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最強冒険者のグルメ旅 ~据え膳も残さずいただきます~  作者: ひだまりのねこ


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第百五十七話 セレスティアとフェリックス


「殿下、また出撃されていたのですか? 少しはお休みにならないと……」

「わかっていますよフェリックスおじさま。これから少し仮眠を取ります」


挿絵(By みてみん)


 王国軍の拠点に戻って来たセレスティアに苦言を呈したのは、王国最大の貴族であり国防、外交、財務大臣を兼任、さらに先日の宰相死去を受けて宰相代行まで背負っている苦労人、フェリックス=アルジャンクロー現公爵家当主。


 まだ三十代ながら、その端正で整ったな顔には深いしわが刻まれている。


「それだけではありません。単騎で出撃するのはお止めくださいと――――」

「わかっております。危険だというのでしょう? ですが、それでは間に合わなかったのです」

 

 フェリックスにもそれはわかっている。だが……セレスティアに万一のことがあれば王国軍は一気に瓦解する。着任以来自由に飛び回るセレスティアをどうしたものかと苦労人は頭を悩ませていた。


「ふふ、貴方には苦労を掛けますね。ですが、あと少しで冬になります。そうすれば亜人たちも冬ごもりに入るでしょう。それまでの辛抱です」

「……そうですね。ただ私が心配しているのは亜人ではなく――――」

「わかっています、帝国の動きが気になるというのでしょう? 私も自身の立場は理解しているつもりです。十分注意しておりますよ」

「それでしたら私からは何も言うことはございません。ゆっくりとお休みください」


 そう言って大きく息を吐くフェリックスに、今度はセレスティアが厳しい視線を向ける。


「そういえばフェリックスおじさま、リュゼがお見合いしたって本当ですか?」

「ええ、辺境伯と宰相……まあ彼は亡くなりましたが」


 気まずそうに目を逸らすフェリックス。


「私、とても怒っているんですよ? 可愛い妹をよりにもよってあんな方々に……!!」


 セレスティアは三つ年下の従妹を妹のように可愛がっていた。今回戦地に出ていなければ、あらゆる手段でお見合いをやめさせただろう。


「あれは……その、戦略的といいますか、時間を稼ぐ意味もあったのです。本気で嫁がせる気はもちろんありません」

「……噂では相当危険な目に遭ったと聞いています。万一リュゼに何かあったら……おじさまであろうと絶対に許しませんからね?」


 フェリックスがリュゼを溺愛していることは王国の貴族なら誰でも知っている周知の事実だ。それだけにまさか連中が本当に手を出すほど浅はかで愚かだとは思っていなかったのだ。報告を聞いて判断の甘さを誰よりも悔いたのは他でもない彼自身である。


「面目の次第もございません。それよりも殿下こそ、帝国皇帝からの求婚についてはどうお考えなのですか?」


 通常王族は成人前には婚約するものだが、セレスティアは成人した現在も戦地を飛び回り婚約どころか見合いすらする気配が無い。現王室では唯一の独身王族となるセレスティアには彼女自身の魅力も相まって国内外から求婚は殺到しており、一体どんな相手と一緒になるのかというのは常に国民最大の関心事となっている。


 そんな中、先月こともあろうに帝国皇帝自身から妻に娶りたいという正式な申し出があったのだ。


「ああ、応じるなら王国の安全は約束するといった半ば脅迫付きの件ですか……当然応じる気はありません。私の返答如何に関わらず帝国が約束を守るとは思えませんから」


 そう言って颯爽とその場を後にするセレスティア。


「ふむ……さすがセレスティア殿下だな。情けないことに王国内にはセレスティア殿下を帝国に嫁がせるべきだと考えている貴族も多い……。見合いも婚約もしないのは密かな想い人がいるからという噂もあるが……こういう危機的な状況だからこそ、王国民に明るいニュースが届けられるような結果になって欲しいものだな」


 相手が決まらないのは、本人にその気がないこともあるが、釣り合う身分で適齢の相手が国内に居ないということもある。下手な相手と婚約すれば国民の不満が爆発する可能性すらある。かといって国外の王室へ嫁がせるにはセレスティアの存在感は大きすぎるのだ。


「いっそのこと……かの勇者に嫁がせて王国に留まってもらうという手もあるか……」


 現在王都には勇者一行が滞在している。勇者が王国にいるとなれば、帝国への牽制にもなるし、年齢や名声的にも文句なしに釣り合いが取れる。考えるほどに良いアイデアだとフェリックスは思い始める。


「閣下、被害状況の報告が届いております」

「武器、食料の補充要請が――――」

「敵軍に動きがあります、至急援軍を――――」


 ひっきりなしに届く報告を受けて矢継ぎ早に指示を出してゆくフェリックス。


「まあ……セレスティア殿下に提案はするが……最終的には本人の意思に任せるしかないな。他人の言うことを聞くタイプではないし。それよりも……ああ、早くリュゼに会いたい。見合いのこと、許してはくれないだろうが……思い切り甘やかして労わってやらなければ……」


 愛娘が常に危険な状況におかれていることは彼が一番理解している。そのことを一番申し訳なく思っているのもまた彼である。


 だからこそ、港町ウルシュを周ってへゆっくり観光してくるという報告を聞いて少しだけ安心していた。出来れば楽しんで欲しいものだと心から願っている。



「長引かせれば帝国の思う壺だ。冬が来る前に決着を付けたいものだが……焦りもまた同様に危険……ままならぬものだな」


 地位も名誉にももちろん金にも不自由していないが、一番大切なものは思うようにならない。


 それでもなお強い気持ちで前を向くフェリックスであった。

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