――――お買い物している瞬間にもきっと――――なんで、なんで私なんだろう? 私なんかがこんな力を貰ったって活かしきれないのに……セレスティアみたいな人が聖女だったら――――」


「違う!!」


「ファーギー……?」

「それは違うぞチハヤ。お前が――――お前だから聖女の力を与えられたんだ。人の痛みや苦しみがわかるお前だから――――いつも見ているからわかる。お前がいつもどれほど皆のことを考えて行動しているのか。お前がどれだけ皆の力になっているのか――――少なくとも俺は……俺だけは知っている。だから……苦しむなとは言わない、だけど一人で抱え込む必要はないんだ。人の手は二本しかないし、目は二つしかない。耳だって二個しかないんだ。届かなければ手を借りれば良い、後ろが見えなければ見てもらえばいい、聞き逃しても誰かが聞いていたかもしれない。だからさチハヤ――――俺もそうするからお前もそうしろ、良いな?」


 聖女だからじゃない。チハヤだから皆お前のことが大好きなんだ。


「うん……わかった」


 賢い子だな……だからこそ人一倍苦しんでいるのだろうが。


「それにな、セレスもチハヤと同じような悩みを抱えているんだぞ。ああ見えてアイツも人一倍抱え込んでしまうタイプだからな、気付いたら助けてやってくれ。まあ……俺も人のことは言えないんだが――――な」


「ぷっ……あははは、そうだね、ファーギーは人のこと言えないね」

「それは……ちょっと……言い過ぎじゃないのか?」

「ええ~? 全然言い過ぎじゃないよ!! もっと反省した方が良いよ!!」

 

 なんか悔しいが――――楽しそうに笑うチハヤを見てしまえば飲み込むしかない。


 少しは元気になったみたいで良かったよ。



「――――ありがとね、ファーギー」 


 キス……された――――なんだろう……すごく嬉しい。





「あ……ファーガソンさま、ここにいらしたんですか、大事なお話があって探していたのです」

「ネージュか、どうしたんだ?」


 ネージュが俺に話? リュゼの件だろうか……?


「実は……シグルドさまにプロポーズされまして……」

「なっ!? なんだと!?」


 落ち着けファーガソン、まずは話を聞くんだ。


「何かきっかけでもあったのか?」


 ネージュとシグルドが知り合いだったとは聞いていない。とすると一目惚れ?


「あのですね……帝国軍との戦いで私がシグルドさまを援護したんです。どうやらその時の私の戦いぶりを気に入ったらしく……」


 なるほど、そういうことか。死を覚悟した戦場で救いの女神のように颯爽と現れて敵を蹴散らしたネージュはさぞかし魅力的だっただろうな。


 だが―――――そうか、そういう巡り合わせもまた運命……。


 シグルドの妻になるということは、フレイガルドの王妃になるということだ。ネージュにとってはこれ以上ないほどの話だろう。


「それでですね、私としてはプロポーズ受けようか悩んでいるのですが……ファーガソンさまはどう思いますか?」


 ここは祝福……すべきなんだろうな。


 ネージュは素晴らしい女性だ。男なら好きな女性の幸せを願うのが正しい。


 だが……ネージュはわざわざ俺に聞きに来たんだ。俺がどう思っているのか聞きたいと言っている。


 だったら―――――


 気持ちを正直に伝えることが俺に出来るせめてもの誠意だ。


 みっともなくたっていい、格好悪くたって構わない。


「ネージュ」

「はい」


「俺はお前のことが好きだ。勝手だとはわかっているが……お前にはずっと側に居て欲しいと思っている」

「……本当に勝手ですね」


 そうだろうな。獣人は番を見つけたら生涯その者と添い遂げると聞く。ネージュから見れば、俺は最低な浮気男にしか見えないだろう。


「だから――――結婚なんてするな、お前は――――俺がこの手で幸せにする」


「わかりました」


「……へ?」

「だから、わかりましたと言ったんですが? ファーガソンさまが私を幸せにしてくださるんですよね?」

「あ、ああ……」

「でしたら結婚なんてしません」


「本当に良いのか? 王妃になれるんだぞ?」

「興味ないです」

「シグルドは俺から見ても素晴らしい男だぞ?」

「知ってます。あの時だって自分の命よりも見ず知らずの私の方を本気で逃がそうとしてくれましたから」

「だったら……」


「はあ……あのですね、私はファーガソンさまが好きなのです。それが理由です、文句ありますか?」

「あるわけない」


「それではこの話は終わりです」


 くるりと背を向けるネージュ。


「ねえ……ファーガソンさま? 嫉妬……しましたか?」


「した。めちゃくちゃした」


「そ、そう……ですか。し、仕方のないファーガソンさまですね……しょうがないから私が側に居てあげます。獣人は寿命が短いからそれだけは許してくださいね? その代わり……死ぬまで一緒にいてあげますから」


 ネージュの大きな耳がペタンと垂れる。


 獣人の寿命は種族にもよるが長くて五十年……


「ネージュ」

「ちょ、ちょっとファーガソンさま!? ど、どうなさったんですか!!」


 その艶やかでしなやかな身体を抱きしめる。


「死なせない……そう簡単に死なせてたまるか。どんな手段を使っても……お前には長生きしてもらうから覚悟しろ」

「あは……ファーガソンさまは寂しがり屋さんなんですね……はい……わかりました……覚悟しておきます。愛しい私の御主人様」


 そう言ってネージュは――――潤んだ瞳で俺の首筋を甘噛みした。

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