34.クラスメイト
翌朝。
長官に言われたことを昨晩のうち胸に刻んで、堂々と上位クラスに入った私は、すごく驚いた。
まさか、これは予想外だよ。
「ノ、ノスリ? どうしテここに?」
「おう、おはよう。コルリ」
「あ、おはヨ、ノスリ。で、どうしてここに?」
「今日から俺も、上位クラスに編入になったんだよ」
「エ?」
「嫌なのか?」
「まさか! ただ、驚いタだけだよ!」
「まあ、驚かそうと思ってたからな。お前が上位クラスになることは目に見えていたし、本気で頑張って先生に試験を受けさせてくれって頼んだんだよ」
「……そうだったんダ」
最近、いつも以上に勉強しているなとは思っていたけど、まさか上位クラスに編入するために勉強してたなんて。
「長官にも努力が足りねえって言われて、なんかムカついたしな。それに、コルリが上位クラスになったら、どちらにしろパートナーに困ることはわかってたんだよ。上位クラスも俺らのいたクラスも奇数になるだろ? だから、先生も少し採点を甘くしてくれたんじゃねえかとは思う。ってか、それを狙ってた」
「ち、違うヨ! これはノスリの実力だよ! 実力じゃないのは、それこそ私にふぉう――!?」
「お前、自分を卑下すんなよ。俺のパートナーなんだからさ」
「う、うん。ゴメン」
いきなり口を塞がれて、何かと思えば、ノスリに怖い顔で言われてしまった。
確かに、実力が近い者同士で組むパートナーだから、今の言葉はノスリにも失礼だったな。
たぶんノスリはそれで怒ったわけじゃないだろうけど。
「もう! それなラそうと、言ってくれればよかったノに!」
「だから、驚かせたかったんだよ」
そう言って笑うノスリの後ろで、誰かが「けっ!」って吐き出した。
なんだなんだ、このクラスはろくに友達もいないような人ばかりだから、寂しいのかな?
友達ってすごく幸せになれる存在だからね。
こんなギスギスした空気の中にいたんじゃ、性格だって悪くなるよねえ。
『コルリ、ノスリはどうしたのだ?』
「うん、あのね。今日からまたノスリと同じクラスになれたんだよ」
『ふむ、そうか。それは、めでたいな』
たぶんよくわかっていないだろうに、私が喜んでいるからミヤコちゃんも喜んでくれてる。
それがすごく嬉しい。
「あのね、これからまたノスリとは学校では一緒なんだよ」
『おお、そうか! それはめでたいな! 友達が傍にいると、とても楽しいからな!』
「うん、そうだね。ミヤコちゃんとノスリも友達だもんね」
『うむ。友達なのだ』
今度はちゃんとわかるように説明したら、理解したらしいミヤコちゃんは心から喜んでくれた。
そして満足そうに頷く。
「ノスリ、ミヤコちゃんもすごく喜んデるよ」
「ああ、俺もまたミヤコちゃんと一緒にいられて嬉しいよ」
そう言ってノスリがミヤコちゃんに向けて笑いかけた。
あれ? ちょっと、今までにない笑顔じゃない?
「ミヤコちゃん、ノスリも一緒にいられて嬉しいって」
『うむ、友達だからな』
ミヤコちゃんは生真面目に頷いたのに、私の肩から飛び立つとノスリの肩に移った。
それに驚いたのは私よりもノスリだ。
「ミヤコちゃん?」
「……友達だからっテ、ミヤコちゃんは言ってる」
「そうか……」
ノスリ、なんだか鼻の下が伸びてない?
あれだな、美少女ミヤコちゃんは本当に綺麗だし、小鳥ミヤコちゃんは本当に可愛いからね。
「でも私は毎晩、美少女ミヤコちゃんト一緒にお風呂に入っテ、同じベッドで寝てるもんネ!」
「何をお前は張り合ってるんだ。何があってもミヤコちゃんの一番はお前だろ」
「そ、そうカナ?」
やだ、照れる。
その気持ちが顔に表れたのか、ノスリがすごく残念な目でこっちを見てきた。
なんてこったい!
何か言おうとしたその時、チャイムが鳴ったので仕方なく席に着く。
すると入ってきた先生はやっぱり出欠を取るだけで、特にノスリの紹介などはなかった。
あっさりしてるなー。
そして休み時間になると、ツグミさんがやって来た。
「まさかノスリ君も入ってくるなんてねえ。愛されてるわねえ、コルリさん」
「ネー? 三年もパートナーだったから離れがたいんダヨね、ノスリ」
ツグミさんの冗談に乗っただけなのに、ノスリは咳き込んでから私を睨んできた。
何よ、私という愛すべきパートナーのために頑張ったんじゃないの?
私も睨み返すと、ツグミさんがくすくす笑う。
「本当に仲がよくて羨ましいわ。私のパートナーはよく変わるし、実力差もあるから……」
つ、ツグミさん、声大きいよ。
しかも嘆いているふりして、思いっきり今までのパートナーにケンカ売っていません?
うん、ツグミさんは敵に回すと怖い人だ。
それからまた授業を受けてお昼休み。
私とツグミさんはいつものように食堂前広場に行くけど、ノスリはどうするのかな?
クラスも変わって、私たちがいなくなったら虐められたりしないかな?
「ねえ、ノスリ。お昼はどこで食べるノ? よかったら私たちト一緒に食べる?」
「馬鹿か。別にガキじゃあるまいし、一人で食うよ」
「そうなの? まあ、それならまた後でね……」
男子ってそういうものなのかな?
それともノスリが平気なだけかな?
だって、日本でも便所飯とかって言葉があったくらいだし……。
「ノスリ、トイレでお弁当食べたりしナイよね?」
「はあ!? お前、頭大丈夫か!?」
「あ、うん。ちょっと聞いてみたダケ。ごめん」
本気で私の頭を心配するようなノスリの表情に、それ以上はもう何も言わなかった。
どうやら考えすぎたみたいだ。
そのやり取りを一部始終見ていたツグミさんが、みんなに面白おかしく言うものだから、お弁当の時間は大いに盛り上がってしまった。
私は本気だったのに。
「でもノスリ君って、基本的にコルリさん以外の誰かと一緒にいること少ないよね」
「まあ、パートナーだから仕方ないといえばそうだけど、タゲリ君がかわいそう」
「ちょっト、どうしてそこでタゲリが出てくるノ?」
「ええ? だって有名じゃない。タゲリ君がコルリちゃんのことを好きだって。まさか知らなかったの?」
「いや、……有名なのは知らなかっタ」
「てことは、タゲリ君の気持ちには気付いてたんだね!?」
「うーん……自惚れカモって思うことはあったけど、正直なトコロ、どうでもいいっていうカ、うざいっていうカ……」
「タゲリ君、なんて気の毒な……」
「コルリちゃん、ずるいー。男子の中で人気上位の二人を独り占めしながら、弄ぶなんて!」
「ちょっト! 弄んでなんてナイ! なんでそうなるノ!?」
私が慌てて否定すると、みんなが笑った。
ひどい。私をおかずに楽しむなんて。
「まあ、だからこそ一部の女子からはやっかまれてるよねー」
「ああ、そうそう。最初の頃はひどいこともあったって聞いたけど、大丈夫? あの頃は庇えなくてごめんね」
「ううん、大丈夫。あの頃はなんていうカ、やられたらやり返す気持ちが強かっタから、負けてなかったヨ」
「あ、それは私も聞いたー。誰かが『あの子は生意気すぎる! でも怖い!』って言ってた」
「エエ? 怖かったのは私ダヨ。虚勢張ってたんだカラ。そして気がついたの。ノスリの傍にいれば、怖い女子は近寄って来ナイって」
「なるほどねー。それは上手い方法かも。じゃあ、あの子たちは自分で自分を苦しめてたんだ」
「コルリさんもなかなか侮れない人ね。好きだわ」
「うわ! ツグミさんからも愛の告白! コルリちゃん、モテモテ!」
「ゴメンなさい、ツグミさん。私にはミヤコちゃんがいるから……」
「一瞬で振られてしまったわ」
ツグミさんがわざとらしく胸を押さえて俯いたので、みんなで笑った。
女子のくだらないおしゃべりって楽しいよね。
そうしてお昼休みが終わり、午後の退屈な授業の間、必死で眠気をこらえていた時。
肩でおなじようにうとうとしていたはずのミヤコちゃんがぴくりと動いた。
どうしたのかと思って、私の頭も一気に覚醒すると、教室内がざわざわし始めていた。
そして窓際の男子の一人が、窓を開ける。
途端に、ミヤコちゃんは飛び立って、窓から出ていってしまった。
「ミヤコちゃん!?」
驚いた私が見ている前で、ミヤコちゃんはまたフェニックスの成鳥に変身して飛んでいく。
途端に、クラスのみんなから歓声が沸いた。
「コルリ、どうやらまた魔獣が出現したようだ。今度もまた西地方の街にミノタウロスが出たらしい」
「何で……?」
「解放伝達をかすかだが、俺も聞こえるようになったんだ。たぶん、ミヤコちゃんはミノタウロスを倒しに行ったんじゃないか?」
「だかラどうしてミヤコちゃんが!? 私、何も言ってナイ! ミヤコちゃんも何も訊いてこなかったヨ!」
ノスリから聞いたことが信じられなくて、思わず詰め寄ってしまう。
そんな私を宥めるように、ノスリは私の腕をぐっと掴んだ。
「ミヤコちゃんだって馬鹿じゃない。自分でちゃんと考えて行動してる。きっと魔獣の被害が出たらお前が――お前や俺が悲しむのがわかっているから、先に行動に移したんだと思う。その行動を俺たちは否定することなんてできないだろ? だから俺たちは、ミヤコちゃんが無事に戻ってきたら、喜んで迎えてやればいいんだ。大丈夫だ。ミヤコちゃんを信じて待とう。な?」
「うん……」
ミヤコちゃんは前回も心配した私に、案ずることはないと言ってくれた。
自分より強い者には出会ったことがないのだからと。
だからノスリの言う通りなんだと思う。
長官にも言われたんだから、ミヤコちゃんの好意を素直に受け入れるべきなんだとはわかるけど、でも心配するのは仕方ないよね?
立ったまま話していた私たちのところへツグミさんがやって来る。
先生も解放伝達は聞こえるらしく、窓の外へと注意を向けてて、授業はすっかり中断してしまっていた。
「コルリさん、ミヤコちゃんはまた魔獣退治に向かってくれたのね?」
「うん、そうだと思ウ……」
「――あ! すごいわ、コルリさん。ミヤコちゃんはもう街に着いたみたい! ちょっと、この魔法使い興奮しすぎ。聴き取りにくいわ……」
「あー、ダメだ。俺にはこれは聴き取れねえ」
ツグミさんが顔をしかめて伝達魔法の相手に文句を言っている。
ノスリは力不足のせいか早々に諦めたみたい。
私が両脇でぐっと拳を握っていたら、ノスリがそっと励ますように片手を握ってくれた。
「ありがトウ」
「ん」
それだけで体から力を抜くことができて、お礼を言った私に、ノスリは顔を向けることなく答えた。
視線はツグミさんに向けられたまま、次の言葉を待っている。
「――すごい、本当にすごいわ。また虹色の鳥が――ミヤコちゃんが炎をひと吹きしてミノタウロスを倒したみたい。魔法使いの後ろから、すごい歓声が聞こえてくるもの。またすぐにミヤコちゃんは引き返したみたいだけど……」
その伝達魔法は、ツグミさんだけでなく、クラスの何人か――先生も聞いていたみたいで、教室でもわっと歓声が上がる。
まるで昨日の再現みたいだ。
ただ今度は先生が私のところまでやって来て、「コルリ君、よくやった!」って褒めてくれたこと。
私は何もしていないよ。魔獣が現れたことにさえ気付かなかったんだから。
すごいのはミヤコちゃんで、よくやったのもミヤコちゃんなのに。
ミヤコちゃんが無事だったのは嬉しいけど、なんだか複雑な気分。




