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第75話 大浴場に行こう

   ◇


「そろそろ飛箒祭ひしゅうさいですわね」


 みんなでパフェを食べ終えた帰り道。しばらくは甘いもの要らないかなぁなんて考えていると、乗合馬車に揺られながら窓の外を見ていたロザリィ様が言う。


「飛箒祭ですか?」


 ミナリーがわたしの顔を見ながら小首を傾げた。


 飛箒祭かぁ。


 そっか、もうそんな時期なんだ。外を見れば道行く人の中に行商人や旅行者のような格好の人が多い。ロザリィ様もそれに気づいて話題にしたのかな。


「王立魔法学園の大きな行事の一つだよ。学園の生徒が箒に乗って王都上空でレースをするの。魔法を使ってもいいから、下から見るとすっごく綺麗なんだぁ。子供の頃は毎年楽しみにしてたなぁ」


「魔法を使ったレース? 危険ではありませんか?」


「その点に関しては大丈夫! 王国魔法師団が総力を挙げて落下した生徒を助けたり、地上に落ちそうな魔法を迎撃してくれるの」


 たまぁに魔法は撃ち漏らしちゃうんだけど、大きな被害はここ最近あんまり出てなかった……はず。


「なるほど、それはとても楽しそうです」


「ミナリー出場してみたい?」


「そうですね……」


 ミナリーは腕を組んで拳を唇に当てながら考え込む。その様子を、ロザリィ様の隣に座ったアリシアがじーっと見つめていた。どうしたんだろう?


「そういえば、去年の優勝者はアリシアでしたわね」


「えっ、そうだったの!? すごいよっ、おめでとうアリシアっ!」


「おめでとうって姉さま、去年の話よ? ……それに、他に有力な生徒が一人も居なかっただけだもの。別に大したことじゃないわ」


 なんて言うアリシアに、わたしは思いっきり首を横に振る。


「そんなことないっ! 飛箒祭は学園で一番の魔法使いを決める行事でしょ!? つまり、わたしの妹が王立魔法学園で一番の魔法使いになったってことだもん! お姉ちゃんとしてこれほど誇らしいことはないよ!」


「姉さま…………他のお客さんも居るんだから大声出さないでよ恥ずかしい」


「あ、ご、ごめんなさーい……」


 朝と違って今はわたしたち以外にも何人か馬車に乗っている人たちが居た。苦笑するその人たちに頭を下げつつ、わたしはアリシアの隣に移動して優しく抱きしめる。


「とにかく。おめでとう、アリシア。頑張ったね」


「んもぅ、だから去年の話だってば。……恥ずかしいわよ、ばか姉さま」


 なんて言いつつ、アリシアは満更でもない様子で頭をわたしに預けてくる。んもぅ、アリシアったら素直じゃないんだから。そういう所も可愛くて大好きだけどね。


「それで、今年は出場するんですの?」


 ロザリィ様に問われたアリシアは顔を上げて、ほんの少しだけ間を置いてから頷く。


「前年度優勝者が出ないわけにもいかないわよ。いちおう連覇がかかってるんだもの。……だけど、今年は」


 アリシアの視線の先。大きく膨らんだお腹を抱えて苦しそうにしているニーナちゃんの隣で、ミナリーがほんの少し頬を膨らませてこっちを見ていた。


「師匠、公衆の面前でくっつくのはよくないです」


「あ、うん。ごめんなさい……姉妹でもダメ?」


「ダメったらダメです。こっちに戻ってください」


「はぁーい」


 ちょっぴり不機嫌そうなミナリーに促されて元の座席に戻る。するとアリシアはどこか困ったような笑みを浮かべて、視線を窓の外へと移した。……うーん?


「師匠。わたしたちも飛箒祭に出場しましょう」


「うん……ってわたしも?」


「はい。みんな一緒ならきっと楽しいです」


 そう言ってミナリーはアリシアに視線を向ける。アリシアは窓の外に視線を向けたままだけど、きっとミナリーの声が聞こえていたはず。ミナリーもわたしに話しかけているようで、どことなくアリシアに言っていたような気がする。


 二人ともどうしちゃったんだろう?


 首を傾げている内に、馬車は学園前の停留所に到着する。


 学園に戻ったわたしたちは、みんなで寮の大浴場に向かうことにした。


 大浴場は人気でいつも人が多いから、わたしとミナリーは普段個室のシャワーを使っている。だけど今の時間帯、ちょうどお夕飯時だから人はいつもより少ないはず。


 お腹いっぱいで後はお風呂に入って寝るだけだし、せっかくみんな一緒なんだから大浴場に行ってみようという話になった。


「実はずっと気になっていたんですわよね。なかなか一人では入りづらいですし、誰かをお誘いするのも気恥ずかしくて避けていましたけれど」


「わ、わたしもですっ! いくらみなさんとはいえ、裸を見せるのはちょっと恥ずかしいですけど……」


「こういうのは変に躊躇うから恥ずかしいんだよ、ニーナちゃん。女の子しか居ないんだからへーきへーき」


「し、師匠さんもう素っ裸ですか!?」


「師匠はもっと恥じらいを持つべきです」


「えぇー?」


 別に女の子同士だから気にしなくてもいいと思うけどなぁ。


 脱衣場に居るのはわたしたちとほんの数人だけで、浴場の方もあんまり人は居なさそうだった。さすがに見ず知らずの人たちが大勢居たら少しは緊張するけど、ミナリーたちに見られても恥ずかしくないもん。


「姉さまはスタイルが良いから自信満々でそう言えるのよ」


 なんてタオルで前を隠すアリシアだけど、スラっと長い手足やキュッと締まったウエストがタオルの端からチラチラと見えている。


「むぅ、アリシアの方がスタイルよく見えるけど……?」


「自己評価の低い姉を持つのも、困りものだわ」


 なんて言いながら、アリシアは一人でさっさと浴場に入って行ってしまう。


「ねぇミナリー、どうしたらアリシアは自分がすっごく魅力的な女の子だって気づいてくれるのかなぁ?」


「私に聞かれても困ります」


「そっかぁ……」


「ですが」


 ミナリーは数歩わたしより前に進んで、振り返る。


「私は、アリシアにだけは負けたくないです」


「え……?」


 それだけ言うと、ミナリーも浴場に入って行っちゃった。


 アリシアに負けたくないって、ミナリーもけっこうスタイル良いほうだと思うよ……?


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