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第二十四話 会長

1889年 (明治22年) 1月


蚊取り線香がパナマに届き出し、黄熱病やマラリアに罹る人は少なくなった。


そんな頃、日本では東亜グループの会長が市兵衛から市太郎へと変わっていた。


「会長ご就任おめでとうございます。」


このグループの重役達から祝われた。


「ありがとう。さて、会長に就任して早々だが、イギリスとドイツに行こうと思っている。」


「ドイツとイギリスに行って何をするのですか?」


三宅が聞いてきた。


「ドイツで世界初のガソリン車が出来たそうだ。…その車を買いに行こうと思ってな。」


そう、今から3年前の1886年にドイツでベンツ・パテント・モトールヴァーゲンと言うガソリン車が開発された。

名前で気づいた人もいるかも知れないが、高級自動車で有名なベンツ社だ。


「なるほど。…ドイツで車を買って、我が社で研究し、自社生産出来るようにする為ですね。」


「そう言う事だ。…イギリスに行く理由も似たような物で、イギリスにある内燃機関(ガソリンで動くエンジン)を買うためだ。」


「ドイツの車だけでは、いけないのですか?」


「ダメだ、イギリスで開発された小型のエンジンが欲しいんだよ。」


「その、一つ質問が…」


手を挙げながら羽間が言った。


「どうした?」


「…日本は未だに舗装された道がなく、大阪と東京を結ぶ東海道ですら、東海道中膝栗毛の作られた時代となんら変わりません。そんな状態で車が売れるのでしょうか」


「羽間の言うとり、日本では売れんだろう。だから、日本では車を売らん。車はアメリカで売るんだ。代わりに日本では、車ではなく自転車に近いバイクを売ろうと考えている。」


「なるほど。…私は会長の意見に賛成します。」


「そうか、ありがとう。」


「まあ、我々には金がありますし、私も賛成です。」


そう三宅が言うと、他の重役達も頷いた。



1889年 (明治22年) 5月 パリ


ドイツとイギリスにのみ行く予定だったが、パリで万博が開催されていると聞いてフランスにやって来た。


「会長!何ですかあの棒は?…風で倒れたりしないのでしょうか?」


三宅はエッフェル塔を見ながら言った。


「大丈夫だ。倒れないように設計されてるさ。…それに中に入って上に登れるぞ。」


「えっ…。…あれの上に登るなんて…。…白人は肝っ玉の据わった人が多いんだな…」


三宅がぶつぶつ言っているのを横目に羽間が言った。


「…会長。あれが、我々が買う予定の車ですか。」


そこには、3輪の屋根がない車があった。


「そうだ。…俺はあの車を3輪から4輪にしたいと思ってる。」


「三輪を四輪に、ですか。」


「ああ。そして、アメリカ中に、いや世界中にその車を走らせたい。」


市太郎の言葉を聞いて、羽間は世界中で東亜製の車が走る姿を想像し、億が一でもそんな未来に成れば嘸かし愉快だなと思った。それと同時に、この会長ならもしかしたら出来てしまうのでは?とも思うのであった。




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