第百二十六話 かけられた疑惑と取り調べの行方
「ファーガソン、単刀直入に聞く」
アルディナの語気が強まる。表情に変化は無いのだが、明らかに圧迫感は増している。
「ああ、何でも聞いてくれ」
俺は善人ではないが、己の信条に背いた生き方はしていない。それが悪だというのなら、戦うだけの覚悟はあるつもりだ。
むろん、彼女たちを傷つけるつもりは毛頭ないが。
「なぜ貴様からエルフの匂いがする?」
アルディナの言葉に一瞬戸惑う。言葉の意味はわかるのだが、どういうことなのかわからない。少なくともダフードを出てからはエルフと一度も接したことはないはずだが。
「言い方が悪かったか。貴様、最近エルフを相手にファーガソンしたな? それも一度や二度ではない、ここまで強烈に匂いが染み付いているのだ、言い逃れ出来んぞ!!」
俺が戸惑っているのがわかったのだろう。アルディナがわかりやすく直球に言い直してくれた。
もっとも言い直されてもあまり変わらないが、何を疑われているのかはわかった。ああ……なるほど、エルフを買っている下種な連中だと疑われているのだなと。
だがそれは良い、本当のことだし、それを聞いて取り調べるのが彼女たちの仕事だ。むしろ問答無用で斬られなかっただけ理性的な対応であるとさえ思う。なぜそれがわかったのかもとりあえず今は置いておこう。
だがしかし――――
「すまない、エルフの中でもファーガソンで通じるのか?」
思わず反射的に尋ねてしまった。言った後しまったと後悔したが仕方ない。だってこれだけはおかしいだろ? 閉鎖的なエルフの国だぞ!?
「当然だ。人族の取り調べが我らの仕事だからな。あらゆる最新情報は常に更新されていると思ってくれていい。それに我々も直接的に言葉を使うのは嫌だったから便利に使わせてもらっているのだ」
「そ、そうか」
どうやら俺が関係しているとは思われていないようで安心したが、マズいな……この分だと全国に広がるまでにそう時間はかからないかもしれん。下手をすると大陸中に広まってしまうのではないか?
なんというか地味にダメージが入るんだよな、コレ。
「それでどうなんだ? 言い分があるのなら聞くぞ」
悪いことはしていないのだから堂々とすれば良いんだが、相手があることだからな。
「俺はお互いに合意の上でファーガソンしている。そのことに嘘偽りは一切ない」
「む……嘘ではないようだが……しかし問題はそこではない。複数のエルフの匂いが付いているんだ!! これはどういうことだ? 偶然複数のエルフと短期間に知り合うだけでも奇跡的な確率なのにさらに全員とファーガソンに及んだというのか? そんな都合の良い話があるか!!」
机をバンッと叩くアルディナ。
「そのままだ。三人のエルフと短期間で知り合い、合意の上複数回ファーガソンした。それだけだ」
なぜこんなことを真顔で説明しなければならないんだと思わなくもないが、誤解を解かねば入国できない。
「くっ……何という潔いオーラだ。だがそんな話をはいそうですかと信じるわけにはいかない!!」
「信じてくれアルディナ。俺がそんなことをするような男に見えるか?」
「わ、私を名前で呼ぶなっ!?」
ぐいっと顔を近づけるとなぜか狼狽して後ずさるアルディナ。
「くっ……まあ身分もはっきりしているし、エルフと人族がファーガソンすることが禁じられているわけではないからな。合意であるというのなら相手の名前を言えるだろう? それを申告すれば問題なくお咎めなしに出来るが?」
「それは断る。自らの保身のために彼女たちの意志や尊厳を踏みにじるような真似は出来ない」
おそらく彼女たちなら笑って許してくれるだろうが、そういう問題ではない。
「ほう……なるほどな。そう来たか……」
ほんの少しだがアルディナが笑ったような気がした。気のせいかもしれないほど一瞬だが。
「隊長……たぶん本当の話だと思いますよ。この方、男嫌いな私でもドキドキしてますし」
「わかる……実は私も最初一目見てドキッとときめいちゃったんですよね……」
「フィーネ、ティア、お前たちは黙ってろ!!」
「ええ~、そういう隊長だって顔真っ赤じゃないですか!!」
「ち、違う、これはそういうわけでは……」
「じゃあどういうわけなんですか~?」
よくわからないが、良い方向に向かっている……のか?
「ファーガソン、ちょっと待っていろ、協議してくる」
「わかった」
何やら向こうでごにょごにょ話しているが……?
「待たせたな。お前の言葉を信じてやりたいが肝心の相手がここに居ない以上全面的に信じることは出来ない」
まあ、そうだろうな。愛し合っているならなぜ一緒に行動していないのかと思われても仕方がない。
「そこで特別な取り調べを行う。向こうの部屋でな」
アルディナが指さした部屋、明らかに寝室なんだが……。
「我らエルフは肌を合わせることで仲間の思念を読み取ることが出来る。お前がファーガソンしたのは三人、そして私とフィーネとティアで三人だ。だからファーガソン、今から何をすべきか……わかっているな?」
そういうことか。たしかにそれなら誤解は解けるかもしれない。
「むろんだ。俺はここで引くわけにはいかないからな」
「お帰りファーガソン、遅かったから心配した」
そういう割にはあまり心配しているようには見えないリエン。なぜ棒読み?
「心配させてすまないなリエン」
「心配はしていない」
どっちなんだ……?
「大丈夫でしたか? 痛いことされませんでしたか?」
セリーナは本当に心配そうにしている。余計な気苦労をかけてしまった。
「大丈夫だセリーナ、だいぶ絞られたが、最終的に誤解は解けた」
「なるほど…上手いことを言う」
苦笑いするリエン。
「ちょっとリエン? それどういう意味ですか?」
「さあね、本人に聞いたら?」
心なしか不機嫌なリエン。セリーナにこれ以上突っ込まれても話がややこしくなる。
「セリーナ、腹が減らないか?」
「ああ、たしかにお腹がペコペコです」
「今夜はヤキソバ食べ放題だぞ。早く行こう」
「はいっ!!」
「はいはい……」




