雪
十二ノ月に入り、雪景色になった。とりあえず寮の周りの新雪は踏んでおいた。女子寮は私の陣地。
放課後にダーツ倶楽部の活動がないことを確認しておいた私は、講義室を飛び出した。目標は隣の講義室。お! 発見!
「スケッチ! 雪合戦しよう!」
「え!?」
目を丸くしているスケッチを講義室から引っ張って、メリルとエフィム、コジローとアカネも道連れにする。
「魔法ありあり雪合戦しよう!」
「どういうこと?」
スケッチの顔が初っ端から疲れてる。ごめんって。
「雪玉強化とか楽しそうじゃない? 身体強化してもいいしさ」
雪玉のスピードとか大きさとか途中で変化させたら面白そう!
基礎メンバーが偏るとちょっと不公平かな? でも元々の運動神経は明らかにコジローとアカネに軍配あがるしなぁ。とりあえずランダムでわけるか。
一回戦はランダムに分かれて私はスケッチとメリルと一緒になった。
「投擲ある人が有利じゃん……」
「回避があるでしょ。活用しようよ、見せ場だよ!」
雪合戦のルールって知らないんだけど、勝敗ってどうやって決めるんだろう?
適当でいいよね、ってことで陣地に雪だるまを作り、頭を落とした方が勝ちということにした。
暫定ルールとして雪だるま自身の強化はなし、攻撃は雪玉のみ、補助魔法はあり、防御は魔法あり。
投擲スキルがあるので雪玉の命中率は私、アカネが有利だ。だけど魔法もありだから勝負はわからない。
「それではー、スタート!」
まずは雪だるまの防御だ。防衛はメリルに任せ、雪だるまの周りに防御壁を張っている。私とスケッチで特攻だ。
投擲で身につけた命中率で雪玉をがんがん飛ばす。ついでに風魔法でスピード強化してみたり。
エフィムが火で雪玉を溶かしながら特攻してきた。アカネは中距離辺りから雪玉強化で攻撃している。
「防衛がコジロー!? 刀で斬るとかありかよ!」
防衛はエフィム、コジロー特攻のイメージなのに。コジローが雪だるまの側で雪玉を斬り捨てている。
こっちの陣地ではメリルが風で吹き飛ばしたり頑張ってる。もうこれ早く頭落とした方が勝ちの力押しになってんな!
そう考えるとこっちが有利だな。コジロー雪だるまに防御張ってないし。コジローの刀が追い付かなければ勝ちか……。
スケッチと二人で雪玉を途中で変化させ、大きさやスピードで惑わせて何とか勝った。あれ? 雪合戦って雪玉を人に当てる遊びじゃなかったっけ? チームを変えて二回戦目。意外と個人差がないみたいで、二回戦も接戦だった。
「あー、おもしろかった!」
「僕は疲れた……」
雪と言えば雪合戦だけど、あこがれのかまくらにも挑戦したい。日本にいた時は雪合戦は出来るけどかまくらは出来ないくらいの雪しか降らなかったしね。
「よし! 次はかまくら作ろう! で中で餅焼こう!」
東ノ島通りに詳しいコジローとアカネに買い出しを頼み、他のメンバーでかまくらを作り始める。全員が入れるような大きなかまくらにしないとね!
「北方はもっと雪が降るでしょ? かまくら作ったり雪合戦とかしなかったの?」
「一応うちは上位の貴族だからかもしれないが未経験だ! 雪像なら見たことがあるな!」
……雪まつり?
「自分で作るのは楽しいな!」
全然貴族らしくないけど、多少は窮屈な生活してたのかな。
まぁ元々そうなんだから、それを窮屈に思う価値観は持ってないか。私だって日本での生活が価値観になってるんだし。
「投擲って雪玉にも効くならさ、ブーメランとかも良さそうだよね」
ブーメラン、いくらくらいするんだろう。おもちゃしか使ったことないんだけど、戦闘にも使えるだろうか。
「あ、帰って来た。おかえりー! いっぱいあるね」
「ああ。色んな味があった方が楽しいからな」
出来上がったかまくらを地魔法でさらに強化。熱に負けませんように、とね。初かまくらでよくわかってないし、お餅食べてる間に崩れてきたら嫌だし。
さっそくコジローの七輪で餅を焼く。大根おろし、きなこ、粒あん、海苔、醤油などなど取り揃え。まずは大根おろしから!
メリルとエフィムは膨らむ餅を不思議そうに見ている。焼き上がったものをそれぞれに配り、頂きます。
「伸びる……?」
戸惑ってるメリルかわいい。
「喉に詰まらせないようにねー」
エフィムがきなこをばふばふ飛ばしてたり、メリルが大根おろしの辛さに驚いてたりちょっと面白い。スケッチは東ノ島通りに連行されまくってるからね、普通の反応だ。
ぜんざいも用意しておけば良かったな。次は用意しようっと。
「何をやってらっしゃるの?」
「ドーリス様……」
正直このメンバーで会いたくなかった! 基礎メンバーが揃ってるのもあるけど、素で接してるメンバーでもあるからなぁ。
しかもこの場面だよ!
「ちょっと友人と、お餅を食べてました……」
雪合戦よりお餅の方がいいよね?
「こんな場所で?」
「はい。これはかまくらといいまして……。田舎では風物詩になっているのです」
嘘だけど嘘じゃないし。ドーリス様は王都住みだし大丈夫!
「わたくしも入ってよろしくて?」
「えっ!?」
「駄目ですの?」
「えええ……駄目ではないですが、普通に地面なんですけど……」
貴族ってそんな扱いでいいものじゃないよね? 例外はいるけどさ、お供の人も止めなくていいの? 視線を投げても微笑まれるだけ。影のように付き添っておりますが。
結局ドーリス様はかまくらに入り、お餅まで食べた。何だろうね、メンバー全員を観察するかのごとくガン見してたのがすごく気になった。敵情視察ですか? 敵っていうか、ライバル視察? 別に私たちに勝ったら基礎に入れるとかないからね?




