第二百二十一話 自慢の家族なんだ
「俺は――――帝国に占領されているフレイガルドを開放するつもりだ」
全員衝撃を受けているのがわかる。特にリエンの表情は――――形容しがたいほどで。
「ちょ、ちょっと待って――――ファーガソン、何言っているかわかってる?」
リエンは辛うじて言葉を絞り出す。
「ああ、わかっている。だが状況が変わった。俺はリエンに出会ってからずっとフレイガルド方面の情報を集め続けていたんだ。入手したばかりの情報だが――――フレイガルドで反乱が起きた。反乱軍を率いているのは王族の生き残りだという」
「は、反乱っ!? それに王族の生き残りって――――そんなはず――――」
「もちろん詐称している可能性もあるが、リエン、お前は家族の死を全員直接確認したわけではないのだろう?」
「それは――――そうだが……」
彼女に余計な期待や希望を持たせることになるかもしれない。
「だから直接行って確認するんだ。今を逃したら一生後悔することになる」
残酷かもしれないが、俺は反乱軍が遅かれ早かれ帝国に鎮圧されてしまう可能性が高いとみている。もし万一、本当に王族の生き残りがいるのならば――――リエンの家族を見捨てることなど絶対に出来ない。
「ファーガソン……私は……私は……行きたい……行って皆を助けたい……そんな資格はもう無いかもしれない……だが私にもまだ出来ることがあるのなら――――私は……この力で――――」
「ああ、わかってる。だから一緒に行こうリエン」
「……あ、ありがとう……ファーガソン」
「聞いての通りだ。この件は王国と直接関係があるわけではない。冒険者としての依頼ですらない。だからお前たちに動く理由はない。だから――――頼む、力を貸して欲しい……お前たちの力が……協力が必要なんだ――――頼む」
本来ならば巻き込むべきではないのだろう。だから俺がしていることは間違っているのかもしれない。
「ちょっとファーギーふざけんな!!!」
「ち、チハヤ……!?」
チハヤ……怒っているのか? そりゃあそうだよな、チハヤにとっては一番関係ないことだ。せっかく念願のオコメが見つかったこのタイミングで戦地に行こうとしているんだから。
「勘違いすんな!! 私が怒っているのはね、リエンは私たちの仲間で家族なのっ!! なのに……他人行儀なこというからだよ!! ファーギーに頼まれるまでもなく私はリエンのために動くに決まってるでしょうがっ!!!」
チハヤ……
「チハヤの言う通りですよ。私は戦えませんが出来ることは何でもしたいと思っています。決して頼まれたからではありません、水臭いこと言わないでくださいよファーガソンさん……」
ファティア……
「あのねファーガソン、フレイガルドの地が帝国の手に落ちている状況は王国にとって非常に都合が悪いの。だからね、関係ないわけないじゃない!! 私は戦えないけど――――それでも出来ることはある。貴族には貴族の戦い方が、舞台があるのだから。だから――――頼りなさい!!」
リュゼ……
「お嬢様の仰る通りです。私はリュゼノワールさまの剣であり盾ですが――――仲間の、家族のためにその力を使うことにはいかなる制限もございません。微力ながら私も戦わせていただきます」
ネージュ……
「はあ……戦後の復興を考えたら商会の出来ることは山ほどありますね。長期的に見れば十分利益が見込めますし、ちょうどフレイガルド方面に支店が欲しいと思っていましたから……期待してくれて良いわよ?」
リリア……
「まったく……ファーガソンさまらしくないですよ。もう少し私たちを信頼してくれても良いんじゃないですか? さっさと行って解放してしまいましょう」
セリーナ……
「私たち……こんなに良くしてもらっているのに何も恩返し出来てないんです。だから――――駄目だって言われても行きますよ!! 頼まれたからじゃないんですから!!」
「ボクも同じだよ、帝国の奴らに魔族の力思い知らせてやる!!」
マギカ、マキシム……
「ふふ、私には聞かないでくださいね先生。答えなど初めから決まっておりますので」
セレス……
はは……俺は馬鹿だな。いつの間にか一人で背負っているような気がしていた。
そうだ、そうだよな。俺たちは仲間で家族なんだ。
助け合うのは――――当然のことだ。
「話は聞かせてもらったあ!!!」
「え、エレンっ!? いつからそこに?」
「え? 最初からだけど」
くっ、全然気付かなかった……というより絶対隠れていたな。
「というかなんで私に声かけないのさ?」
「いや、エレンは忙しいから、まずはパーティメンバーに説明して後で話せばいいかな……と」
「はあ……あのね、こういうのは一体感が大事なんだから仲間外れメッ、だよ?」
仲間外れか……そんなつもりはなかったんだが、たしかに一体感のことまでは考えが回らなかったな。
「本当だぞ。まさか我らを置いて行くなど考えていないだろうな?」
「当然一緒に参ります」
「私も行くよ」
アルディナ、フィーネ、ティア……
「……仕方のない主様ですね、私は貴方のメイドなのですから……好きに使っていただいて良いのですよ」
シルヴィア……
「ありがとう……皆」
全員がリエンを囲んで彼女を抱きしめる。
言葉にしなくても――――皆リエンのことが大好きで、心配していて――――力になりたいと思っている。そして――――彼女の悲しみ、孤独、絶望を我が事のように感じている。
そんな彼女たちは――――優しくて温かくて――――
――――俺の自慢の家族なんだと胸が熱くなった。




