初任務
1週間後
今日は魔獣倒しの任務を仰せつかった。多くの騎士団各隊は今週までは王都警備を中心にしている。俺らは勤務初日から冒険者が対応しきれない魔獣の群れを退治にしに行く。元々、冒険者上がりが多い俺らにはこういった任務が来る。
今回は、貧しい村に猪の魔獣が出たというので倒すのが任務だ。冒険者時代は猪の魔獣なんて、依頼料がなくても倒しに行ったが、それは俺やサンゼルが特殊なだけだ。相当力がない限りは依頼料次第だ。
俺らは王都を出発する。そして村に着いた。
「まずは村のどの辺に現れたかを聞く。いいか?」
「なんだか、懐かしいね。冒険者時代にこれで嵌められそうになったよね」
「ああ、あったな」
「そんなことがあったのですか?」
「ああ。ミカ、だからこそ、話を聞くことは重要だ。ここでどう話が食い違うかを見極めないと後で痛い目に遭う。どうしても依頼する時は来てもらおうといいことを言う。しかし、実際は違ったというのはよくある。騎士の場合には反対で、緊急だと装うことが多いようだが」
「そうですか。気をつけます」
「では、俺とケビンが聞きに行く。ヤイとリオル・ミカ組で別れ、街の住民に聞いてくれ」
「「「「はっ」」」」
「行くぞ。ケビン」
「はっ」
そして村長の家へ。
「失礼します。騎士団第00小隊、小隊長マルク・フィン・ドンナルナです。村に猪の魔獣が出たという任務を仰せつかった隊の隊長です。お話をお聞きしました」
「はい。こちらまでお越しいただき、ありがとうございます」
「ええ、大丈夫です。で、どのような状況でしょうか?」
「はい。2日前にそちらの森から猪が出て来て、畑と外れの小屋などを倒していきました。また来れば、今度は村の中を壊す可能性があるので、騎士団に依頼をしたました」
「そうですか。わかりました。何頭で、どこから畑に入ったか?教えていただけますか?あと、被害場所の確認をさせてください」
「わかりました。確認は後ほど、案内人をご用意します。猪の魔獣は3匹で、そのうち2匹が大きく、もう1匹は子供と思います。入って来たのは森から南の畑に入ったようで、畑の南から来て、北に向かって進みながら畑で食物を食べ、そして小屋を漁り、壊したようです」
「そうですか。村の貯蓄はいかがですか?」
「はい。あまり多くないです。猪に荒らされましたから」
「そうですか。昨日も来たのですか?」
「いえ、昨日は来ませんでした」
「そうですか。わかりました」
「他になければ、案内する者を紹介させてください」
「わかりました。村長、よろしくお願いします」
「おい」
「はい」
「こちらは私の息子で、今回案内をします」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「はい」
「では、隊員と合流して、話し合った後に門の入り口で合流していただき、畑に向かいましょう」
「わかりました。よろしくお願いします」
そして、俺らはヤイらと合流して、打ち合わせをする。
「ヤイ、情報は?」
「ああ、村の畑に魔獣が出た。そして、物凄い音で何かにぶつかり、その後1時間ほどいらしい。そして居なくなるまで村人は家の中で待機していた聞きました。前にも何度かこういう事があったようです。だが、その時は話を冒険者協会にも、騎士団にも聞いてもらえなかったとさ」
「そうか。こっちは魔獣が3頭居て、畑を荒らし、小屋を漁って壊したと聞いた。また備蓄は厳しいようだ。そっちは状況によって、ガルド様に支援を申し出る」
「わかった」
「リオルたちは?」
「ほぼ同じです。何が起こったかわからなかったが、家を出たら死ぬと思い、家で閉じこもって居たと村人は言っております。そして、朝になり、畑が荒らされ、小屋が壊れていたらしいとのことです」
「そうか。わかった。数は足跡あたりを村長が確認したのかもしれない。状況は保存されていればいいが、ダメな場合は気配で探る。猪の家族の可能性が高い。数はもっと多いかもしれない。念頭に置いておけ」
「「「「はっ」」」」
「では入り口で案内のものが待ってくれている。行こう」
「「「「はっ」」」」
そして、俺らは案内人の村長の息子と村の入り口で遭う。
「では、案内をお願いします。畑はそのままですか?」
「ええ、恐くて、数日はこうしておくのが通例です。もし、何かしようとして殺されたら、村はたまったものじゃないので」
「そうですか。わかりました。では行きましょう」
「はい」
そして畑に行く。本当に魔獣に荒らされたままのようだ。森に近く、騎士に助けてもらえない村ならではの知恵か。
「畑は大分荒らされましたね。小屋はどこですか?」
「あそこに」
「ああ、あそこには何が」
「はい。少々の備蓄を。魔獣が来た場合にそちらを襲うように少しですが、備蓄をして居ます。それで村には来ません」
「そうですか、素晴らしい対策です。今回は退治しますが、それは続けた方がいいでしょう」
「はい。ただ、備蓄が」
「そちらも退治がおわりましたら、確認して、必要ならば支援を王宮に願える方法をお教えします。こちらからも必要と判断すれば状況報告の際に支援の必要ありと王宮に伝えておきます」
「ありがとうございます」
「いえ、任務です」
「では、リオル、ケビン、ミカは小屋を確認して、ヤイは全体を見てきて状況を把握、俺が畑を確認する」
「「「「はっ」」」」
そして俺は足跡や猪の逃げ道を確認して行く。だいたいの状況は把握できた。うーん、微妙なところがあるな。猪の巣は森の奥だぞ。少しだけ時間がかかりそうだ。まあ、ちょうどいい訓練になるか。そしてヤイが戻ってきて、小屋組も戻ってきた。
「よし、では皆報告を」
「「「「はっ」」」」
「では、リオルらから」
「はっ。私が代表して、隊長に報告申し上げます。小屋は崩れておりました。数頭によって突進されたと思われる跡を発見しました。食べ物は残骸のみでもうありません。次は小屋ではなく、村を襲うと思います」
「わかった。小屋に行った魔獣の数は?」
「はい3頭全てが来ていたようです」
「わかった。リオル、ありがとう」
「はっ」
「では、次、ヤイ」
「ああ、色々と見て回ったが、巣はかなり森の奥にありそうです。これから出たのでは夜に間に合わず、すれ違いもあります。今日はこちらで待ち、村を警備して、明日の朝に巣に向かいましょう」
「ああ、俺もそれがいいと思う。わかった。ヤイ、ありがとう。今、ヤイが言った通り今日はこちらで待機して、村を警備する。ここで野営の準備だ」
「あの〜食事の準備が村がするのでしょうか?」
「いえ、それでは備蓄が本当に厳しくなるでしょう?自分らの分は用意してきてあります」
「そうですか。荷物は?」
「ああ、こちらのバックの中にあります。こちらはマジックバックですので」
「そうですか」
村長の息子さんはホッとした様子だ。騎士にまで食事を出す余裕はないようだ。
「で、今日は警備して、明日の朝に猪を退治します。ですので、村の備蓄を見せてもらってもいいですか?確認できたら、支援申し込みの書類をお渡しします」
「わかりました。隊長様が?」
「ええ、私が確認します。その間に隊員が野営や警備の準備をします」
「わかりました。では村長のところへ一度お越しいただきます」
「わかりました。息子さんも一緒にお願いします」
「はい」
そして案内人の村長の息子と共に2人で村長のところへ向かう
「失礼します」
「お疲れ様でございます。隊長様、どうでしょうか?」
「はい。今日これから退治に向かうと、すれ違いになって村が襲われる可能性もあるので、明日の朝に向かいます。今夜は畑で野営し、村の警備をします」
「いいのですか?」
「ええ、それとこちらの食事等はご用意いただかなくて大丈夫です。王宮支給の物があります」
「はあ、本当ですか?」
「ええ」
「ありがたい。いい隊に来てもらったようだ」
「前に来てもらったことが?」
「数年前ですが。いらっしゃった隊は酒をよこせと言われたり、食事を用意させられたりしました。しかも魔獣はいないと報告され、その後も被害に遭い続けました」
「そうですか。それは騎士団の1人として、謝罪申し上げます」
「いいえ、隊長様が謝られることではないです」
申し訳なさそうな感じで言われた。
「わかりました。それで、備蓄を見せてもらい、備蓄状況が厳しいと判断できれば支援申し込みの用紙をお渡しします。それに私も支援が必要と報告します。ただし、備蓄状況を確認して、ちゃんと必要と判断した場合です。まあ、支援がないと厳しいだろうと思いますが」
「あのいくら払えば、必要と?」
こちらを伺うように村長は言う。
「ええっと。何を言っているのでしょうか?あくまで確認をしてそうだと判断できればです。お金を頂くことで判断は変えません」
「そうですか」
何だか心配そうな表情だ。
「これも前に?」
「はい。あの時はこれを拒んだために、魔獣も倒されずに、備蓄の支援もしてもらえませんでした」
「そうですか。それも重ねて謝罪をいたします。ですが、あくまで実際に支援必要と判断できる状況ならば、報告書には支援必要とします」
「はい。では案内します」
「はい」
そして、備蓄を確認んしていく。かなり厳しそうだ。
「わかりました。支援が必要そうです。正直に答えていただきたいですが、何ヶ月くらい持ちますか?」
「ええ、今回畑で採れるはずの麦が取れないので、もって二ヶ月くらいです。それ以上は無理かと。秋まで、四ヶ月かかりますから、残りの二ヶ月は厳しい状況です」
「そうですか。ではとりあえずは三ヶ月分の支援が必要と報告書に記載します。その後の状況次第で追加も考えます。また畑の再建と小屋の再建費用、税の免除についても必要と報告します。こちらの支援申し込み書に記入をお願いします。字は書けますか?」
「はい、私と息子は」
「そうですか。ではこれが見本です。こちらを参考に、私たちが帰る明後日までにお書きください」
「ありがとうございます」
村長と息子さんが嬉しそうに笑う。これで村が救われるということを確信したように。相当辛い目にあったのだろう。前に来た隊がまだあった時はリット副団長と相談の上、罰則をしてもらうか。
そして俺は野営地に戻り、皆と野営をして警備に着いた。猪は来なかった。そのため、朝、二手に分かれ、森に入る。俺とケビンで組み、ヤイ、ミカさん、リオル先輩が組む。ヤイらが討伐を行う。俺とケビンとヤイは魔獣の討伐は慣れているので、2人にしてもらう。それをヤイが監修する。俺とケビンは遅れて入り、村に来ないようにする。
「では、ヤイ、頼む」
「ああ、任せろ。リオル、ミカ、2人に倒してもらう。ミカに猪数頭はまぁまぁの課題だ。協力して、倒せ」
「はい」
「特にミカ、お前は初めてに近いだろう。位階酔いも考えられる無理はするな。実力はあるから、2人ならいける。それでも余裕を持って倒せ。そうしないとしっぺ返しを食らう」
「はい」
そして3人が巣に向かった。
「ケビン、俺らはもし猪が逃げた時に村に来ないようにする。ある程度の距離を取ってヤイらを追う。魔闘を耳にかけ、聴覚を研ぎ澄ましておけ。俺の指示を聞き逃さないように」
「はっ」
そして俺らも入る。気配は3匹と数匹の子供だ。産んだばかりかもしれない。
そして、ヤイらが巣に到着したようだ。
「ケビン、ヤイらが巣に着いたのは気づいているな。ここから、俺らは離れて、猪が逃げないようにする。気をつけろ」
「はい」
そして、巣に近づいて、ある程度の距離で待つ。すると、大人の猪の魔獣2匹が死んだ。あとはそこそこ大きい子供の猪の魔獣だ。子供の猪に魔獣が逃げると思った瞬間にヤイが仕留めた。よし、そして残りはリオル先輩とミカさんが倒していった。もう逃げる気配もない。
「ケビン、俺らも巣で合流する」
「はい」
そして、合流した。2人とも怪我なく、済んだようだ。
「よし、終わったな。あとは、ここを焼く。魔獣は全て持ち帰る。村人に見せた後で、王都に持ち帰り、庶務課に出した後に解散する」
「「「「はっ」」」」
そして、村に帰り、猪の魔獣の死骸を見せる。
「よかった。これで怯えずにすみます。そして支援も受けれる。本当にありがとうございます」
「いえ、当たり前のことをしただけです」
多くの村人がいて、喜んでいる。俺らは挨拶を済ませ、支援申し込み書を村長から預かり、そして村を出て、王都に向かった。
そして王宮で庶務課に完了報告をして、猪の魔獣の販売を任せて、解散した。俺は報告書をすぐに済ませて庶務課で申請して、その後に文官棟の支援課に向かい、村の支援申し込み書と俺の報告書を提出して、支援をしてもらえるように願い出た。文官はすぐに手をつけるようだ。
そして、俺は過去の騎士団の報告書を見に、書類管理室に向かい、そして報告書を確認していく。すると、犯人は奴らだった。
そうか、ダンゼンの隊か。あいつらは俺やリッキーらを嵌めた前から問題を起こしていたか。そして、文官も関わっているな。これは支援申し込みは出されたが、ダンゼンが魔獣はいないと報告して、文官数名がこれを承認して、備蓄を確認して村の嘘と断定したと。この文官はまだいるな。不正か。よし、ガルド様と父上に報告だ。
そして騎士団長室にアポを取り、向かう。
「失礼します」
「うむ。報告ということだが、何か?」
「実はこの報告書をご覧ください」
「うむ。ダンゼンか。これがどうした?」
「はい。昨日から任務でこの村に行きました。村で話を聞いたところ、数年前にも魔獣が出て依頼して、騎士団が来たが、金を要求して、それを拒むと魔獣がいないと報告されたと。そしてそれが今回も暴れたと聞きました。それで魔獣を討伐後にこちらの報告書を拝見すると、ダンゼンの報告を追認した文官がいました。そして、備蓄が厳しい状況だったはずの村を全て嘘と報告したようです。この文官はまだ王宮内にいます」
「そうか、ガルドを呼ぶ。リット、使者を頼む」
「はっ」
そして、ガルド様が来て、確認していく。怒り心頭だ。ガルド様はこういう話が大嫌いんだよね。
「うむ。マルクの言う通りだろう。あやつら、すぐに捕らえてくれる。ラルク協力を頼む」
「ああ、わかった」
そして、父上とガルド様は文官棟に行き、犯人2名を捕まえた。
「お前らのしたことはわかっている。職は辞させ、裁判にかける」
「な、これくらいはどうってことないはずです。俺は優秀です。これくらいで」
「これくらいだと?民が苦しむ時に、私腹を肥やすためにそれを無視したことがか?」
ガルド様の怒りが振り切れたようだ。王国は民を大事にする。これは初代陛下の時代からのルールだ。そして、それは御三家が作ったと言える。それを蔑ろにすることは御三家の子孫にはありえない。それをこのくらいと言うのはガルド様の怒りを買う。
こうしてひと騒動を終え、俺は宿舎に戻り、部屋で食事をしていると男連中が来て、また宴会をしていた。俺の部屋は隊長格なので、少し広く、しかも1人部屋のため、皆がよく集まる。




