56.詳細説明
「フォーシン殿、紹介が遅くなりましたが、こちらは私の友人で学院ではパートナーを組んでいたコルリ。そしてコルリのお兄さんのヒガラさん。彼女は学友のツグミさんです。みんなこの国の惨状を知り、力を貸してくれるためにわざわざ同行してくれたのですよ」
「さようでございましたか。私はヘンリー・フォーシンと申しまして、このスクバの街周辺の警護を任されている者でございます。コルリ殿、ヒガラ殿、ツグミ殿、ここまでノスリ殿にお付き合いくださり、誠にありがとうございました。しかもこの国のためにお力をお貸しいただけるとのこと、重ねてお礼を申し上げます」
「い、いいえ。フォーシン様、どうか頭をお上げください。私もコルリも本当にノスリ君にはお世話になっていて、お礼を申し上げなければならないのは私たちのほうです。なあ、コルリ」
「う、ウン。あの、ノスリ…君にはいつモお世話になってマス」
「私も色々とノスリ君にはお世話になっているんです。私自身は大した力になれませんが、それでも何かお手伝いをさせていただきたくて、ご迷惑を承知で参りました。フォーシン様、どうぞよろしくお願いいたします」
「みんな、やめてくれよ。フォーシン殿も、どうか畏まるのはやめてください。すごく……調子が狂ってしまいます」
ノスリの紹介をきっかけに、みんながそれぞれ挨拶やらお礼やら言い出して、ノスリは困ったように笑った。
言葉遣いは違ってもいつものノスリだ。
何だか安心したな。
それから、立ち話もなんだからと護衛兵たちの宿舎のような場所へと案内してもらうことになった。
やがて見えてきた宿舎は窓に鉄格子がはまっていて、とても頑丈そうにできていた。
「すごいですね……」
「ええ、いつ魔獣が襲ってくるか、わからないですからね」
お兄ちゃんが思わずといった調子で呟くと、フォーシン隊長さんは重々しく答えてくれた。
そうだよね。
ここはそれほどの土地なんだ。
「それでも大型の魔獣が現れれば、ここもひとたまりもないでしょう。一昨日、街に現れたような獣ですと」
「一昨日……」
「ええ、二体も現れたんですよ。しかも奴らはなぜかお互いで争っていました。初めて見る種でしたが、本当にわからないことばかりです。――もちろん、ここの地下壕は特に頑丈ですから、心配することはないですよ」
私の呟きを不安と受け取ったのか、隊長さんはバンバンと背中を叩きながら慰めてくれた。
けど、痛いです。私、これでも女の子なんです。
旅装束は余計なトラブルを避けるためにも男装に近いけど、それでも女性らしいツグミさんを見て何度ため息を呑み込んだことか。
「フォーシン殿、力加減に気をつけてください。コルリはあなたの部下たちと違うんですから」
「え、ああ、ついうっかり。すみませんでした、コルリ殿」
「い、イエ。大丈夫デス」
ケホっと一回軽く咳をすれば、呼吸もできるし、問題ないよ。
でもさり気なく注意してくれたノスリには感謝だ。
ありがとうの気持ちでにっこり笑いかければ、ふいっと顔を逸らされてしまった。
え? 無視?
ちょっと傷つきつつ、隊長さんの隣に並んだノスリの後ろをお兄ちゃんとツグミさんと一緒について行く。
「フォーシン殿、街の人たちはいつ避難したのですか?」
「二年程前から特に魔獣の襲来が酷くなりましてね。その頃から皆、ぽつぽつと街を離れ始めたんですが、一年前に国からお布令が出たのです。しばらくの間、この街から避難せよ、と。ただ、いったいいつまで避難すればよいのかもわからず、街の人々も混乱してましてね。やはり離れたくないと言う者もおりましたし、完全に避難が完了したのはひと月ほど前です」
「では、フォーシン殿がこの街へ来たのは混乱を収めるためですか?」
「はい。陛下からの勅命を受けこの街へ赴任いたしました。また無人になった街を放置するわけにもいかず、そのまま駐在させていただいております」
二人の会話を後ろで聞きながら、私とお兄ちゃん、ツグミさんは顔を見合わせた。
前から何となくノスリはただ者じゃないとは思っていたけど、やっぱりだ。
ひょっとして、さっきの態度はそのせい?
この国ではノスリってとっても偉い人の息子さんで、私みたいな庶民とはあまり親しくできないとか。
そう思うとずんとお腹が重くなってきて、足取りも重くなる。
ちょうどその時、応接室のようなところについたらしく、部屋へと通された。
ふかふかとは言い難いけど、座り心地のいいソファを勧められて、ノスリが私とツグミさんに先に座るようにと促した。
うん、レディファーストだね。
それから、お兄ちゃんに勧めるところは、やっぱりノスリらしい。
そして部下の人がお茶を出してくれて落ち着いたところで、隊長さんが口を開いた。
「――それで、部下が言っていたことは本当なのですか? 先ほどの魔獣が使い魔だというのは?」
「それは……」
ノスリは答えかけて私をちらりと見た。
そういえば、街へ駆けつけることに気を取られて、きちんとした説明を考えていなかった。
大失敗だ。
「えっト、ノスリが思うように説明しテ?」
今は幸い隊長さんしかいないし、ノスリがよく知っている人みたいだからお任せ。
ノスリならきっといいように話してくれるから。
そう思って言うと、お兄ちゃんも賛成するように頷いてくれた。
「これから説明することは、ひとまずはフォーシン殿の胸に仕舞っておいてほしいのですが……」
「わかりました」
「ありがとうございます。実は……先ほど現れた魔獣は、警備兵たちには使い魔だと説明しましたが、正確には違うのです」
「違う?」
「ええ。彼らは〝ペガサス〟と〝白澤〟という魔獣で、とても知能が高い。もちろん人を襲うこともなければ、意思の疎通もできるんです」
「意思の疎通ができると!?」
「そうなんです。正確には、ここにいるコルリとできるようになって、僕たちともコルリを通じて仲良くなりました。彼らは友達なんです」
「と、友達ですか……」
ノスリに手で示されて、隊長さんの視線がこちらに向いたのでぺこりと頭を下げる。
そのまま続いたノスリの言葉に、隊長さんは唖然としたようだった。
うん、普通は信じられないよね。
ここはやっぱりアウルに話してもらったほうがいいかな?
論より証拠。百聞は一見に如かず。
ミヤコちゃんはすっかり寝ちゃっているし。
「アウル――」
子犬のままのアウルに声をかけようとしたその時、鞄の中のミヤコちゃんがひょこっと顔を出して、アウルもぴんと短い尻尾を立てて窓のほうを向いた。
何? まさか、魔獣が現れ――って思った瞬間、開いていた窓から突風が吹き込んできた。
ええ……。これって、もしかしなくても……。
風の勢いに瞑っていた目を嫌々開けると、やっぱりいた。
裸の――いや、半裸の王様が。
『こんなところにいたのか。俺様に足を運ばせるとは無礼なやつめ!』
うわー。当たってほしくなかった予想が当たったよ。
しかも、顎が外れるんじゃないかってくらい、隊長さんがぽかんと口を開けているんですけど。
油断して、この場にいる全員に姿を見せてるんだ。
相変わらず権兵衛は空気を読まないよ。




