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異世界に転生した平凡な私の非凡な日々~ドラゴンさんに懐かれました。  作者: もり


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91.ドラゴン激怒する

 

『エピが……お父さんがせっかく作ってくれたエピが……』

「ミヤコちゃん、大丈夫だよ。あれは拾って……えっと、浄化魔法で綺麗にして私が食べるから。ミヤコちゃんには新しいのを用意するからね?」

『そういう問題ではないのだ。お父さんが精魂込めて作ってくれたエピを落とすなど、あり得ないことなのだ』

「ご、ごめんね。私がうっかりしてたんだよ。私が落としたも同然だから、本当にごめんなさい」

『コルリは悪くなどないのだ。我が……我が勢い余って風圧を抑えきれなかったからなのだ』

「違うよ、本当に」


 今にも泣き出しそうなミヤコちゃんを必死に慰めるけど、自己嫌悪がすごい。

 私が早々に用意しちゃったのがいけなかったんだよ。


『なんと卑しい小娘か。落ちたものを食べようなどと。それもたかが饅頭の一切れごときで』


 あ、それは失言だよ。

 それにお父さんが作ってくれたパンを馬鹿にするのも、食べ物を粗末にするのも許せない。


「ちょっと麒麟さ――!?」


 また何が起こったかわからなかった。

 一瞬で目の前から麒麟さんが消えたんだよ。

 風圧とか何もなくて、ただミヤコちゃんが右手を拳に固めて振り上げてるのは見える。


「……え?」


 私が漏らした声かと思ったけど、お兄ちゃんの声だったみたい。

 ノスリもツグミさんもぽかんとしてるのは仕方ないと思う。

 会話の内容がわからなかったしね。


『ふむ。なかなかよい拳だったな』

「アウル?」


 右手を日差し除けにして遠く海の彼方を見るアウルはとっても満足そう。

 私も思わずそっちを見たけど、何も見えない。


「コルリさん、あの方はどこに行ったの?」

「……わからナイ」

「ミヤコの素晴らしい拳によって、海の彼方に飛んで行ったのだ。このまま彼の地へ帰りつくのではないか?」

「ミヤコちゃんが殴ったのか?」

「うむ。目にもとまらぬ速さであったな」


 私もアウルの説明でようやく理解できたよ。

 まさかミヤコちゃんの拳がさく裂して、麒麟さんがお空に還った……じゃなくて東の国に帰ったなんて。

 いや、さすがにそこまでは飛ばないか。

 てか、それほどの勢いがついたら普通は死…怪我しちゃうよね。


「ミヤコちゃん、大丈夫?」

『我は……我は怒ってるのだ。こんなに腹が立ったことは初めてで、どうすればよいのかわからなかったのだ。怒りとは、こんなに苦しいものなのか?』

「……そうだね。怒るって、苦しくて、悔しくて、悲しいよね」


 拳を下ろしたミヤコちゃんはプルプル震えてて、私はぎゅっと抱きしめた。

 今まで誰かと接することがあまりなかったから、怒りという感情も経験したことがなかったんだね。


『我は…これからどうすればよいのだ?』

「うーん、どうしよっか?」

『コルリは答えを持たぬのか?』

「うん。すごく腹が立ったとき、怒りの発散方法がわからなくてイライラすることはあるけど、そのイライラをどうすればいいのかいつもわかんないの。それでついお母さんやお父さん、家族に当たってしまったりするんだ」

『お母さんやお父さんにか? 怒りの原因だからか?』

「そんなときもあるし、そうじゃないときもある。そうじゃないときのほうが多いけど、それって八つ当たりって言って、よくないことなんだよ」

『ふむ。確かにやつあたりとやらがよくないのはわかる。では、怒りの原因だったらいいのか?』

「……それもわかんないな。怒りの原因って言っても、相手にとっては悪気があったわけじゃないかもしれないでしょ? 悪気がなければ何でも許されるってわけでもないけど、怒りは……私の主観でしかないから」

『コルリの申すことは難しすぎてよくわからぬ』

「うん。私もわからないよ。だから正直答えなんてないと思う。ただ、相手はどう思ってるのかは重要かもしれない。いきなり怒りをぶつけられて驚いているのか、怒らせてやったぞって喜んでいるのか。だから話し合える相手なら、話し合ったほうがいいかな?」

『話し合える相手?』

「家族とかこの先も仲良くしたいって相手。嫌な思いをさせられる相手とは無理に付き合う必要はないからね」


 家族でももちろんわかり合えないこともあるけど、それはまだミヤコちゃんには言う必要はないかな。

 怒りも悲しみも喜びも、全部自分の主観でしかないから、わかり合えるなんてすごく難題なんだよ。

 本当は私がこんなことをミヤコちゃんに偉そうに説明なんてできない。

 博識の白澤のほうが向いてると思う。

 だけどアウルは落ちたエピを拾って綺麗にしてくれたらしく、みんなと一緒に昼食の準備をしてる。


 そうだよね。いっぱい働いて、お腹が空いてるよね。

 空腹だとイライラしちゃうことも多いし、ひとまずはご飯を食べるのが一番かも。

 これからのことはそれから考えよう。


『ミヤコ、コルリ、ご飯なのだ』

「うん、ありがとう」

『エピがある……』

『今日は頑張ったからたくさん用意したのだ』

「あれ? 落チちゃっタやつは?」

「俺が先に食べたよ」

「ノスリが?」

「何があったかアウルから聞いたよ。でもまあ、やっぱりうまかった」

「私が食べルつもりだっタのに……」

「相変わらず食い意地張ってんな」

「違うシ!」


 ノスリは相変わらず失礼で優しいよ。

 ミヤコちゃんはご飯を見て嬉しそう。

 アウルはやっぱりわかっててご飯の用意をしてくれたのかな。

 さすが博識の長生き。


「アウルっテ、長老みたいだネェ」

「何を申すのだ! 余はそこまで年寄りではない!」

「どこまでなのかよくわからないけど、とりあえず食べようか」


 お兄ちゃんの言葉を合図に、みんなが食べ始める。

 それからは和気あいあいとしながら、午前中の出来事を話した。

 どうやら文様はアウルが見つけた五か所を破壊したらしい。

 全て海岸線沿いだったって。


「余が思うに、この国の魔獣の出没頻度が高かったのは、気脈の変化と麒麟の文様によるためである。よって、これからこの国は落ち着くだろう」

「で、デモ、普通に魔獣は出没するっテことだヨネ?」

「それも当分は大丈夫だろう。何せミヤコと余がこの地に降り立ち力を使ったのだ。下等な魔獣どもは恐れて近寄りもせぬはずである」

「そっカ……」


 何だかマーキングみたい。

 でもすごく嬉しいことだよね。

 だって、念願の――ノスリがずっと苦しんで、この国を救おうと夢見て頑張ってきたことが叶ったんだから。


「今回のことについては本当に皆さんに感謝しています。父たちに報告すれば、皆とても喜ぶでしょう。それどころか国を挙げてのお祭り騒ぎになるでしょう。ただその前に、なぜ麒麟が今回のことを行ったのか、それが知りたいです」


 改まった口調のノスリは王子様に戻ってしまったみたいだった。

 でも最後の疑問、それはそうだよね。

 そこを解決しないと、何にもならないよ。


「麒麟はミヤコちゃんが東の大陸に帰してしまったんだよね?」

「おそらく。だが問題ない。皆で麒麟を訪ねればよいのだ」

「訊ネる?」

「訪ねて訊ねるのだ」


 んんん?

 みんなで東の大陸に行くってこと?




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