肌身離さず持っていてね
「久しぶりだね」
「うん。でも心春ちゃん……ちょっと元気ない? 大丈夫?」
「う、うん。なんだろう。あおいちゃんが綺麗すぎて見惚れちゃったのかも」
「僕は男だよ。綺麗って言葉は心春ちゃんみたいな子を言うんだよ」
ふふっと目を細めて笑うあおいちゃん。モデルやってるんじゃないかと思うほどスタイルも良く、美形だった。
私はあおいちゃんが眩しくて目を逸らした。なんだか変に緊張する。
「ま、前髪……切ったんだね。前までは目元まであったから」
「うん。前はね、どうしても隠さないといけない理由があったから。ほら、心春ちゃんも見た事あるでしょ、ガラスの時の……」
あおいちゃんも答えづらそうに話している。それで何となく察してしまった。
『家族から日頃、暴力を振るわれていた』のだろう。何らかで目元が怪我をして前髪で隠していた。そういうことなのかもしれない。
あおいちゃんは困ったように笑い、話題を変えた。
「僕、ここで働いててね。もうすぐで終わるから中で待ってて」
あおいちゃんに勧められてカフェの中に入ると、落ち着いた雰囲気のある店内は床がグレイ系でダークブラウンの椅子やテーブルが一階と二階にあった。カウンター席もあり、とにかくお洒落すぎて、目がチカチカしてしまった。
何せ、私はカフェに入ったことなんて今回が初めてだし、飲食店だって全く行ってない。
お洒落なお店には無縁だと思っていたけど、まさか入る日が来るなんて思わなかった。
早く帰りたくなってきた。胃が痛い……。
あおいちゃんに一番窓際の席まで案内され、椅子を引かれ、座るように促された。
渋々座るとメニュー表を見せてくれた。
ど、どうしよう。ケーキの名前なんてチョコレートケーキかショートケーキぐらいしか知らない。
だから、ブルーベリーチーズタルトとかミルクレープとか……美味しそうな名前だけど、良く知らないから迂闊には頼めない。
そもそも初めて聞く名前だし。
値段見ると五百円以上もするから、なかなか高め……。
私はカフェにも行ったことがないので値段の基準が分からない。これで安いのか高いのかが判断出来ない。
困った……。
悩んでいると、あおいちゃんが口を開いた。
「良かったら僕のおすすめでもいい?」
「え……あっ、うん。お願い」
あおいちゃんは私の耳元で囁くように言ってきた。
耳に息がかかって少しくすぐったい。
今は私以外のお客さんはいないから、私が選ぶまで待っててくれたのかななんて……、そう思ってしまう。
厨房にオーダーしたあおいちゃんはお冷とおしぼりも持ってきてくれた。
あおいちゃんが厨房に入るのを見た後、
私は息をつく。あおいちゃんは凄いなって改めて思った。
生き生きと仕事してるんだもん。私は全然ダメ。
あおいちゃん以外と仲良くする努力もしなかった。それは同じ職場の人でもそう。
挨拶はするけど、それっきり。学生の頃はそれでも良かったと思うけど、社会人になってから……そんなやり方をしてたら敵をどんどん作っていることに気付いた。
それでも、性格はなかなか治らなくてかなり悩んだ。今だってそう。
でも……、あの事件であおいちゃんが一番辛いはずなのに元気に笑ってる。
だったら私も元気に笑えるように努力しよう。
「おまたせ」
そう言ってきたのはあおいちゃんだった。私服に着替えたのか、パーカーとボトムスを着ていた。
手にはケーキと紅茶をのせたトレイを持っている。
あおいちゃんはケーキと紅茶をテーブルに置き、トレイは元あった場所に戻しにいく。
すぐに戻ってきたあおいちゃんは私の向かいの席に座った。テーブルに膝をつき、前のめりになって私に聞いてきた。
「元気がない理由、知りたいんだけど」
「……さっきまで元気がなかったのは、あおいちゃんに会いたかったからだよ。でも会えて、元気が出たよ。ありがとう」
「うん。どういたしまして」
あおいちゃんは目を見開き、驚いた表情をしていたが、すぐに元の表情に戻った。
「そうだ、これを心春ちゃんに」
「お守り?」
「うん。手作りだけど……心春ちゃんが幸せになれるようにって」
あおいちゃんは思い出したようにポケットからお守りを取り出した。
青と白が基準のお守り。
私は、受け取る。
「肌身離さず持っていてね」
あおいちゃんはニコッと微笑む。
その笑顔は天使のようだけど、冷たくもあった。
私は疑問に思ったが、たいした違和感ではないからスルーした。




