今にも殺されるんじゃないかと思うぐらい【美月視点】
顔色が悪い女子を保健室に届けて教室に戻るとホームルームが終わっていて、教室内がざわついていた。
私が教室に戻って来ているのに気付いてない生徒が数名。先生は終わり次第すぐに教室から出たようで、教室内には姿が見当たらなかった。
「あの、井上さん……」
「?」
自分の席に座ると、話しかけられた。見ると、眼鏡をかけている女子生徒が困った表情をしていた。
眼鏡をかけている女子生徒は一回下を向いてから私を見て口を開いた。
「佐藤 心春さんの事なんだけど……」
佐藤 心春という子は、さっき私が保健室に連れて行った子の名前だった。
その子がどうしたんだろう。
「その子が何?」
「あの子には気を付けた方がいいよ。あっ、間違えた。一番気を付けないといけないのは佐藤さんの友達」
「どういう事?」
「佐藤さんね、小四まで普通だったの。笑顔が可愛い子で話すのが苦手なのに頑張って話してて、必死に伝えようとしてるのが本当に可愛くて良い子だったの。でもね、小五の夏頃かな。転校生が来て、その子と友達になってから人が変わってしまったの」
眼鏡をかけている女子生徒は暗い表情をしながら話している。
確かに人は環境や周りの人達次第で考え方が変わるって聞いた事がある。その意味を私はよく知らないんだけども。
「人が変わるって……」
「本当だよ!! 佐藤さん、すごく無愛想になって平気で無視してくるし……感じが悪くなったの」
「私は、言われたから『はい、そうですか』ってならないよ。それは私が直接見て判断したいもん。教えてくれてありがとうね。でも、一応聞かせて? その転校生の名前」
「……佐々木 あおい」
その名前を聞いて、性別はどっちだろうかと想像した。
女でも男でも『あおい』という名前の人はいる。
ただ、変わってしまったという事が違和感がある。
このモヤっとした感情はなんなのだろう。
やけに胸騒ぎもするのは……何故?
◇
昼休みになると、佐藤さんの分の給食を保健室に運ぶ。
「あ……」
私は立ち止まる。一人の男子生徒が保健室前の扉を開けようとしていた。
男子は、私に気付くと顔だけ私の方へと振り向いた。
前髪が長くて目は見えないものの目が合ったような錯覚がして思わず声を漏らしてしまった。
男子は、私が持っている給食に気付くと話しかけてきた。
「それ」
「え、ああ……保健室にいる子の給食なん……ですけど」
「そっか」
男子は近付いてくる。私が持っていた給食のお盆を取って、保健室の扉を開けた。
「じゃあ、その子に渡しておくよ」
「いや、でも」
誰なのか知らない人に給食を運ばせるのが申し訳なくて食い下がると、男子は私を見る。
「きみ、井上 美月でしょ。これ以上近付かないでくれるかな。折角……出来てるんだから」
そう言って男子は保健室の中に入り、扉を閉める。
廊下に一人、取り残された私は力無く床に座り込む。
何で私の名前……。いや、それよりも最後の言葉。
『折角、洗脳出来てるんだから』ーーそう聞こえた。
誰を洗脳? それよりも近付かないでって……。
まさか……、
「佐藤さんの事? え、じゃあ……今の人が佐々木 あおい」
それに最後の言葉の時だけ声のトーンが変わって空気も痛々しかった。
今にも殺されるんじゃないかと思うぐらいに。
やばい人だ。間違いなく、危険だ。
でも、それ以上に佐藤さんの事も気になる。




