僕と地獄に堕ちないと【あおい視点】
……あいつ、邪魔だな。
保健室に入り、扉を閉めた僕は、廊下にいるだろう人物の事をウザったく思う。
「あれほど、僕以外の人に心を許すなって言ったのに」
念の為に盗聴器を仕掛けておいて良かった。
入学式前に心春ちゃんの手を握った時にこっそりとスカートのポケットに小さな盗聴器を仕込んだ。
心春ちゃんが眠っているベッドの横にある棚に給食を置く。
「ダメだからね」
礼儀正しい吐息を立てて、起きる気配がない心春ちゃんの前髪を触る。
「心春ちゃんは僕と地獄に堕ちないとダメなんだよ。だって僕たちはーー恋人同士なんだから」
そう、心春ちゃんは僕を選んでくれた。だから誰にも渡さない。邪魔させない。
好きなアニメがきっかけで仲良くなったけど、僕にとっては信じられなかった。
だって皆僕を気味悪がって親しげに話しかけてくれる人なんていなかった。
でも心春ちゃんだけは違うんだ。僕を受け入れてくれた。
好き。大好き。こんなにも好きなんだから、心春ちゃんも同じぐらいに好きに決まってるんだ。
周りの声に惑わされないように、変な情報を与えないようにと思って、心春ちゃんに言ったんだけど。
「約束、破ったね。どうして裏切るの?? そんなこと許されると思ってるの。僕の言うこと聞いてよーーじゃないと……」
井上 美月とかいう女を殺さないといけなくなるじゃん。
あの女……、絶対に僕の邪魔をしてくる。だから、心春ちゃんにも忠告しとこう。
僕は心春ちゃんの前髪から頬に手を移動させる。
「他の人にどう思われてるのかなんてどうでもいい。僕だけが心春ちゃんの良さを知ってればいいんだ。僕だけがきみの味方なんだよ」
額にキスをする。ちゅっとリップ音を立てて放れる。
未だに眠っている心春ちゃんを見て、クスッと笑う。
「……きみが見る世界で僕だけしかいなくなった時は、優しく壊してあげるからね」
それはまた一種の愛情表現。好きなんだから、束縛したいと思うのは必然なんだ。
僕は心春ちゃんが好き。それ以上に心春ちゃんを壊したくて仕方ない。
この歪んだ感情は何なのだろう。
◇
放課後になり、やっとお目覚めな心春ちゃん。
寝癖なのか、ちょっと跳ねてる髪が可愛らしく愛おしい。
そんなことよりも言わないといけないことがあった。
僕との約束を破ったんだ。少しお仕置きしないといけないんだ。
心苦しいんだよ。でも、これは仕方ない。だから、会話を聞かせてあげた。
昇降口にいるとは思わなかったけど、想像以上だった。
これで井上 美月とは会話をしなくなるはずだ。
僕が正しいと思うはずなんだ。井上 美月は優しくて誰とでもすぐに仲良くなるタイプらしい。
そういう奴程、裏表が激しいのを僕は知っている。
人によって変えるんだ。嫌われたくないから、言ってることが矛盾してるのさえ気付かない。
いや、気付いていたとしても本人に聞かれないからという安易な考えで。
だから、本性を聞き出そうと思ったが、自分からさらけ出してくれて感謝した。
心春ちゃんも分かっただろう。僕だけが味方なのだと。
もう、話すことは無いだろう。でも念の為に……盗聴器はそのままにしとこう。
ずっと監視しないと心配なんだ。じゃないと誰かに取られちゃいそうだから。




