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最強冒険者のグルメ旅 ~据え膳も残さずいただきます~  作者: ひだまりのねこ


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第百十九話 リリア=フランドルの事情


「何? 本気で言っているのかリリア?」

「もちろん本気です、私の目に狂いがないことはお父さまが一番よくご存じなんじゃないですか?」


 フランドル商会は今でこそダフードでは最大、王国内でも大手寄りの中堅商会だが、私が経営に関わるまでは単なる地方の中堅商会でしかなかった。もっとも、まだ幼い子どもだった私の意見を積極的に取り入れたのは他でもないお父さまなわけで、人を見る目、思考の柔軟性はあったということだが。


 それに加えて、先祖代々の堅実経営とお父さまの誠実な人柄と信用という財産がフランドル商会の土台としてしっかり築かれていたことも大きかった。こればかりは一朝一夕にはどうにもならない部分だから。


「むむ……それはたしかに。そうだな……お前にはいずれこの商会を継いでもらうつもりだったから少々早い気もするが見聞を広めるには絶好の機会かもしれないな……何よりあのファーガソン殿と一緒なら安心だ。わかった、お前の気が済むまで行ってくると良い」


「ありがとうございますお父さま。私の勘ですが、彼らが持っているポテンシャルはフランドル商会を世界最大の商会にしてくれるほどだと確信していますので」

「それほどまでか!?」

「はい」


 旅に出たいから大袈裟に言っているのではない。むしろ抑え気味に言っているくらいだ。私の考えが間違いでなければファーガソン一行はこの世界を変えるほどのインパクトを持っているはず。


「それに加えて、私は帝国の動きが気になっているのです。このままでは遠からずこの国も……いいえ、大陸の国々すべてが戦乱に吞み込まれる事態となってしまいます。その意味でも彼らに同行することには大きな意味があるのです」

 

 帝国は間違いなく大陸制覇の野望に向けて暗躍している。それも恐ろしいほどのスピードと覚悟を持って。


 だがこの国の多くの国民はそのことに気付いているようには思えない。場合によっては国を動かしている上層部ですらも。


 黙って見過ごすことなど出来ない。平和あってこその商会だ。血塗られた武器商人などには絶対にならない。




 天才だとか神童だとか言われてきた私だが、実際はそうではない。幼い頃、死にそうな大怪我をして生死を彷徨ったことがある。


 その時に思い出したのだ――――前世の記憶を。


 この世界とは違う世界、はるかに文明の進んだ日本という国に私は生きていた。


 その知識を生かして上手くやっただけ。


 最初は私の脳内妄想かと思っていたが、あまりにもリアルで現実的で、次第に前世の記憶なんだと理解するようになっていった。 


 それが確信出来たのが、勇者の出現だ。


 勇者が探していると言われている「お米」


 私にはわかる。元日本人だからわかったのだ。


 実はお米が食べたくてかなり早い段階で私自身動いていた。だからこそお米発見レースにおいて大手を出し抜いて先行することが出来ている。何と言っても私は本物のお米を知っているのだ。


 そして勇者に会ってみたい。同じ世界から来た人に。


 努力の甲斐あって、王都で勇者にパイプをつなぐことが出来た。


 そのタイミングでやって来たのが、あのファーガソン一行だ。


 もはや運命の女神トレースの仕業としか思えなかった。


 あのチハヤという女性、間違いなく日本人だ。おそらくは千早と書くのだろう。


 興奮が抑えきれなかった。


 旅に同行する。私に迷いは無かった。



 だが問題があった。実は私はかなりのコミュ障なのだ。


 仕事の会話なら問題なく出来るのだが、仲間内の会話は苦手だ。前世も今世も友人が出来ないのは偶然ではなく必然と言えよう。


 この旅はビジネスではない。仲間として入り込む必要がある。


 そこで考えたのがメイドだ。


 私は日本でメイド喫茶のナンバーワンだった。実際にプロとして働いていたこともあった。その経験を生かしてこの世界でもメイドの資格を取ったのだ。まあ完全に趣味だが。


 素の私では話せないが、メイドという役を演じていれば自然に話せる。


 都合の良いことに、ファーガソンさまがメイドを欲しがっているという噂も耳にした。


 流れが来ている!! 全てが私を後押ししている。



 そしてファーガソンさまは、私の好みストライクゾーンど真ん中だ。


 初めて対面した時、過呼吸で意識を失いかけたほどだ。


 周囲には美少女が揃っていて、おそらくは全員ファーガソンさまに好意以上のものを抱いているだろう。当然だ。強くてカッコ良くて優しくて誠実、好きにならない方が難しい。


 私の体は十五歳だが、中身は大人だ。もっと仲良くなりたい気持ちはあるが、ファーガソンさまは成人していない女性には決して手を出さない。


 今は側に居て少しでも距離を縮めれば良い。焦りはない、この世界ではお堅い結婚制度は無い。本人が望めばいわゆるハーレムも実現可能なのだ。




「ご主人さま、眠れないのでしたらお茶でもいかがですか?」

「リリア、まだ起きていたのか?」 


 くうっ……カッコいい!! 抱きつきたい!!


「色々あり過ぎて興奮して寝付けないのです」

「ハハ、たしかにな。最近色んなことが起こり過ぎる」


 私の淹れたお茶を飲むファーガソンさまが尊い。写真に撮りたいけどそんなものはこの世界に無い。脳裏に焼き付けるしかない。


「だがお前はすごいなリリア。普通なら受け入れられないようなことを聞いても動じる様子もなくあっさりと受け入れてしまうのだから」


 まあ、異世界からの転移者とか聖女とか亡国の姫君だとか小説読んでたから驚くよりもやっぱりねという納得の方が強かったりしますので……。


「だがな、いくらすごくてもお前はまだ十五歳の女の子なんだ。無理しすぎるなよ」

「ふえっ!?」


 ふぁ、ファーガソンさまに抱っこされて頭を撫でられている……!?


「少しは興奮が収まったか?」


 いいえ、収まるどころか興奮しすぎて鼻血が……


 ブシュー


「お、おい大丈夫かリリア!? ちょっと待ってろ、リエンを起こして――――」

「だ、駄目です、このまま、このままでお願いします!!!」


 オロオロしているファーガソンさまがかわいい……


 うう……極度の興奮と大量の出血で意識が朦朧としてきました……


 キス……してもらいたかったけど……この鼻血じゃね……無念だわ。 

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