第二百十九話 功績に見合う褒美
「よし、こんなところか」
全部で11人。だいぶ絞ったがまだ多い。
『ファーガソンさま、この三人だけ連れて行けば良いでしょう。残りは指示に従うだけの小者です。私がギルの悪夢を植え付けておきましたので、もうギルを見るのも怖くなるかと』
「そ、そうか。それなら安心だ」
『お褒めに与り光栄です』
ギルの悪夢か……パン好きの俺にとってはまさしく悪夢だな。
「ただいまサクヤ!! クナイ国の元凶連れて来たから好きにしていいよ」
「……こいつらはクナイ国の領主、そして軍事、外交のトップじゃな。どうやって――――とはあえて聞かないが……」
驚きを通り越して呆れ顔のサクヤ。
「ふふふ~、言っておくけど一人も殺してないからね? 今頃みんなスヤスヤ寝ているはずだよ」
自慢げに胸を張るチハヤに殺し合いを望まないサクヤが安堵の表情を見せる。
「……なぜじゃ? なぜ……今日会ったばかりの私のためにここまでしてくれたのじゃ?」
「そんなの決まってるじゃん、ホズミを守るためだよ」
ニヤリと即答するチハヤ。
「なるほど……チハヤは大馬鹿者じゃな」
「うん、私は大馬鹿者だよ」
大声で笑い合うサクヤとチハヤ。こうしてみると仲の良い姉妹のように見えるな。
「――――これが褒美のホズミじゃ」
「おお……すごい量!! サクヤ、こんなにたくさんもらって良いの?」
「昨年は特に豊作でな、遠慮せず持って行くがいい」
円筒状に編み込まれた植物性の袋に入れられたホズミが積み上げられている。
その数は実に十。一つにつきチハヤが食べていたあの量の1000倍入っているらしいのでいかに凄まじい量なのかわかる。
「この場にリリアがいたら喜ぶだろうな」
他の大手商会を出し抜いて勇者に認められればリターンは計り知れないだろう。
「うん、きっと泣くほど喜ぶと思うよ、ファーギーが思っているのとは違う理由でね」
「どういう意味だ?」
「別に~。ほら、ボーっとしてないで早く収納して欲しいなあ~」
おお、そうだったな。
魔法の袋を取り出して、積み上げられたホズミの山を袋に放り込んでゆく。
「……本当にそんな小さな袋に入ってしまうのだな。この目で見ても信じられん……」
サクヤが驚く気持ちもわかる。俺ですら袋の入り口よりもはるかに大きいものが吸い込まれるように入ってゆくのは未だに慣れない。取り出すときも念じるだけで良いのだからな。まさに伝説級の魔道具だと思う。
「ではサクヤ、名残惜しい気持ちもあるが、俺たちはそろそろ失礼する」
こちらは日中なので勘違いしそうになるが、向こうに戻ったらかなり遅い時間のはず。チハヤと二人で抜け出した形になっているので、皆も今頃心配しているかもしれない。
「待てファーギー」
真剣な表情でサクヤが立ち上がる。
「まだ何か用件が?」
「当然じゃ、これだけのことをしでかして手ぶらで帰せるはずがないであろう?」
ああ……クナイ国の件か。
「それは俺たちが勝手にやったことだ。サクヤが気にする必要はない」
「そうだよサクヤ、私が自分の利益のためにやっただけだから。それに……面倒な後始末とか全部サクヤに丸投げだしね」
チハヤの言う通りだ。むしろこれからが大変だ。この状況を活かせるかどうかはサクヤの手腕にかかっていると言えるだろう。
「お主たちが良くとも私がはいそうですかと言うことは出来ん。じゃが……この功績に見合う褒美を現状用意出来ないのも事実。ここ数年にわたるクナイ国の破壊工作や妨害行為によって我が国の状況は深刻でな? 正直に言えば余裕が全く無い」
「だったら余計に褒美なんて必要ないよサクヤ」
「ああ、チハヤの言う通りだ」
「――――じゃからの、私がファーギーに嫁ぐことにする」
「……え?」
「……は?」
一瞬何を言っているのかわからずに思考が停止する。
「なんじゃその表情は? これでも私はホウライきっての美少女として有名なのだぞ。見合いの申し込みも殺到しておるし、断るために専用の家臣を置く必要があるくらいにはな」
たしかにサクヤは美少女だ。大陸には居ないタイプの、チハヤと同じく異国情緒を持っていて――――性格的にも好ましく魅力的なのは間違いないが――――
「あのなサクヤ、気持ちは嬉しいんだが……俺にはすでに何人も妻や婚約者がいるし、それに――――実はな、俺はこの国ではなく、はるか遠く離れた大陸の西から魔法によって来ているんだ。そこはこの国と文化も言葉も何もかもが違う場所で――――」
「ははは、何を言うかと思えばそんなことか。お主に複数の相手がいることなど最初から知っている。環境に関しては問題ない、私は当分この国から離れることは出来ぬからな。なに、嫁ぐといってもあくまで名目上のこと、私が嫁いだという事実が大事なのじゃ。そういうわけで共に暮らす必要など無いのだから安心するのじゃ。まあ……たまに――――気が向いたら……会いに来てくれるというなら……歓迎はするがな」
なるほど……サクヤが嫁ぐことでたしかに雑音は無くなるだろうからメリットはあるかもしれない。ホムラ国としてもクナイ国をあっという間に無力化してしまった俺たちと繋がりを持てるのは悪くない選択肢だ。たとえ俺が遠い異国人だとしても、そのことを知っているのはサクヤだけだしな。
だが――――
「言っておくが本気で俺に嫁ぐつもりであれば……俺も本気でお前を愛するつもりだ。それが嫌なら諦めてもらう」
そんな寂しそうな表情を見せられてしまっては……な。
「じゃ、じゃがお主たちは帰ってしまうのであろう?」
「心配するな、その気になればいつでも来ることは出来る。なあセリカ、アリス?」
『うん』
『はい、お任せください』
二人が協力してくれるなら、距離の問題など無くなる。
「サクヤもこっちに遊びに来れるよ!」
チハヤも安心させるように微笑む。
『ぐふふ、これでホズミ食べ放題……』
小さな声で呟いていたのは聞かなかったことにしよう……




