「君に共感している」
「大丈夫か? ロレッタ嬢」
声をかけると、ロレッタ嬢はびっくりした目で僕を見た。
「あの……あの……どうしてアリア様はわたしを助けてくださったのですか? わたしたちは今日会ってまだ間もないわけですし、そもそもご挨拶した時だってろくにお話も出来なかったのに……」
特段仲が良いわけでもない僕に助けられるとは、考えてもみなかったのだろう。
ひたすら早口で疑問をつぶやいた。
「なるほどたしかに、僕と君とはそれほど仲が良いわけではない」
「え、ええまあ……」
「ただ顔を知っているというぐらいの、ごくごく薄い関係だ」
「そ、そこまで面と向かって言われるとなんだか……」
胸の前でいじいじと手指を絡ませるロレッタ嬢。
「だから君はこう考えているんだろう? 『この女、何が狙いだ?』と」
「そ、そんなこと考えてませんよっ!?」
「『家の財産でも狙っているのか? 姉たちを殺し、自分をたぶらかして家ごと乗っ取るつもりか?』と」
「考えてないです! そんな恐ろしい事、まったく考えてないですからっ!」
動揺して声を荒げるロレッタ嬢の肩に手を当てて落ち着かせると、僕は続けた。
「だが、安心してくれ。僕は君の財産などにまったく興味がない」
「そうですか安心しました、とはならないですけどね……わたし別に財産のこととか一言も言ってませんし……」
ひたすら困り顔のロレッタ嬢。
「なぜ君を助けたかというと、それはシンパシーによるものだ」
「しんぱしー……?」
「シンパシーとは、こちらの言葉で言うなら共感といったような意味だ。僕は君に共感を抱いていたんだ」
「わたしに……共感を……共感……はっ?」
ロレッタ嬢は息を呑んだ。
「まさかアリア様もわたしと同じ……っ?」
同じとはどういう意味だろう。ロレッタ嬢は震える指で、自らの抱いている書物を差し示すが……。
「いや、その書物は関係ないと思う」
「じゃ、じゃあ違うタイトルのもので? 『離宮の君』とか『幾百年を超えても君を愛す』とか?」
「どちらも知らない、関係ないな」
「ええと……じゃあ、じゃあ他には……」
「関係ないと言ったろう。書物ではなく、君自身だ。君自身に僕は共感したんだ」
「え……え……え……っ?」
僕の言葉に、ロレッタ嬢は思わずといったように息を呑んだ。
「書物ではなくわたし自身に……? それって……それって……」
ボソリと僕の言葉を繰り返した後、顔色を変えた。
急激に、耳まで真っ赤に染めた。
「それってまさか、まさか……?」
「そうだ、そういう意味だ。僕は君の在り方(人前に出ると上がってしまうところとか、ダンスや話が上手く出来ないところとか、いるだけで周りの空気を悪くしてしまうところとか)に共感を覚えたんだ。君こそはまさにもうひとりの僕なのではないかと」
「そ、それは『百合の紋章を抱く誇り高き騎士』第一巻のヴァレスティ様のセリフ……。ヒロインを口説く時に肩に手を置いて瞳を覗き込んで、あの尊い……尊い……やはりアリア様は……」
「……はあ?」
なぜだろう、ロレッタ嬢は目とろんとさせている。
膝を震わせ左右にフラつき、もはや立っているのがやっとという状態だ。
「ロレッタ嬢。その……大丈夫か? どこか具合でも?」
「ふにゃあああ~……そんな熱い瞳で見つめられたとろけちゃいますぅ~……」
「ろ、ロレッタ嬢おぉぉぉぉー!?」
必死に声をかける僕と、とろけるように崩れ落ちていくロレッタ嬢。
僕を探していたのだろうレイミアとレザードが駆け付けて来るまで、混沌とした状態は続いた。
おーっほほほほほ! みなさまご機嫌よう!
西園寺・ドンクリスティ・龍子よ!
あらあら、無意識のうちにロレッタを落としちゃったわね。
でもこの子、ひとりで盛り上がっちゃうタイプだから大変そう。
特にレザードなんかどう思うのかしら。
ドキドキね。
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