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異世界に転生した平凡な私の非凡な日々~ドラゴンさんに懐かれました。  作者: もり


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7.ファンレター

 

「きゃあ! 今、こっちに向かって手を振ってくれたわ!」

「いやぁん! かっこよすぎる~」

「幸せ~」


 今日もファンクラブのみんなでイスカ様に黄色い声を上げる。

 ああ、私の癒し。

 タゲリは相変わらずうっとうしいし、ノスリの足を引っ張らないように勉強もしているから成績は下がらないしで悩ましい日々の中で、イスカ様は私のオアシス。


「決めタ! 私、ファンレターを書く!」

「ファン、レター?」


 この滾る思いを発散させるには、ファンレターを書いて渡せばいいんだと思う。

 残念ながら、イスカ様のグッズ販売は当然ないし、写真はないし、姿絵は王族の方々しか販売していないし、私が前世でアイドルにぶつけていたような情熱を消化できるのは、ファンレターしかないんだよね。

 同士たちは聞き慣れない言葉に首を傾げているので詳しく説明すると、なるほどとみんな納得してくれた。


「要するに、お礼の手紙なのね?」

「そうなノよ。応援なんていうのは、私ごときがおこがましいけど、イスカ様の笑顔を拝見できるだけで、どれだけ毎日に張り合いが持てテ、学校に来るのも楽しくて仕方ナイって感謝の気持ちを伝えたいノ」

「でも、お手紙を渡すなんて、失礼にならないかしら?」

「確かに……」

「それは私も考えたんだケド、別に不相応に好きだって告白するわけでもナイし、ただ感謝の気持ちを伝えるだけだモノ。イスカ様も自己紹介なされる時におっしゃっていたじゃナイ。身分は関係なく、どうか普通に同窓生として接してほしいっテ」

「そういえば、そうおっしゃっていたわよね」


 そこからは、じゃあどんな内容にするかで、みんなでわいわいと話し合った。

 そして、字が一番綺麗な子が清書してくれる。

 私の字はかなり怪しいからね。


「で、何で俺がそれを読まなきゃいけねえんだよ」

「男子の意見も聞きたくて。ほら、女子だけだと夢見がちになりすぎるかもしれナイから」


 放課後の自習室で、ノスリに手紙の下読みを頼んだら、文句を言われた。

 まあ、これは想定内だ。

 でも知ってる。いつも文句を言いながら、ノスリは頼みごとを引き受けてくれるんだよ。


「……お前ら、こんなことやって虚しくならねえ? 生産性がねえよ」

「はイ? 生産性って何? 夢を見るのに生産性なんていらナイよ。むしろ、理想を追い求めて夢見すぎてるのは男子だと思う。まあ、心配しなくても、みんな本当は現実的だカラ。自覚して夢を見ているノ」

「なんだか馬鹿にされた気がする……」

「そんなことナイナイ。お願い」

「……仕方ねえなあ」


 そう言って、ノスリは手紙を受け取ると、読み始めた。

 口調は乱暴なのに、その手つきはとても丁寧で、しわにならないように気をつけてくれているのがわかる。

 やっぱりノスリは優しい。


「……」

「……どうだった?」

「なんつーか、ちょっと怖え」

「ええ?」

「女子の妄想が怖え。男って、こんなもんじゃねえよ。でもまあ、お貴族様なら違うかもだし、イスカ様とやらなら受け入れてくれんじゃねえの?」

「ってことは、大丈夫ってコト?」

「たぶん」

「頼りナイ!」

「仕方ねえだろ! 俺だって、イスカ様とやらの気持ちはわからねえんだから。ただまあ、ちょっと怖えけど、好意を寄せられて悪い気になる男子はいねえと思う」

「そっか……うん。ありがとう、ノスリ! じゃあ、明日勇気を出しテ渡してミルよ!」

「……おう、頑張れ」


 ノスリの太鼓判をもらって、――ということにして、勇気を得た私は次の日の放課後、イスカ様ファンクラブの女子と一緒に食堂へとやってきた。

 イスカ様は放課後、いつも食堂でお友達と一緒にジュースを飲んでからご帰宅されるって情報はとっくに入手済み。

 そして予想通り、イスカ様を発見!


「ドド、ど、どうしよう……緊張しテきた……」

「大丈夫よ、コルリさん。イスカ様はお優しいから。きっと笑って受け取ってくださるわ」

「そうよ。私たちの想いを、どうか伝えてちょうだい!」


 いざとなると、足踏みしてしまうのは仕方ないことで、そんな私を同士が応援してくれる。

 そうよね。言いだしたのは私だし、昨日頑張ってみんなで考えたんだから。

 やるしかない!


「あの! イスカ様……」


 勢いよく声をかけたものの、実際にイスカ様に注目されると、その声もしぼんでいく。

 もじもじする私に、お優しいイスカ様は微笑みかけてくれた。


「何かな?」


 その笑顔に勇気を得て、私はえいや! と手紙を差し出した。


「これ、私の――私たちノ気持ちデス!」

「……」


 手紙を差し出したものの、腰から上は地面と平行になっている上に、目も瞑っているからイスカ様の表情は見えない。

 だけどきっと、イスカ様はいつもの優しい笑みを浮かべられて、「ありがとう」って受け取ってくれるはず――。


「ああ、もう無理。父上にはおとなしくしていろって言われたけれど、これ以上は我慢ならない。何なの? 君たちの気持ちって……気味が悪いんだけど」

「――え?」


 信じられない言葉に、恐る恐る顔を上げてみると、イスカ様は今までにないお顔をされていた。

 それは迷惑そうというより、蔑むような冷たい表情。


「今までさ、君たち平民をかわいそうだと思って、笑顔を振りまいていたけど、もう耐えられそうにないよ。まさか分を弁えずこんなものまで渡そうとするなんて」


 イスカ様は私の背後の壁から覗く同士たちに侮蔑の視線をちらりと向け、ぽかんとしてしまった私を睨みつけた。


「何、俺と目を合わせてるの? 無礼だよ、君。身分ある者のご尊顔を直接見るなって教えられなかった? 頭を下げろって教えられなかった? 平民はこれだからダメなんだよ。躾がなってない。しかも何? その話し方。頭悪いの?」


 そう言うと、イスカ様のお友達がぷっと噴き出した。

 確か、この方も爵位こそないけれど、お家は卿士の方。

 そんなことをぼんやり考えながらも未だに差し出したままだった手紙を、イスカ様はひったくるように取ると、目の前で開封もせずにびりびりと細かく破って捨てた。


「ああ、汚れてしまったよ。僕の手も、この庶民の食堂も。ちゃんと這いつくばって拾っておけよ、愚民」


 イスカ様は信じられない言葉を残して、大笑いしているお友達と去っていった。

 ご丁寧に、ご自分がまき散らかした手紙の破片を踏みつけて。

 そして、私は呆然としたまま、その場に立ち尽くしていた。




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