結婚そして時は巡る。
半年後
王国は年明けから、多くの変化のある年となった。年明けにエドワード王太子殿下のご婚姻の儀と国王陛下就任の儀が行われ、先王陛下が即位33年をもって、国王退任をなされて、エドワード殿下が今代国王陛下となった。
そしてエルカ・フィン・ドンナルナは名を変え、エルカ・ティン・レオナルクとなり、王妃殿下となった。
さらに、騎士団長と宰相が退任となり、新たな騎士団長ならびに宰相が就任した。
騎士団長はラルク・フィン・ドンナルナからアルフ・フィン・ドンナルナに変わり、宰相はガルド・フィン・ルクレシアスからルクレシアス家の嫡男であるユーリス・フォン・ルクレシアスに変わった。
そして、他国も代替わりが行われた。
獣人族国家はガウル・ガウラン先王陛下から、ガンソ・ガウラン国王陛下になった。さらに同盟は戦争後も継続とされ、各国家における調整を目的とした国家同盟連合体、国連と通称される団体ができ、初代連合代表にレオナルク王国先王陛下であるラインバッハ・レオナルク代表が就任した。
副代表に獣人族国家の先王陛下であるガウル・ガウラン副代表、ドワーフ元副代表であるガレス副代表を置いた。
さらに聖国は滅亡し、そこに商業都市国家群にあった学院都市の姉妹都市ができ、魔法研究都市国家と教育学園都市国家という魔法研究メインの都市国家と教育をメインとする都市国家が設立された。広い土地で多くの研究や教育が行われる。
魔族の土地は有角族による統治となった。なお元魔族国家リブル(魔族の中でも好戦派の国家)の土地は魔法研究都市国家と教育学園都市国家の有する土地となった。
エルフやその他の種族の土地は変わらないが今までと違い開かれた地となった。それぞれの国家が深く結びつき世界は平和になった年だった。そんな中である式が開かれる。
今日、俺とミカは王宮にいる。俺は白のタキシード姿で、待機所で待ち惚けをしている。近くには父上や母上らがいる。
「マルク、落ち着きなさい」
「母上、落ち着けません」
「もう、シャキッとしなさい。男でしょう?本当にこういうところまでラルクに似なくても」
「ゼル、俺はあんなだったか?」
「ええ、あんなでしたね。なんならその時の事をお話ししましょうか?」
「いや、いい」
「そこ、うるさいわ」
「母上も落ち着いてください」
「アルフ、落ち着いているわ」
俺はなかなか落ち着かず、行ったり来たりをしている。今日は大事な日だ。はあぁ。落ち着かない。
「マルク様、ミカ様のご用意ができました。お会いください」
「ああ」
そしてミカのいる部屋に向かう。ミカのいる部屋には先王陛下、陛下、エルカ姉様やガルド様、シグルソン顧問、ヤイとリルちゃんにリオル先輩、ケビン、マリア、レア先生らがいた。
「ミカ・・・綺麗だよ」
「ふふ。嬉しいです」
「ああ、一瞬見惚れた、ああ、綺麗だ。いつも綺麗だけど今日は一段と綺麗だ」
「ありがとう、マルク」
「あら、妻の前だと素直ね。ちゃんと夫をしているわ。マルクはもう落ち着いたのね」
「ああ、そうだな」
「男は女で変わるとはこのことだ」
「ええ、そうですね。アルフ様」
「ミカ姉ちゃん綺麗」
「アラン、わかるか?」
ミカは純白のウェディングドレスを着ていた。この国としては珍しい白色の、デザインも珍しいウエディングドレスを着ている。
頭には金色に輝くティアラ、そしてそのティアラの中央には濁りない美しい翆色の翡翠の宝石は輝いていた。胸にも翡翠のペンダントをしている。それは俺の目の色だった
「マルク、そんなに見ないでください。恥ずかしいです」
「ああ、ごめん。俺は素晴らしい妻をもらった」
「もうわかりましたから」
ミカは顔を赤くした。俺はそれで恥ずかしくなった。
「おい、夫婦で顔を赤くする結婚式は変だぞ。ちゃんとしろよ」
「ああ、英雄夫婦が初々しいすぎるのはなんかなぁ」
「マルク先輩は本当に女性関係だけはダメダメです」
と、元第00小隊の面々が茶化してきた。
「まぁ、ドンナルナ子爵家の伝統だ。ラルクはもっと酷かった」
「おい、ラインバッハ」
「ははは。ああ、あれはもうひどいな。リネアもリネアでぁ」
「が、る、ど」
「いや、リネア、こんな日にその殺気はやめろ」
「お父様、流石にお父様が悪いです。隠居されて耄碌しましたか?」
「おい、レア、ちょっと」
母上がガルド様に問い詰めに近づく。
「皆様、そろそろ時間となります」
「わかりました」
そして俺とミカを残し、みんなが先に会場に行く。
少しして、係の者に呼ばれ、俺はミカの手を取り、会場に行く。
元の世界では父親が手を引き花嫁が登場するのを花婿が待つが、この国では花婿が花嫁の手を引いて、一緒に入り、そして神の前で婚姻の宣誓を述べ、その誓いのキスをする。
それが終わると立ち会い人が婚姻証明書を渡し、それに花婿と花嫁がサインをして、婚姻の儀となる。元は婚姻証明書は神父が渡していたが今は神がいないため婚姻証明人が渡す。
俺とミカは婚姻の儀の会場のドアの前に立ち、開くのを待つ。係の者がドアを開ける。
「「「「「「「綺麗」」」」」」」
「「「「「かっこいい」」」」
と歓声が上がり、その後、万雷の拍手がなる。
俺とミカは一歩一歩、歩幅を合わせ、タイミングを合わせ、歩んで行く。その度に先程の声が響き、また拍手が湧く。そして赤い絨毯の上をゆっくりと進み、俺らは祭壇の前に来た。
そして俺から
「我々は本日をもって、夫婦となり、これからの人生を共に歩むことを誓います。困難にあった時も、病む時も、嬉しい時も、楽しい時も変わらず、共に力を合わせて歩み、その命ある限り、共に支え合い愛することをここに誓います。花婿、マルク・フィン・ドンナルナ」
そしてミカ
「我々は本日をもって、夫婦となり、これからの人生を共に歩むことを誓います。困難にあった時も、病む時も、嬉しい時も、楽しい時も変わらず、共に力を合わせて歩み、その命ある限り、共に支え合い愛することをここに誓います。花嫁、ミカ・ドンナルナ」
そして俺はミカのブーケをあげ、見つめあい、ゆっくりと顔を近づけてキスをした。1秒ほどのキスが終わると会場は静かに俺らを見つめていた。
そして立会人の陛下と王妃であるエドワード陛下、そしてエルカ姉様が俺とミカに婚姻証明書を渡す。そこには
『マルク・ドンナルナとミカ・ドンナルナが今日をもって、夫婦となったことをここに証明する。エドワード・ティン・レオナルク、エルカ・ティン・レオナルク』
と、末尾に書いてあった。
俺とミカがそれぞれ名前をサインし終わると、拍手が再度鳴り響いた。
「「「「「「マルク、ミカおめでとう」」」」」」
本当に多くの方がここに来てくださり、祝ってくれた。
そして、多くの方の拍手を受けながら、俺とミカは立会人の陛下とエルカ姉様と共に会場を後にする。そして王宮のテラスより、国民に向け、手を振る。
するとテラスから見えた王宮前の広場には、多くの人が集まっていた。俺とミカを祝う多くの国民が俺らを祝福するために拍手と歓声をあげた。俺らはそれに答えるように手を振る。
そして、陛下が一声を
「王国の民よ。たった今、英雄マルク・フィン・ドンナルナ名誉永久伯爵と、英雄ミカ・ドンナルナ殿が婚姻をした。我が国、いや世界が彼らに救われ、そして今日という素晴らしき日を迎えた。今日という日はきっと歴史に刻まれるだろう。我が国の未来を示す明るき日を皆で祝おう」
「「「「「「「「「「おおおおおお」」」」」」」」」」
地響きのように王都を歓声が響き渡る。その声は天にも届くかのようだ。
そして、俺が発声する
「愛するレオナルク王国の民よ。今日、皆に祝っていただいたこと、私の人生において忘られぬ思い出となろう。先の戦争で苦しい思いをした者もいる中、こうして祝ってくれたこと、心より感謝する。我が国は素晴らしき陛下、素晴らしき貴族、素晴らしき国民がいる。これほどの国は今までにない。英霊に誇れる国だ。そんな皆に祝われ幸せだ。皆ありがとう」
「「「「「「おおおおお」」」」」
さらに歓声が上がり、
「「「「「「「英雄万歳」」」」」」
「「「「「「マルク様万歳」」」」」」
「「「「「「ミカ様万歳」」」」」」
「「「「「「レオナルク王国万歳」」」」」」
と歓声は広がっていった。また王都が揺れるような歓声が上がる。
そして俺らは王宮に入り、今度は馬車に乗り、王都を一周する。
「「「「「英雄万歳」」」」」
「「「「「マルク様万歳」」」」
「「「「「ミカ様」」」」
と、王都民や王都に来た他領や他国の民が大騒ぎで俺らを祝ってくれる中、馬車から手を振り、進んでいった。
そして俺らは披露宴会場に入る。
「これから、マルク・フィン・ドンナルナ様、ミカ・ドンナルナ様の披露宴を開催します」
披露宴は姉貴ら初代勇者が広めたようだ。婚姻式はこの国の方式でするが、披露宴は前世風にしたらしい。兄上の時はシューガルトでしたとふと思い出す。
多くの人らからお祝いの言葉をいただく。獣人族国家を代表してガウル先王陛下、レオナルク王国を代表して陛下、国連を代表してラインバッハ代表、レオミランのミラン国王陛下、商業都市国家及びドワーフ族を代表してガレスさん、エルフ族を代表してローザさんなどが挨拶される。来賓の挨拶が終わると、友人たちがどんどんと祝いの言葉をくれる。
アレスやレオナ、マーク、ルーイ、ルーナら。そしてクリス先輩ら、さらにリッキーやサンゼルら、さらにガイアスなど。最後に第00小隊だったヤイ、リオル先輩、ケビンと。
そして父上の挨拶の後に俺が挨拶する。
「本日は息子のマルクと、妻のミカのためにお集まりいただきありがとうございます。
最後の子もこうして婚姻となりました。マルクは英雄と呼ばれるまでに本当に多くの困難に遭い、そしてそれを乗り越えてきました。
我が子ながら、私はこの子を尊敬しております。子供が自身で困難を乗り越えて行く姿を、手を出すこともできずに歯痒さばかりを募らせる毎日でした。それも今日までとなります。
我が子が今日、最愛の妻をもらい、旅たつ時を迎えました。妻であるミカとは騎士団から一緒で、マルクの大変な時に今までも支えてきてくれました。
これからはマルクをミカが支え、ミカをマルクが支え2人で歩んで行くでしょう。そんな二人がこうして幸せな日を迎えられたのは皆様の支えがあっての事、皆様には感謝を申し上げます。
そしてこれからもどうか、二人を変わらずに支えいただきますようお願い申し上げます」
父上のスピーチの後、俺の出番だ。
「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。本日をもって私とミカは夫婦となります。私たち夫婦は辺境伯領で出会いました。その後は騎士団で同じ隊の隊長と隊員という立場で支え合ってきました。大戦の時もミカの支えなくして、勝利を得られませんでした。
私たちにとってこうして婚姻することはもしかしたら運命という物だったのかもしれません。ただそれも二人で手繰り寄せなければきっと得られないものだったと思います。ですからこれからも二人力を合わせて、辛い時も、苦しい時も、嬉しい時も、楽しい時も幸せを手繰り寄せるよう頑張っていきます。どうか暖かく見守っていただけると幸いです。
そして、私たち夫婦がここまでこれたのは、ここまで支えていただいた多くの皆様のおかげであります。私たちは今まで多くの困難に遭いましたが、それでも、何事もなく来れたのは皆様に支えられたからです。皆様には心より感謝申し上げます。そして、どうかこれからも今まで同様のご支援、ご鞭撻をよろしくお願いします」
俺のスピーチの後、万雷の拍手とともに音楽隊の演奏が会場を包み込んだ。俺とミカは顔を合わせ、音に合わせるようにお辞儀をした。
また拍手が大きくなって、披露宴は終わった。
7年後
「マルク様、食事の準備ができました」
「ああ。すまない。エイナ」
「はい。皆様が食堂でお待ちください」
「仕事はいいの?マルク」
「ああ、待たせてすまない。」
「父上、お疲れ様です」
「ああ、マット。明日はスキルチェックだな」
「ええ」
「緊張しているか?」
「はい。父上のような凄いスキルがあればいいのですが」
「マット、大丈夫だ。俺は無能と言われたが、それを覆せた」
「はい」
「どんなスキルでも俺が、ミカが信じて支えてやる。俺も家族に支えられて、ここまで来れた。だからマットはマットらしくな」
「はい」
世界は今も平和だ。俺は結婚の翌年から国家間同盟連合体の2代目代表になった。それももう少しで終わる。
世界は神が、カンバルが封印されてできた新たな世界のため、それまでのスキルを活かし、新たなスキル世界にした。
現在は全ての種族がスキルを持つようになった。ただし俺がそうであったようにスキルが全てではなくなった。スキルがなくても武術を極められる。あくまでスキルはあれば有利程度となった。
魔法は今まで同様、魔法理論が中心となった。そして俺の神の力はもう使えない。体が、また使えば保たないことがわかった。
俺の家には、俺、妻のミカ、息子のマット、そしてメイドのアイル、リリアとエイナがいる。
リリアは俺付きのメイドだったが、俺が独立した後も俺のメイドとして家に来てくれた。リリアは獣人族の男性と結婚した。そのため、ずっと家にいるわけではない。
そしてアイルは俺の家についてきてくれた。ガッソさんがいなくなり、ドンナルナ家のメイドになったが、その後に俺の家にきてメイドとして働いてくれている。
そして、エイナだ。エイナはダークエルフの生き残りだ。あのクロの娘でエルザだ。
陛下を狙ったあの娘だ。名を変え、俺の元で引き取った。その生い立ちなどに情状酌量の余地があり、その後にクロの情報を話したことから俺が引き取り、メイドとして雇っている。知られると面倒なので名を変えさせた。
そのことを恩に思い、今は静かにメイドとして暮らしている。
世界は変わった。俺も大分力を戻したがもう英雄らしいことはしてない。それが必要ないほどに平和だ。
これからも色々と静かに暮らしたい。そしてまだしてないことをしたい。後1年も頑張れば国連代表も引退する。それまで頑張ろう。
これ以降のマルク・ドンナルナの日記はなく、また歴史からも名が消えた。その後は息子のマットの名は何度となく、歴史を彩るが、マルク・ドンナルナという名は出てこない。彼はエルフの血を引き、人族よりも長寿と言われるが、28歳以後の彼について知れる文献等は見当たらない。
彼の家族や友人らはその後の多くの出来事において活躍をしたがマルク・ドンナルナの活躍はなかった。この世界を変えた英雄は平和な時代において、前に出てくることはなかった。世界が平和であり続ける限りはきっとその名は聞くことはないだろう。
マルク・ドンナルナ英雄伝より
これでこの作品も終了となります。最後までお付き合いいただいた皆様、心より御礼を申し上げます。
ありがとうございました。




