第二百十六話 いざホウライ国へ
『なるほど……それでホウライへ行きたいということなのですねファーガソンさま』
「そうだ、頼めるかなアリス?」
店と世界中を繋げているゲートはアリスがすべて管理しているらしい。セリカはそういうのやらなそうだもんな。
『お任せください、ファーガソンさまのためでしたら地の果て海の底であってもお連れ致します』
「ありがとう頼もしいよアリス」
嬉しそうにしているアリスが本当に可愛い。
『ふえっ!? そ、そんな……照れてしまいます私』
心が読まれてしまうから思ったことはバレバレなんだよな。
「ごねんねアリス、私のわがままに付き合ってもらっちゃって」
『とんでもございませんチハヤさま、私も楽しませてもらっておりますのでお気になさらず』
言うまでもないことだが、チハヤはアリスとも秒で打ち解けている。なんとも凄まじいコミュ力だ。
『じゃあ……行こう?』
すっかり旅支度を整えたセリカが姿を現す。
『えっ!? 店長も行くんですか?』
『……当たり前でしょアリス』
セリカが同行してくれるというのはこれ以上ないほど頼もしいが――――
「ところでセリカ、その服装は?」
見たこともない服装だ。とても似合ってはいるが――――
『ホウライに合わせた格好だよ』
「うん、とても似合ってる」
『えへへ……皆の分もあるから』
どうやら全員分用意してくれたらしい。なるほど……たしかに現地の文化に合わせるのは必要なことだ。無駄な警戒心を持たれても良いことなどないからな。
「へえ、なんか和服に似てるかも」
「ワフクとはなんだチハヤ?」
「私の国の伝統的な衣装だよ。普段はあまり着ないけど、儀式とか大切な節目には着るの」
「なるほど……」
オコメに似た穀物とワフクに似た衣装……もしかしたらチハヤにとっては親しみやすい国なのかもしれないな、ホウライは。
「おお、なんだか慣れないが……思ったよりも快適だな」
チハヤに手伝ってもらって着ることが出来たが、悪くない。
「あはははは、ファーギーが着るとコスプレみたい!!」
腹を抱えて笑い転げるチハヤ。コスプレとは一体……
『あ、あの……なぜ私まで……』
恥ずかしそうにしているアリスだが、メイド服で行ったらそれこそ目立つだろう。
「可愛いぞアリス」
「きゃああ!! めっちゃ可愛い!! 巫女さんっぽい!! まるでお人形さんみたい!!」
『そ、そうでしょうか? それでは参りますよ皆さま』
褒められて嬉しそうなアリスはゲートを操作してホウライへの転移陣を出現させる。
『ホウライへのゲートは、ホムラ国の火山へと繋がっています。一応結界は張りますが油断されませんよう』
そういえば店に繋がるゲートは、人里離れた危険な場所にあるんだったな。さっきみたいなこともある、チハヤを守ることに集中しないと。
「ここが――――ホウライ?」
なんというか……空の色や空気の匂いも違う気がする。島国だからなのか?
だが――――そんなことよりも
「なぜこんな明るいんだ!? 今は夜だったはずだが?」
「時差だよファーギー」
「ジサ? どういうことだ?」
「説明面倒だからパス」
むう……よくわからないがチハヤにとっては理解できる状況らしい。
『とりあえずホズミを手に入れましょう。お金で購入するか物々交換するかですね』
「ホウライの通貨はどうなってる? 王国金貨は――――たぶん使えない……よな?」
『はい、使えませんし怪しまれます。店長お金持ってます?』
『……持ってない』
ふるふると首を振るセリカ。
「アリスは持っていないのか?」
『申し訳ございません、あのメイド服に収納空間がありまして――――今は無一文です』
なるほど、どうしようもないことはわかった。というよりも連れてきてもらった身でセリカたちに頼るつもりは初めからない。
「問題ない、ギルドで素材を売って金を手に入れれば良いだろう。そういえばセリカたちはその姿のままで大丈夫なのか?」
セリカの角や尖った耳はかなり目立つと思うんだが――――
『ああ、それなら大丈夫ですよ。ホウライは角を持つ種族など大陸では珍しかったりすでに絶滅した多種多様な種族が暮らしていますから。それよりもファーガソンさま、大変申し上げにくいのですがホウライにギルドはございません』
えっ!? ギルド無いのか……世界共通なのかと思っていたが。
『それなら略奪……する?』
「せ、セリカ!?」
『ふふふ、冗談』
肝が冷えたぞ、セリカが冗談を言うと洒落にならない。
しかしどうしたものかな……市場のようなところで物々交換してもらえると良いのだが……
「ファーギー、こういう時はね、何かに襲われている人を助けて御礼に期待する場面だよ」
チハヤは何を言っているんだ? だいたいそんな都合よく――――
「曲者じゃ!!」
『牛車が襲われていますね……』
『盗賊――――じゃない。刺客だね』
「ほらね、ファーギー」
……何も言うまい。今は助けるのが先決。
護衛の人数、装備から見て身分の高い人間が乗っている可能性が高い。だが――――全身黒ずくめの刺客と思われる連中の方が数も多く質も高い。このままだと危険だ。
「アリス、状況がわからない以上殺すなよ、もしかしたら襲われている方が悪い奴かもしれない」
『承知いたしました』
セリカはどうせ手は出さない。多少やり過ぎてもチハヤがいるから大丈夫だろう。
刺客はかなりの凄腕揃いだったが、俺、セリカ、アリスではさすがに相手が悪かった。おまけに聖女のチハヤまでいるからな。負けようがない。
特にセリカは――――自分から何もしないのだが、斬りかかってきた武器がすべて壊れるので、刺客の心が勝手に折れるという離れ業を披露していた……相手が少し気の毒になったぐらいだ。
とにかく、あっという間に無力化することに成功した。




