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最強冒険者のグルメ旅 ~据え膳も残さずいただきます~  作者: ひだまりのねこ


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第百二十一話 町おこしメニュー


「え? 町おこしのメニューですか?」

「ああ、町長から頼まれてな。何か良いアイデアはないかな、ファティア」


 実は町長から相談されたのは、リンダとサッリ姉妹のことだけではなくて、町おこしの起爆剤になるような名物料理が欲しいというものだった。

 

 ヴァレノールは元々人が住んでいたのではなく、利便性からダフードからの旅人が中継地点として休めるように作られた町だ。町の歴史も浅く特に名産らしいものも無い。小さな宿場町なので基盤となるような産業も無い。ダフードという大都市圏にあることで成り立っている典型的な衛星都市といえるだろう。


 町長によれば近年は仕事や活躍の場を求めてダフードなど近郊の大都市へと移住してしまう若者も多く、人口減少と人手不足が慢性的な問題となっているらしい。リンダとサッリも同じようなことで頭を悩ませていると言っていた。何とか力になってやりたい。


「うーん、この町ならではの食材とかあれば良いんですけど無いんですよね?」

「そうみたいだな。基本的にどの町にもあるような食材しか使えない」

「なかなか難問ですね……」


 ファティアがメモを見ながら悩み始める。


「皆も何かアイデアがあれば何でも良いから提案して欲しい」


 他国の王族に公爵令嬢、獣人、大商会の娘、魔族、異世界人、実に多様性に富んだメンバーだ。何か面白いアイデアがあるかもしれない。


「あ、町おこしなら良いアイデアがあるよ」


 いち早く手を挙げたのはチハヤ。


「本当かチハヤ?」

「うん、町おこしと言えば焼きそばでしょ」

「ヤキソバ……? なんだそれは」


「おお!! 良いですね焼きそば!! 簡単ですし」 


 リリアが飛び上がる勢いで賛成する。


「リリアはヤキソバを知っているのか?」


「え? ああ……えっと、ですね、勇者が好きだとかでそういう名の料理が流行っていると聞いたことが……」


 やはり異世界の料理なのか。たしかにそれならば話題性はあるかもしれない。


「うーん、でもなあ……ねえリリア、ウスターソースとオイスタ―ソースの代用になるもの無いかな?」

「ふふふ、ありますとも。私が研究を重ねて限りなく本物に近づけた名付けてリリアンソースが――――あ……えっと……」

「ふーん……ねえリリア。私に隠していることあるよね? ね?」

「な、何のことでしょう?」

「とぼけないで。この世界にウスターソースもオイスターソースも無いことは知っているんだからね」

「う……」


 しどろもどろになるリリアに詰め寄るチハヤ。さっきから二人で何の話をしているんだ?


「う……あの……ですね、実は……ごにょごにょ」


 何やらチハヤに耳打ちするリリア。


「やっぱり。最初に会った時から怪しいと思ってたんだよね。リリアは気付いていなかったかもしれないけど、普通に向こうの言葉が通じて、え? って思ったんだから」

「あちゃ~無意識に出ちゃいましたか……あの、出来れば色々面倒なことになるので他の人には内緒にしていただけると……」

「うん、わかった。ふふ~、そっかあ嬉しいなあ……仲良くしてね、リリア」


 良い笑顔のチハヤと苦笑いのリリア。よくわからないが二人の間で何か大事な話が成立したらしい。まあ仲良くなることは大事なことだからな。


「ねえリリア、早速だけどこの世界って麺はあるの? そういえばまだ一度も見てないんだけど」

「残念ながらこの国には無いですね。東の国には麺料理に近いものがあると聞いたことはありますけど」

「そっか……でも材料はあるんだからファティアなら作れるよね?」

「そうですね、小麦粉の代わりはギル粉で大丈夫ですし、岩塩と水があれば作れるはず。ちょっと支店に行って材料持ってこさせますから、その間にファティアさんに麺と焼きそばについて教えてあげておいてください」

「了解」


 ヴァレノールにも当然フランドル商会の支店はある。リリアは材料を集めると言って走り去る。



「えっと……それでチハヤさん、メンとやらはどういったものなのですか?」

「私もね、何となくしか作り方知らないんだけど……」


 ファティアにメンとやらをレクチャーし始めるチハヤ。


「えっとね、こねこねしてバンバンって叩きつけてびよーんって伸ばして――――」


 何を言っているのかさっぱりだが……?


「なるほど……大体イメージが出来ました。多分少し練習すれば作れると思います」

「さっすがファティア!! 頼もしい」


 どうやらチハヤのあの説明でメンとやらの作り方がわかったらしい。ファティアは間違いなく天才だろう。


「ファーギーは焼きそばを焼く鉄板を用意して欲しいんだけど」

「なるほど……熱した鉄板の上で焼くんだな?」

「うん、作っているところもパフォーマンスになるからね。なるべく大きい方が沢山作れるから」



「心配は無用ですよ、チハヤ。必要な食材と道具は全部揃えましたから」


 あっという間に段取りを付けてきたらしい。戻ってきたリリアが胸を張る。


「わあ、助かる~!!」 

「ふふ、私も焼きそば食べたいですからね!!」



「リリア様、こちらでよろしいでしょうか?」

「ありがとう。その辺に置いておいて頂戴」


 フランドル商会の職員たちが次々と食材や道具を運んでくる。


 ヤキソバというものを知っているのがチハヤとリリアしかいないので、俺たちは見ていることしか出来ない。


「ドラコ、悪いんだけどブレスで火を付けてくれる? 焦げないように弱めで」

『わかった~まかせて、まま』


 大陸広しと言えども、竜に火を付けさせることが出来るのはチハヤくらいのものだろう。 



 ジュワアアア


 熱せられた鉄板の上に、様々な刻んだ野菜、肉、そしてメンが投入され、黒っぽいリリアンソースとやらがかけられて混ぜ合わされてゆく。


「ほう……あれがメンか」


 練ったギル粉を薄く延ばして細長いひも状に切ったようだが、不思議なことを考えるものだ。 


 焦げたソース、肉、野菜、そしてメンが混ざり合って渾然一体となった奇跡のハーモニー。見た目からは想像もできない旨そうな匂いが漂ってきた。これはたまらない。



「ファーガソン様、実に美味しそうな匂いがしますな」


 いつの間にかやってきた町長も必死に涎を垂らさないように我慢しているように見える。


「たしかに。これは絶対に美味い奴だな」


 騒ぎを聞きつけて、町の人たちも興味津々な様子で集まって来た。


 メンが宙を舞うたびに観衆から歓声が上がる。


 ファティアの動きが止まった。


 どうやら完成したらしい。


 ゴクリ――――喉が鳴る音がやけに大きく聞こえた。

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