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異世界に転生した平凡な私の非凡な日々~ドラゴンさんに懐かれました。  作者: もり


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46/110

46.お別れ

 

「……失踪?」


 意味がわからず私が訊き返すと、お兄ちゃんは頷いてくれた。

 失踪って突然姿を消すってことだよね。


「でも、ツグミさんのお父さんトカはともかく、友達は心配するんじゃないカナ?」

「それは、もちろん手紙でも残しておくべきだとは思うよ。自分の意思表示のためにもね。ただもみ消される可能性もあるから、友達へは別の形で届くようにしたほうがいいかな……?」


 私も出発前日には、仲良くしてくれた元イスカ様ファンクラブのみんなにできれば会いたいと思ってて、無理なら手紙だけでもと思っていたからちょっとほっとする。

 お兄ちゃんは答えてくれながらも、自分の言葉で気付いたらしく、最後は疑問形になってた。

 そうか。学年一番の優等生が失踪って問題だよね。

 公爵家にとっても大問題だろうし、醜聞を避けるためにもみ消される可能性もあるのか。


「またミヤコちゃんかアウル君に協力してもらわなければいけないけど、僕たちが出発してから……そうだな、十五日くらい後にいきなり姿を消せば、僕たちとの関係はまず疑われないだろうね。だからコルリは堂々と最終日には登校して、みんなにお別れを言ったほうがいい。ツグミさんにもしっかりとね」

「ナルホド」

「まあ、ツグミさんには一人で持ち出せるだけの最小限の荷物にしてもらわないと、失踪感が出せないから申し訳ないけどね。それに……」


 言いかけて、お兄ちゃんは結局何も言わなかった。

 たぶんまだまだ考えることがいっぱいあるんだろうな。

 私はこういうことは苦手で、ツグミさんを助けるって言いながら、何もできないからせめてお兄ちゃんの考えの邪魔だけはしないようにと黙っていた。


 それからあっという間に時間は過ぎて、私が退学することになる当日。

 久しぶりに登校した私は、いつものように何事もなく授業を受けた。

 ううん、何事もなくってのは嘘かな。

 校門に入った瞬間からみんなの視線が集まってて、教室では仲の良かった子たちが集まってきてくれた。

 どうやらもう、私が退学することは広まっているみたいで、みんな別れを惜しんでくれた。

 それに比べて、ノスリは何も言っていないのか、特に変わったことはない。

 さらには、途中で退学していく生徒も多いので、先生から何か言われることもなく、前に出て「今までお世話になりました」なんて挨拶もなし。

 まあ、退学する生徒は、成績不足で強制退学の下位クラスに多いんだけど。


「ノスリはいいノ? みんなに挨拶トカ……」

「別にわざわざいらねえよ。もう二度と会うこともないだろうしな。お前と一緒だと知られるほうがめんどくせえ」

「確かニ……」


 ノスリが今までパートナーの私以外と仲良くしなかったのは、こういう別れがあるってわかってたからなんだ。

 今さら気付いて、なんとなく寂しいような複雑な気持ち。


 それからお昼休みになって、いつもの場所で、元イスカ様ファンクラブのみんなとも別れを惜しんだ。

 国の機関で働くことになったって、嘘ついてごめんね。

 さらには、ツグミさんとのことも黙っててごめんね。

 ツグミさんには今日の夜にでも手紙をミヤコちゃんに届けてもらうねと言ってある。

 読み終わったら燃やしてねとも。

 ツグミさんは余裕の笑顔で頷いた。さすが優等生。


 お弁当を食べ終わってからも、その場でおしゃべりをしていると、なんとイスカ様が近づいてきた。

 例のお友達も一緒だ。

 思わず立ち上がった私たちに、イスカ様は以前の似非王子様スマイルじゃない本物の爽やかな笑顔を向けてくれた。

 やっぱりイケメンの笑顔は破壊力がすごいな。


「聞いたよ、コルリ君。今日で退学して国の機関で働くんだってね?」

「はい。あの……イスカ様にはご迷惑ヲおかけして……」

「いや、迷惑をかけたのは僕たちのほうだよ。コルリ君には本当に感謝しているんだ。これから君の前途が明るいものになることを祈っているよ」

「あ、ありがトウございます……」


 ホント、この人は誰なんだろう……。

 別れを惜しむような、少し寂しそうな微笑みを見ながら思う。

 ああ、なぜかイスカ様の笑みが菩薩様の微笑みに見えてきた。

 これがアルカイックスマイルってやつか。

 去っていくイスカ様に思わず両手を合わせて拝んでいたら、ツグミさんに「何しているの?」って突っ込まれてしまった。

 これは元日本人としての反射行動です。まだ柏手を打たなかっただけ良しだよ。

 あ、柏手は神様へだから菩薩様には違うか。


 ミヤコちゃんも『あやつは改心したようで何よりだな』なんて満足そうに呟いている。

 よし、イスカ菩薩様にも応援してもらったし、全てが上手くいくような気がしてきた。


 そしていよいよ放課後になり、みんなと最後の別れを惜しんだ。

 明後日にはもう引越しだから、明日は街のみんなに挨拶をしよう。


 家までは、やっぱりノスリが送ってくれることになってありがたいんだけど、大きめの荷物を持ってもらうのは申し訳ないなあ。

 実は今までにもノスリが少しずつ持って帰ってくれてたんだよね。

 それでも不思議と荷物はたくさんあって、私も持っているけど、ノスリのほうが重そう。

 やっぱりもう少し私が持ったほうが……なんて考えて、校門を出た。


「ねえ、ノスリ。やっぱり――」

「おい」

「そっちのが重そうだし、私が持つヨ。私のなんだカラ」

「おい」

「いいよ、今さら。これでも俺、男なんだからさ、女の子に重いほうを持たせるとかありえないだろ」

「ええ? それこそ今さらダヨ。ノスリに女の子扱いされるの気持ちワルイ」

「おい、コルリ!」

「コルリ、いい加減に答えてやれよ」


 ノスリに言われて仕方なく振り向く。

 すると、予想通りタゲリが仁王立ちで私をじろりと睨んだ。

 めんどくさいなあ、もう。


「お前、無視するなよ!」

「だって、私の名前は〝おい〟じゃナイし、気付かなかったヨ」

「お前な……」

「で、何? 私、早く家に帰りたいんだケド」

「お、俺も一緒に帰ってやるよ! 近所だし! に、荷物持ってやるから……ほら、こいつは寮だろ? 俺はついでだからな!」


 そう言って、タゲリはノスリの持った荷物を取ろうとした。

 だけど、ノスリはひょいとタゲリの手を避けて、にっこり笑う。


「いや、いいよ。俺はお世話になったコルリの家族に挨拶したいから。よくご飯をご馳走になったり、遅くなった時は泊めてもらったりしたんだよ」

「泊めてもらった!? コルリの家にか!?」

「そうだヨ。寮は門限があるカラね。じゃあね、タゲリ。一応はありがトウ」

「一応って……。いや、俺も方向は同じなんだから、一緒に帰る」

「ええ?」

「嫌なのかよ? いいだろ、最後なんだから」

「まあ……そうだネ」


 今さらタゲリと一緒に帰っても話すことなんてないのになあ。

 でも最後と言われれば、さすがに断るのも悪い気がする。

 タゲリは私の荷物を――普段の通学鞄まで取り上げて、歩き始めた。

 これが手持無沙汰ってやつかなんて思いながら、苦笑するノスリと一緒にタゲリに並んだ。

 それなのに会話がない。

 気まずくなって、どうにかしてほしいって視線をノスリに向ける。

 すると、今まで黙っていたタゲリがいきなり話しだした。


「なあ、お前らって付き合ってるのか?」

「は?」

「いや、付き合ってないよ。今は」

「へ?」


 一瞬何を言われたのかわからなかったけど、ノスリの言葉で頭に染みた。

 けど、その言い方は何? 「今は」って!?


「じゃあ、前は付き合ってたのかよ」

「いや、付き合ってないよ」

「はあ? ノスリ、お前何言ってるんだ? ふざけてるのかよ!」


 ノスリは笑ってたけど、これは完全にタゲリをからかってるな。

 ちょっと意地悪だなと思ってると、やっぱりタゲリは怒りだした。

 昔だったらすぐに手が出たとこだけど、さすがにもうそれはないみたいで安心。

 でもやっぱりタゲリの怒った声は嫌い。心臓に悪いよ。


「ノスリ、変な言い方しナイで。タゲリも、何でいきなりそんなこと訊いてくるノ? どうでもいいでショ」

「ど、どうでもよくは……」


 男子ってたまによくわかんないことするよね。

 このままケンカになっても嫌だし間に入ると、タゲリはもごもご何か言ってた。

 そうこうしているうちに、分かれ道。


「タゲリ」

「な、何だよ?」

「まあ、今までありがトウね。元気で頑張っテ。じゃあね!」


 今までのことは忘れてあげようと、別れの言葉らしく声をかけて、ぽかんとしたタゲリから荷物を受け取る。

 それからノスリと家へ帰ろうとしたら、タゲリが大声を上げた。


「え? い、いや、待てよ、コルリ!」

「……何?」


 すごく目立ってるんですけど。

 しかも、タゲリの勢いに、今までおとなしくしていたミヤコちゃんが警戒態勢に入っちゃったよ。


『コルリ、こやつからは殺気が感じられるぞ。やるか?』

「ううん、たぶん大丈夫だから。ありがと、ミヤコちゃん」


 ミヤコちゃんの存在に気付いた人たちが、ざわざわと騒ぎだして、私たちを遠巻きに囲む。

 もう、せっかくばれてなかったのに。

 タゲリはそんな周囲には気付かず、真っ直ぐに私を見た。

 あ、やばい。ひょっとしてこれは……。


「コルリ、俺……ずっとお前が好きだったんだ!」


 そう叫んだタゲリの言葉に、周囲から「おお!」と歓声が上がったり、誰かが指笛まで鳴らしてる。

 やーめーてー。恥ずかしすぎる!

 でも、何か言わなきゃだめだよね。


「えっト、その……ありがトウ?」


 これしか言えないよね?

 迷惑だって正直に言ったら、私はご近所さんたちに最低の記憶を残して去っていくことになるし。

 タゲリは私の言葉を聞いて、ぱあっと顔を輝かせた。

 え? 今の社交辞令だよ。

 だけど、タゲリには伝わらなかったみたいで、私に近づき、その手を握った。


「ありがとう、コルリ。引越しするのは残念だけど、手紙くれよな。それから、卒業したら俺、お前の近くに赴任できるよう今から頑張るから、待っててくれな!」

「え……いや、それは――」


 困ると言いかけたけど、タゲリは私の手をぶんぶん振った後に手を離し、家がある方向にダッシュで去っていった。

 何か誤解させてしまった気がする。


「……どうしヨウ、ノスリ」

「どうしようもないな」

「ええ?」


 未だにざわめいている観衆が見守る中、私はこそこそと逃げるようにその場を速足で歩き去る。

 それからノスリに救いを求めたけど、返ってきたのはため息交じりの頼りない言葉。


「まあ、引越し先は言えないんだ。それに手紙なんて、空間魔法が使えない場合は無事に届く確率も低いし、そのうちあいつも諦めるだろ」

「ナルホド……」


 はっきりしたほうがよかったかなと思っていると、ノスリが解決法のような慰めの言葉をくれた。

 タゲリのことは好きじゃないけど、今回ばかりはごめんだよ。




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