73.素直じゃないな
『水の王よ、そのように泣いてはまた洪水が起こるではないか』
「ヒッキー!」
土の中から現れたヒッキーはかなり迷惑そうな顔をしてる。
また洪水が起こるって、どういうこと?
「ねえ、アウル。水の王様が泣くと洪水が起きるの?」
『あり得るな。確か昔、水の精霊が人間の男に失恋して悲しみのあまり雨となって村に降り注いだとか何とかって話を聞いたことがある』
「え? それじゃあ、水の精霊の王様だと本当に洪水になっちゃうってこと? ここが沈んだら大変だよ!」
『うむ。その通りだな。これ、水の王よ。泣くのなら場所を移動するのだ。この先に新しい湖が必要だからな』
アウルってば容赦ないな。
でもまあ、このまま気脈が修正できたらいいよね。
「ヒッキーはまだ造成の途中じゃなかった?」
『今日はもう気分が乗らぬ。私は泥のように眠りたい』
「あ、うん。泥なら今着々とできてるね。じゃあ、ゆっくり休んで? それまで水の王様に水脈の修正をしてくれるよう頼んでみるし」
『聖なる乙女は私を見捨てるのか?』
「はい?」
『水の王がいるから、もう私は用なしなのだな?』
ええ? またわけわからないこと言い出したよ。
水の王様の態度から、アウルがお願いすれば水脈の修正はしてくれそう。
それでも時間はかかるだろうから、ゆっくり休んでほしかっただけなのに。
「あのね、ヒッキー。ここ数日ヒッキーは苦手なのに外に出ていっぱい働いてくれたよね。だからゆっくりしてほしいだけだよ」
『だが、水の王には何か頼むのだろう? 私の大切な土地がまた水浸しになるのではないか?』
「水浸しにはならないよ。アウルが説明したんじゃないかな? 気脈を修正して、この土地に魔獣が集まらないようにするんだよ」
『確かにそのようなことをおっしゃっていたやもしれぬ』
やっぱり説明してたんだ。
ヒッキーもふむふむって考えてアウルと水の王様を見た。
これで気脈の修正ができれば魔獣が集まらないし、聖獣も狂ったりしないよね?
って、あれ?
そういえばヒッキーや水の王様、権兵衛もこの土地にいてもおかしくなったりしないのかな?
まあ、常に変わっているとは思うけど。
『水の王が湖を新たに造るというのなら、私はやはり湖を埋め立てるぞ』
「あ、うん。無理しないよう頑張って。応援してる」
『うむ。任せてほしい』
ヒッキーは私の言葉に嬉しそうに頷いた。
言葉一つでこんなに喜んでくれるなら、もっと心を込めればよかったな。
ライバル心から地脈修正の続きをしてくれるんだと、微妙な気持ちになったけど、やってくれることに違いはないもんね。
「みんな、ヒッキーが修正ヲ頑張っテくれるっテ!」
「ありがとうございます、土の王様。とても助かります」
「うんうん。太陽は昇ってしまったのに、ありがたいねえ」
「あと少しですものね。頑張ってください!」
「ヒッキー、みんながあと少し頑張ってって。すごく助かる、ありがとうって」
ノスリもお兄ちゃんもツグミさんも、ヒッキーに声援を送ってくれる。
要約して伝えると、無表情なヒッキーの口角が少しだけ上がった。
また笑ったよ、ヒッキーが!
どうしよう。踊ってもいいかな!?
気分が高揚すると踊りたくなるよね? ならない?
でも歌う人はいっぱいいるよね!
じゃなきゃ、ミュージカルって生まれなかったと思うんだ。
うん。ほら、誰かが歌ってる! ……いや、これ、泣き声だ。
「アウル……水の王様に何言ったの?」
『余は何も言っておらぬ。水脈の修正のために説明していただけなのだ』
水の王様がまた筋斗雲の上で「おいおい」泣いているから、アウルに怒られでもしたのかと思ったけど違ったみたい。
じゃあ、今度は何かと注意して聞けば……。
『土の王が……土の王が笑った……。吾輩には決して見せてくれぬ笑みを、あの娘には向けた……なぜだ……吾輩の何が駄目なんだ……』
うそーん。まさかの水の王様、ヒッキーを好きすぎる件。
え? 今までのケンカは全部そういう感じ?
ヒッキーの気を引きたかったとか?
「ヒッキー、水の王様はヒッキーと仲良くしたいみたいだよ?」
『そのようなわけはない。あやつは私に触れるのも嫌だと、自ら作り出したあの雲に常に乗っているのだから』
「あー。あれ、そういうこと?」
素直じゃない。ほんと水の王様は素直じゃなさすぎる。
アウルどころかミヤコちゃんも呆れて大きなため息を吐いたよ。
ミヤコちゃんにため息を吐かれるとか、悲しいお知らせだよ。
ノスリたちもアウルに通訳してもらって、残念な視線を水の王様に向けてる。
こんなことで気脈が乱れたんだとしたら、この国の人たちには大迷惑だよね。
素直じゃないとかいうレベルじゃない。
よし、ここはちゃんと仲良くなってもらわないと。
それが無理でも話し合いは必要だよ。
王様同士が仲悪いままだと、またケンカして気脈が乱れたりするかもしれないし。
そう思ってアウルに相談しようとしたら、権兵衛が高笑いしながら戻ってきた。
『どうした、どうした? 皆、深刻な顔をして。俺様がいなくて寂しかったのか?』
「……うん。実は権兵衛にお願いがあって」
『何だ? 遠慮なく申してみよ』
「私のお父さんやお母さん、家族が元気にしてるか、様子を見に行ってくれないかな?」
『はーはっはっはっ! それくらい容易い! 任せるがよい!』
「うん、ありがとう!」
にっこり笑ってお礼を言うと、権兵衛はばびゅーんと飛んでいった。
いや、単純すぎるよ。前回も全く同じパターンだったのに。
さてと、本題に入ろう。




