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最強冒険者のグルメ旅 ~据え膳も残さずいただきます~  作者: ひだまりのねこ


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第百六十一話 首都エルミスラ

  

「俺たちはそれまでどうするんだ?」

「せっかく首都に来たんだ。ちょっと歩かないか?」


 アルディナについて神殿を出ると――――


 そこはまさしく別世界だった。


「これは……すごいな!!!」


 ミスリールヘイヴンの七大樹がここでは普通の木に感じられてしまうほどの圧倒的な巨木の壁。その天辺は地上からでは確認出来ないほど高い。そして巨木に巻き付いている蔦も規格外のサイズだ。街の人々はその蔦をまるで螺旋階段のように使って移動している。


 当然、人々はほぼ100%エルフだ。一生に一度エルフに出会えたら幸せになれるというほど大陸では希少なエルフが普通に歩いているという光景に、慣れているはずの俺の心も高揚してくる。ミスリールヘイヴンもエルフは多かったが、やはり街の景色が違うとここまで変わるものなのかと驚く。


「チハヤとリリアが見たかったのはこれか……」


 今なら俺にもわかる。これこそ旅をする価値のある風景なのだと。


「アルディナ」

「どうしたファーガソン」


「俺の仲間にこの景色を見せてやりたい。無茶を言っていることは百も承知だが、何とかならないだろうか?」


 アルディナの瞳が少しだけ大きくなる。


「ふ、そんなことか。ファーガソンの仲間は私の仲間だ。何とかならなくても何とかしてみせる、任せてくれ」


 エルミスラの景色にアルディナの銀色の髪が溶け込んで輝く。


「ありがとう……街中でなければこの場で抱きしめたい」

「いつでも抱きしめてくれファーガソン、私は世界中の人々の前でも大丈夫だから」


 そうだな……大切な人を抱きしめるのに場所は関係ない。


「アルディナ、ここは良い街だな」


 彼女が生まれた場所でその温もりを感じれば感謝の気持ちがあふれてくる。


「そう言ってもらえると嬉しいよ。いつかファーガソンが生まれた場所にも行ってみたいものだ」

「ああ……そうだな。そんな日が早く来ると良い……すべてが片付いたら必ず案内するよ」

「そうか……楽しみにしている」


 俺の故郷か……今はどうなっているのだろう。屋敷はまだ残っているのだろうか。



「なあ、アルディナ、エルフは長らく子どもが生まれていないと聞いていたんだが……結構子どもが多いような……」


 赤ん坊はいないようだが、驚いたことに街中で見かけるエルフの六割が少年少女なのだ。もちろんエルフは見た目で年齢はわからないものだが、さすがに子どものときは小さいはずだ。


「んん? 一体何を言っているんだ? どこに少年少女が――――ああ、そうだったな。人族は高齢になるとシワシワになるんだったな。エルフはな、高齢化すると少しずつ小さくなるんだ。人族から見れば少年少女に見えるかもしれないが、あれは全員高齢者だよ」


 なん……だとっ!? 年をとってもずっと綺麗なままだとかエルフはどれだけ恵まれているんだ。


 しかし……あれが全員高齢者だというのなら――――たしかに深刻な社会問題なのかもしれない。




「ファーガソン、会議の前に軽く打ち合わせをしておこう」

「そうだな」


 よく考えたら、俺は長老会のことを何も知らない。


「そういえば長老会はどこで開催されるんだ?」

「ゲートが設置されているさっきの神殿だ」


 なるほど、無駄に広いと思ったが、多目的に利用されているんだな。


「本当は私の家に招待したかったんだが……」

「アルディナの家? ここから遠いのか?」

「いや、王宮はなにかと手続きが面倒だし落ち着いて話をするには向いていない」


 王宮……? そういえばアルディナはエルフの王族とは言っていたが、もしかして結構高位の王族だったりするのだろうか。



「話をするのに良い場所が近くにあるから案内する」

「ああ」


 少し早足で街中を移動するアルディナの後をついてゆく。


 やはり人族が珍しいのか、すれ違う人々が驚きで振り返るが、アルディナと一緒ということもあってさすがに無遠慮に声はかけては来ない。



「入ってくれ」


 アルディナに案内されて入ったのはひと際大きな巨木を百メートルほど登ったところにあるサロンのような場所。エルミスラの街をかなりの広範囲まで見渡せる絶好のロケーションに思わず息を飲む。


「ここは基本的に王族と一部貴族しか使えない場所だ。あらゆる魔法で保護されているから会話が漏れることは無い。たとえここで激しいファーガソンをしたとしても誰にも気付かれることはない」


 冗談なのか本気なのかいまいち判断しかねるが……


「打ち合わせをするんじゃなかったのか?」

「冗談だ、馬鹿……」


 照れて顔が真っ赤だ。どうやら冗談だったらしい。



「長老会を構成しているのは王族を除く年長の高位貴族たちだ。国にとって重要な案件は長老会によって決議され、その決定は国の決定と同じ。つまり最高意思決定機関ということになる。ちなみに有資格者たちによる持ち回りで百年ごとに十二名が選ばれる仕組みだ」


 百年か……人族なら事実上終身扱いだな。


「王族が入っていないのは意外だな」

「年長順にしてしまうと全員王族になってしまうからな」

「ミスリールは王制だと聞いていたが?」

「王は基本的に政治には関わらない。一応拒否権は持っているが行使することはまず無いな」


 なるほど、文字通り王政ではなく王制ということか。


「ところでアルディナ、何か作戦があるのか?」


 俺が鍵だと言っていたが……


「ああ、実は長老会のメンバーの半数は女性……つまりはそういうことだ」 


 まさか……それが作戦……なのか?


「ふふん、私が議会場の換気を完全に遮断すれば……ファーガソンのフェロモンが部屋に充満することになる。そうなればかぎりなく半数近い票を集めることが出来るだろう。後は――――お前が男連中の一部を説得出来れば勝算は十分ある」

「ま、まあ結局やることは変わらないということだな」


 温泉での効果をみればある程度の後押しは期待できるかもしれないが……男には効果がないのだからそれだけに頼るわけにもいくまい。



「――――というわけで、効果をより高めるためにギリギリまでファーガソンするぞ」

「……冗談じゃなかったのか?」


「お前はファーガソンした後が一番フェロモンが濃い。これは成功確率を高めるために必要なことだ」


 なるほど、アルディナの言うことにも一理ある。

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