十ノ月
十ノ月に入り、ダーヴィトお兄様のパーティが王都に到着した。
仕事の関係で時間を取れるのは平日だけということで、放課後に東ノ島通りで待ち合わせした。
「お久しぶりです、セリカ様!」
「あ、はい。お久しぶりです」
モナさんは相変わらずモナさんだった。
「久しぶりだね。これお土産」
「まぁ、ありがとうございます。……とりあえずどこかに入りましょう」
目についた店に移動して、委員会の時にあった出来事を説明した。
「名前からして高位の巫女の可能性がありますね」
「高位の巫女?」
「はい。シモナやモナやモナカという名前は、両親が神職に就いていて、尚且つ適性が高い子どもにつけられる名前なんです。教会関係はわりと縁故社会なので、両親が神職だとその子どもも若いうちから高位なことが多いのです」
「じゃあモナさんも?」
「わたくしも両親が神職ですし、適性はあるのですけど、貴族ではないので巫女は巫女ですが高位ではないのです」
そもそも神官と神父と巫女って呼称がそれぞれあることがおかしいのではないだろうか。
モナさんの詳細な説明をざっくりまとめると、登録者は全員神官。その中でも地域の教会にいる人が神父、神官の中から選ばれた一部の未婚女性を巫女という。他にも色々細かい位や役職もあるということだが私には必要ないので割愛。
「とりあえずシモナ・ベナークは高位の巫女の可能性が高いと。それって何かまずいことになる?」
「高位とはいっても、教会の中だけですから、特に支障はないかと。もしかしたらセリカ様のことを知った上層部の方々が勧誘に来るかもしれませんが、強制力はありません」
「逆に追い払う方法はない? 一般人に絡んではいけない規則とか」
簡単に済むのなら先生に言い付ける小学生並でも一向に構わない。
「そうですね……セリカ様の神々しさでやっちゃえばいいのです!!」
「いや真面目に」
「え? 真面目ですけど」
「…………」
相談する相手間違えた!
いや久々にダーヴィトお兄様に会えたのでいいんですけどね。お土産ももらったし。
「でも俺もモナの意見に賛成かな」
「お兄様まで……」
私が眉を顰めると慌てて言い募る。
「ほらセリカだって倒せそうな強さのモンスターなら狩るけど明らかに倒せないモンスターなら仕掛けないだろ? そういうことだよ!」
一理ある。
一理あるが神々しさをどうやってアピールしろというのか。
「でも気配が濃いことはわかるのに何者か、何ておかしい気もしますね……」
しかしこういうことが起こりうるなら、神官登録はなしだな。
詳細を聞いてからにしようと思ってたけど、面倒なことは嫌いだ。モナさんみたいなタイプなら面倒でも害意はないからいい。でもシモナ・ベナークは本気でウザい。自分の価値観が絶対だったり自分に自信があって他者を見下すのは勝手だが、それで絡まれるとなると話は別。
「……消すか」
「今心の声が漏れたかと思った。止めてくださいお兄様。それは犯罪です」
結局何の解決策もなかったが、Eランクの試験内容や依頼の話など身になる話を聞くことが出来た。モナさんがシモナ・ベナークについて念のために調べてくれるというし、とりあえず様子見だ。あぁ、もう、似たような名前でややこしいな!
二回目の委員会は、終わると同時にダッシュした。おかげでシモナ・ベナークに捕まることはなく、無事にダーツ倶楽部の活動室へと辿り着いた。ユーリー様は、ナビール祭で何もしないと決めたらしい。まぁ倶楽部員三人しかいないしね。そもそも入部希望者も特に募っていない、ひっそりとした倶楽部だし。
武器愛好倶楽部は色々武器を試せるようにするらしいけど、私は事情を話して不参加である。さすがにナビール祭だと目撃者も増えるしね。ユーリー様には見られたくない。せっかくのイベントだけど、学生らしくない味気ないものになりそうだ。
色々と話もあったので、土曜日の迷宮後は寄り道して帰ることにした。サオンのリクエストでパフェの店だ。たまにはいいか。
「そういえば昨日、すごい勢いで帰ったね」
「あぁ、うん。シモナ・ベナーク、苦手なんだよね」
「セリカさんにも苦手なものがあるんだ!?」
スケッチよ、なぜそんなに驚く。私にだって苦手なものはあるさ。
「他にもモンスターの区別とかさぁ」
「いや虫とかアンデッドとか」
アンデッド。そういえばアンデッドに分類されるモンスターっているんだよね。まったく出会わないから忘れてたけど。
「私アンデッド見たことないのよね」
「僕もないよ。見たことないから怖いっていうのもあると思うんだけどね。そういうのって大袈裟に伝わってくるから」
アンデッドかぁ。今年はもう終わっちゃったし、来年はアンデッドもいいかも。夏といえばアンデッドだしね。
「……アンデッドは、得意ではないのですが」
「え? 意外」
オネエこそ苦手なものがなさそうなタイプに見えるよね。
「セリカ様も会えばわかりますよ。お薦めはしません」
「ふぅん?」
まぁグロイよね。綺麗なものじゃないし、腐ってたりすると匂いもきつかったりするのかな。
「ふぅ、おいしかったぁ~」
サオンも結構マイペースだよね。
話しながら食べていたので、完食したサオン以外のお皿にはまだ料理が半分以上残っている。サオンは一人パフェだしね。溶けるから仕方ないね。
「とりあえずお兄様にEランクの試験内容とか色々聞いたから報告しておくね」
それを踏まえて対策も色々。冬にはレベルは上がると思うんだよね。依頼は冬休みに集中して受けて、問題は試験。パーティランクは楽に上がると思うんだけどなぁ。
「試験相手になりそうなモンスターを出来るだけ狩っておきたいですね」
「そうね。冬休みはそれ狙いで行きたいかな」
Eランクの試験はモンスター討伐。どのモンスターが相手になるかはランダムだからわからないけど、格上のモンスターなのは間違いない。
「秋の間は長期の休みもないし、ここの迷宮とゴーレムかな。虫の迷宮も難しくなさそうならサオンは留守番で行くかもしれないけど」
「す、すみません……」
「……Eランクの試験が虫にならなかったら良いですね」
虫かアンデッドが来そうな予感しかしない。




