特別訓練
実技のほとんどが特別訓練に割り当てられた。
試合形式で一対一を全員とやって二周。私、パーフェクト。アイアムナンバーワン。ユーリー様ごめんなさい。私の辞書に手加減とか花を持たせるというような言葉は載ってないんです。
一敗もしてないし、これ以上訓練に出なくても私は代表決定なんじゃないだろうか。メモを取っている講師が機嫌良さそうなのがちょっと怖い。
「セリカ、すごい」
「メリルもね」
メリルも中々善戦していて、さすがに5位以内とはいかないが、代表には選ばれると思う。
「セリカのおかげ」
表情に出るくらい嬉しそうにしている。
「次は団体戦かぁ」
「わたしはこっちが本番」
確かにメリルは個人より団体だよね。魔法の方が得意だし。
講師の組んだメンバーで試合形式だ。初戦は私、メリル、エフィム、スケッチ、ヒロインちゃんと相手は王子、赤髪、取り巻き二人、シモナだ。
最初に少し作戦会議の時間がもらえたので、話し合う。話し合うっていっても大体役割の決まっているメンバーなので話は早い。相手方もそれは同じで、すぐに試合開始。
接戦と言えば接戦だったけど、一応勝った。
「うん、君は団体戦いいや」
「何それ!?」
試合終了の第一声がそれってどうなの?
ソフォス講師に要らない子扱いされたよ!
「君が団体戦に交じると評価が面倒だね。どうせ個人戦で決まりだし」
えぇー……何かそれ、特別扱いっぽい気がするんだけど、いいの? 不満の声が上がりそうだ。
「だって君がいる方が勝つし」
否定出来ない。
今の試合、私が入ってなかったら王子たちが勝ってた可能性、高かかったよね。
「普段ならそういう扱いは良くないんだけど、君の場合、誰の目から見ても明らかだし。それは個人戦で皆よーくわかってるだろうから、不満はあんまりでないと思うんだよね」
まぁ現役反則持ちですからね。
総合力で見ればダントツだという自信がある。さすがに剣技だけだとコジローの方が上だけどさ。
「ま、そんなわけなので、君はこっち側で団体戦の評価でもしてくれればいいよ」
仕方ないのでソフォス講師の隣で観戦する。二試合目は、ユーリー様とシスコン、顔も名前も知らない三人、相手はコジローとアカネに基礎二班の三人。
まぁコジローとアカネがいる方が勝つよね。団体戦は連携も必要だってわかってるけど、個人戦上位二人が入れば勝つだろう。
ユーリー様が戦うところをみるのは今日が初めてだったけど、このメンバーの中では中の上、ってところかな。投擲をうまく使っているところがポイント高い。大抵の人は正統派な戦い方をするので、投擲を使うユーリー様やアカネ、体術系のスキルを取り入れているコジローやスケッチも一味違う。正統派の中で一際目立つのは赤髪だ。団体戦を考えず個人戦だけのメンバーを選ぶなら、この五人だな。次点でシスコンか。
「いやあ楽しかったな!」
特別訓練が終わり、大半が疲れているというのに、エフィムのテンションは相変わらず高い。もしかして体力が一番あるのはエフィムなのかもしれない。その体力、スケッチにわけてあげて。
「そういやこれって実技の成績どうなるの?」
「ん? 心配しなくてもきちんと反映されるぞ! そもそも候補に選ばれること自体、優秀な証だからな!」
反映されなくてAクラスから落ちたらやばいしね。そこは重要なのだ。
「そうだ! 週末はこのメンバーで特訓しよう!」
「残念だけど私予定があるから」
いやー残念残念。
私には迷宮でお金を稼ぐという重要な予定があるのだ。特訓なんてお金にならないことをしている暇はない。
「僕も用事があるから……」
スケッチも逃げたか。
まぁ用事があるのは本当だ。私と一緒に迷宮へ潜るという用事だけど。
「むぅ……ではまたの機会にしよう……。そうだ、来週はどうだ!?」
「ちょっと忙しくて夏は予定がぎっしり」
エフィムとメリルがハンターであれば問題ないんだけどね。この二人だとずっと面倒みないといけない気がするから、引き込まないけど。
「スケッチ! スケッチはどうだ!?」
「ぼ、僕もちょっと……」
「少しくらい空けられるだろう!?」
「え、でも、セリカさんいない状態はちょっとどうなのかな……」
そこで私かよ。
いやスケッチの気持ちもわかるけどね。この三人だとスケッチがフォローしないといけないから。
「夏期休暇の訓練があるんだからいいでしょ。どうしても特訓したいなら実家から人呼べばいいんじゃない? あと雇うとか」
「なるほど!」
良かった、標的から免れたぞ。
実際ハンターを雇う人もいるみたいだし、いいかもね。私は迷宮にばっかり行ってるから、ギルドで偶然会うこともないだろうし。
エフィムとメリルが人を雇うか呼ぶかで話し合っている時に、こっそりとスケッチが寄って来た。
「あの、あのね、セリカさん。もうちょっとユーリー様をたててあげた方がいいんじゃないかな……?」
「えー」
「えーじゃないよ! そこは負けてあげてよ! せめて苦戦してあげて! 瞬殺はひどすぎる!」
「無理でしょ。コジロー以外ほぼ瞬殺なのにユーリー様で苦戦したらおかしすぎるでしょ?」
「うっ」
「しょうがないじゃん、実力差ありすぎるし」
「もうちょっと隠してもいいと思うんだけど……」
「今更だし、真面目にって言われたし」
「…………」
あ、スケッチが黙った。何か落ち込んでる?
スケッチが落ち込むところじゃないと思うんだけどなあ?




