十ノ月②
休み明け、コジローとアカネに虫の迷宮の感想を聞いた。
「十階までは問題なく潜れた。的も小さく中々素早いので練習には持って来いだな」
コジローはそう言って満足そうに頷く。アカネはそれを見て微笑んでいる。
おぉ、何かいい感じじゃない? 週末はよく二人で迷宮に行ってるんだし、何か進展があってもいいと思うんだよね。上手くまとまってくれればアカネが絡んでこないだろうし、すごく嬉しいんだけど。
「しかしそれ以降は罠がある。罠解除のスキルを上げていないので潜れなかった」
おっとここに来て罠登場か。
私のパーティも今まで必要なかったから罠解除のスキルは低いんだよね。とりあえず今日は図書室で罠関係の本でも借りて帰るか。
図書館へ寄りて本を借り、武器愛好倶楽部で斧を振り回してから寮に戻った。そこで投擲用の鉄球の手配をしに行ったサオンから、帰り道で絡まれたという報告を受けた。とりあえずマッハで逃げたそうだけど。前にアディさんに忠告された奴らだろうか。
「強そうだった?」
「いえ全然。スケッチさんより弱そうでした」
……意外とサオン、スケッチに厳しいよね。いやいいけどさ。
「まぁサオンに追いつけるわけないよね。追いつけるくらい能力あるなら絡まないっていうか」
しかしスケッチならともかくサオンに絡むって、無謀もいいとこだよねぇ。メイド服だから? 舐められたのか、それともナンパ的な要素も含む?
「とにかく、いざとなったら荷物を捨ててでも逃げること。あとこれ」
魔道具制作の講義で作った魔石だ。目眩まし用に光魔法と痺れ用に電撃を仕込んである。
ニ、三人なら物ともしないだろうけど、大人数でこられたらいくらサオンでも危ないかもしれないしね。
「光魔法の方はまだ試用してないのよね。ちょっと使ってみようか」
寮内ではさすがに使えないので、外でサオンに投げてもらう。強い衝撃で魔法が発動するようになっているのだ。
サオンが石に投げつけ、
「う、わっ!?」
悶絶した。
想像よりずっと強い。
これはヤバイ。
「駄目だこれ……目ぇ開かない。サオンは大丈夫だった?」
「はい、目を瞑っていたので……」
投げた本人が大丈夫ならいいか。あえて直視してみたけどこれはひどい。
「オネエはどう?」
「死にそうです」
そんなにか。
実験なのでオネエには眩しいと感じたら目を瞑る、という風にしてもらったのだが。
「光が来るとわかっていない限り、とても有効だと思います」
そうね。
対象が何か投げたら目で追うだろうし、直撃するな。
「じゃあサオンとオネエはこれ持っておいて。自力で逃げられないと判断したらすぐ使ってね。荷物も邪魔になりそうなら遠くに投げ捨てて」
スケッチにも念のため渡しておこうかな。
効果は魔法と同じだけど、魔法は呪文があるから気付かれる。
本当は一人で外出しないようにすればいいんだろうけど、仕事もあるしそういうわけにもいかない。
王都の警備ももう少し厳しくなればいいのになぁ。根絶やしにしてほしい。
「よし、それでは各自発表してもらおう!!」
エフィムの気合の入った声に、ようやく先週の話を思い出す。いやー、すっかり忘れてた。ナビール祭のアイデア考えてくるんだったよね。
「僕が考えたのは光魔法をそれぞれ覚えるってことなんだけど……」
自信なさげにスケッチが口を開く。
「地味」
あ、落ち込んだ。メリル容赦ないな。
「その光で何か絵を描けたらなって……」
「絵を描く? どういうことだね?」
「それぞれどこに光の点を出現させるかを決めてれば、観客席から絵になるように見えるかなって」
仕掛け花火とかイルミネーションみたいな感じ?
「ふむ。私の考えたのは色を付けた光を飛ばすことだ! 併用すれば中々良い見世物になるのではないか!?」
「他の属性、もっと派手」
メリル容赦ない。
確かに他の属性はもっと派手だけど、基礎魔法で派手な魔法をっていうのは、ちょっと無理だよね。数年後ならともかく、あと一ヶ月しかないわけで。
「一先ず君の考えを聞こう」
「一斉に火を出して大きい火を作る」
……派手といえば、派手、か?
それで大きい火が作れるかは知らないけど、火属性の発表よりは確実に目立たないと思うよ。私は別に目立ちたくないからいいけどさ。
「光より派手かもしれないが、基礎の良いところは出せないな」
「セリカさんは?」
派手なものかぁ……。
「そのことなんだけど、一から基礎で構築するより、既存の属性魔法を変化させた方が手軽で見栄えするんじゃないかと」
「どういうこと?」
「何の魔法を覚えるにしても、一から覚えるんじゃなくてもともと使える属性魔法を改造して発表するってこと」
見た方が早いよね。
「《我が指先に火を灯せ》 これは火魔法のスキルで発動したんだけど」
私の指先に火が灯る。ただの種火の魔法だ。
それを三人がじっと見つめる。
私は集中し、種火の長さを伸ばした。その炎をハートの形に変化させる。
「こういうこと。最初はスキルで、形は基礎で習ったことの応用」
三人とも無言かよ。何か言えよ。
「派手にしたいなら、色を変えても良いし、もっと大きいもの作っても良いし。ただ私とスケッチは実行委員だからあんまり時間が取れないかも。そこを考慮して頂けると助かるかなって」
スキルで覚えた魔法には大体の形が決まっている。それを利用するのだ。少しいじって、固定概念を破壊する。派手さはなくても、純粋に驚いてくれるんじゃないだろうか。
「なるほど……そうだな、すべて基礎魔法だけで発表しないといけないという規則はない!」
これなら派手にしようと思えばかなり派手に出来るよね。あんまりやりすぎると他の属性食っちゃうからあれだけど。
本当はせっかく魔法あるんだから、魔法を使った演劇とかお化け屋敷とか面白そうなんだけど。ダンスっていうか剣舞とかもいいかなぁ、演奏会とか。貴族の在り方が今のままだと実現されることはないけどさ。ナビールじゃなくてサービオだったらそういうのもあるのかな。あるのなら見に行ってみたいかも。
壁画とか造花、イルミネーションで飾りつけて夜はキャンプファイヤーと花火とかさ。大きいことやるには人手も時間も足りないな。
こっそり何かやっちゃおうかなぁ。
基礎クラス巻き込んで、発表のついでに出来るような小さいものならいいんじゃない? 魔道具はきっとソフォス講師が融通してくれる。
話し合いは終わり、各自の練習も決まったことで終了。ナビール祭が終わるまで武器愛好倶楽部はお休みして、練習に費やそう。




