今日に限って夜勤
あおいちゃんが気になって、あおいちゃんが住んでいるアパートの前まで来てしまった。
階段を上り、すぐ隣にある部屋の前で首を傾げて悩んでいる。
玄関のチャイムを鳴らそうかと、いきなり来て迷惑じゃないかなとか色々な感情がグルグルと回っている。
数分悩んだ結果、このまま会わずに帰ろうとしていたら怒鳴り声が聞こえてきたと思ったら硝子が割れる音と、苦しそうな唸り声も聞こえてきた。
怒鳴り声がしたのは、私がチャイムを鳴らそうかと迷っていた部屋だった。そう、あおいちゃんの部屋なのだ。
胸騒ぎがしたけど、私にはドアを叩いたり、チャイムを鳴らして無事か確認することも誰かに助けを求める勇気が無い。
唸り声はあおいちゃんの声のようで、恐怖が押し寄せた。
部屋の中で何が行われているのかなんて、想像力が無い私にはちっとも想像がつかない。
ーー!? こっちに……来る?
恐怖が勝って思考が真っ白になっていると足音が玄関に向かっていることに気付いた。
身の危険を感じた私は咄嗟に曲がり角の階段近くまで行き、明らかに今来た風を装った。
手入れがされてないボサボサな短髪とサングラスをしている男性とすれ違った。
私は顔を見られないようにと壁に寄りかかり、顔を隠すように下を向く。
ドクンドクンと、高鳴っている。これは明らかに恐怖からくるものだ。
男性は煙草を吸いながら階段を降りていった。
「~~っ!? ゴホッゴホッ!!!?」
完全に見えなくなったのを確認して安堵した私は思いっきり煙草の煙を吸ってしまい咳き込む。
煙草の臭いは嗅ぎなれてないのもあるが、緊張し過ぎで息を止めていたせいもあった。
男性が立ち去って緊張が一気に解れて油断していた。
私は、部屋前に来て、何度もドンドンっと扉を叩いたり、チャイムを鳴らした。
あの男の人が戻ってこないうちにと、必死だった。
「あ……あおいちゃん……居るんだよね!!? 私だよ。心春だよ!! お願い、開けて」
必死に声を絞り出して言うが、あおいちゃんが開けてくれる気配はない。
段々と不安になっていたら、ガチャっと鍵を開ける音が聞こえた。
私が扉から離れると、ゆっくりと開いた。
中から出てきたのは、全身青アザだらけで腕は硝子の破片が肉にくい込んでいる。
くい込んでいる所から血も流れており、見ていて痛々しいレベルではなかった。
言葉に出来ない程の悲惨さだった。
「こ……はる……ちゃん?」
「あっ、い、急いで救急車呼ぶから!!」
「ダメだ! 大丈夫だから……とりあえず中に入ってよ。散らかってるけど」
私は携帯がないのでどうしようかとテンパっていると、中へ入るように促された。
玄関に入るとすぐにキッチンがあり、その奥には横開きの扉がある。
扉を開けると居間のようで丸みを帯びた大きめなテーブルを囲むように座布団が四つ程置かれていた。
壁伝いにテレビやタンスも置かれている。
窓が割れていて、床にはガラスの破片が散らばっており血みたいな痕もいくつかあった。
あおいちゃんの血だろうとすぐに気付いた。
「あおいちゃん、大丈夫?」
私はふらついているあおいちゃんの腕を支えて居間まで行くと、座布団に座らす。勿論、ガラスが飛んでない所にある座布団を選んだ。
腕を見ると、痛々しいぐらいにガラスの破片が肉にくい込んでいた。
ピンセットでゆっくり抜くしかないかなと思い、ピンセットの在処をあおいちゃんに聞いた。
取りに行って、駆け足で戻る。
ガラスの破片がくい込んだら、無理に抜かずに医師の元に行くのが正解なんだろうけど、あおいちゃんは嫌がってたから仕方ない。
前にテレビで医者のドラマを観てる時に、ガラスの破片がくい込み、無理に抜くと血管が傷つくと言っていた。
罪悪感があるけど……あおいちゃんが嫌な事は無理にさせたくない。
◇
硝子の破片を取り除いた私は、傷口に消毒した。あおいちゃんはたまに呻き声を上げるが必死に痛みを堪えている。
あれから何時間経過したのか分からないが、外は日が沈み真っ暗になっていた。
「!? ど、どうしよう。さっき出ていった男の人が帰ってきちゃう」
「心配ないよ。帰ってこないから。どうせ今日もキャバクラに行ってる」
私の父も今日に限って夜勤だからなぁ。怒られるかな。いやでも、このままのあおいちゃんを放っておけないし。
あおいちゃんの腕に包帯を巻きながら私は聞いた。
「じゃあ、うちに来る?」




