社交界 貴族の派閥
社交界での話
王城につくと騎士にゼルが家名を伝え、門を開けてもらう。ゆっくりと門を馬車が潜り、停車場に馬車をつけ、父上らと降り、王城の中についた。王城はとても大きく遠くから見るよりも明らかに美しかった。
そして各家が王宮の中庭の見えるパーティー会場の待機所に入った。我が家は子爵なので、下級貴族の者らの待機所にいる。下級貴族でも派閥のものは上級貴族にくっついて隣にご用意されてある上級貴族の待機所に居る者もいるが、あまり上級貴族には良い顔はされない。我が家は特に派閥に入らないが、父上がドンナルナ辺境伯家の分家扱いで、近衛副隊長であるため、中立派よりの王国派だ。
貴族の派閥には、天神教の熱心な信者で帝国貴族と仲の良い貴族派とそうでない王国派と特に派閥のない中立派に分かれる。貴族派はそんなに多くはない。大戦があったのと天神教の信者が少ないためだ。派閥の数は、一番多いのが王国派、ついで貴族派、そして中立派だ。ただし、貴族派には大物の貴族がいるのであまり良くない。
貴族派の大物が陛下の叔父である公爵だ。この人は父上と仲が良くない。第一次レオアル大戦時に、父上が公爵の指揮に入ったが、指揮がひどく負けそうになった。その時に殿となり大活躍した。公爵の失敗をもみ消すために父上が英雄になった。これが面白くない公爵と父上は仲がよくなかった。
公爵の孫が同い年だから、きっと絡んでくるだろうな。嫌だ。面倒だな。
はあ、なんか子供たちが集まっている。多分、親同士とかが仲がよく、子供たちも仲がいいんだろうなぁ。俺はスキルのこともあったから、今まで子供同士の仲を深める暇はなかった。今日が初めましてという方しかいない。
父上は仲の良い近衛隊隊長や騎士隊の隊長、軍部大臣らと話してらっしゃる。だが俺の元には子供らは話しかけてこない。まぁそうだろうな。親同士が仲が良く、彼らは仲が良い。そこに全く知らない、無能がいれば話しかけてこない。母上も知り合いだから親同士が仲良くしている。
宮廷の儀典官の方がいらっしゃり、貴族たちは子供たちを連れ、中に入った。俺も父上と共に中には入った。そこではもう子供同士が派閥作りをしている。暇だなと思う。そこらから聞こえるのは「俺のスキルは〜」「私の親は〜」の話ばかり。
はぁこれで何を誇っているんだ。学院に入ればわかるし、親はここで何の意味もない。嫡男の場合は関係あるか。でもそれをここでやっても自分は爵位や親の権力しかありませんと言っているようなものだ。
そうじゃなくて、うちの領はこんなものを作っていてとか、騎士または官吏を目指しておりましてどうたらだから是非貴君と仲良くさせていただければとかなら有意義だと思う。
まぁどうでもいい。下級貴族の余っている人と仲良くなろうかな。と、そんな時に大きな声で話しかけられた。
「おい、お前がマルク・ドンナルナか?」
「ええ。そうでございます。不勉強で申し訳ありません。貴方様はどなた様でしょうか?」
俺の記憶にはない顔の子だ。誰だ?特徴的には親類かもしれないが…。ドンナルナ家のご当主ルイン様とその奥方それに嫡男の方は昨年にこの会に後嫡男が出るということでご挨拶に家にいらっしゃりお会いしたが、他の方は会ったこないんだよな。
「ふん、俺はドンナルナ辺境伯家のルドルフ・フォン・ドンナルナだ」
この方は何言ってるんだ?当主はルイン様だろ?その子供あたりだろうが、フォンはつけちゃマズイだろ。それともルイン様は亡くなったのか?聞いてないけどな。
「これは申し訳ありません。ドンナルナ辺境伯家の当主様でしたか?私はラルク・フィン・ドンナルナの次男、マルク・ドンナルナです。お若いのに当主様とはご大変でしょう。親類ですので、どうか困りごとの際には何なりとお声がけください」
「うっ」
「どうなされたのでしょうか?」
「お前、無能のくせに、舐めているのか?」
「はぁ。このような場は不慣れでございますので、何か失礼なことがありましたでしょうか?」
と父上がこちらにいらっしゃった。
「どうした?マルク?」
「父上、本家の当主様が」
「当主?うん?お主はルインの子のルドルフか?」
「はい」
「マルク、ルドルフはドンナルナ辺境伯爵家当主であるルイン・フォン・ドンナルナ辺境伯の次男だ。」
「えっ?でもルドルフ・フォン・ドンナルナと名乗られましたが?」
父上は呆れたような顔をなされ、ルドルフ殿はまずいという顔をされた。
「ルドルフ、お前はドンナルナの家の当主でもなければ、嫡男でもないだろう。まぁマルクに大きな顔をしたかったんだろうが、それをここでやると自分とドンナルナの家の価値を下げるぞ」
「うっ。これで失礼します」
彼は逃げるように走っていった。ああ、残念な子だ。
「はあ、あれが本家の人間かと思うと、ルインはどんな教育しているのかと思うな。マルク、あまり気にしなくてもいいが恥ずかしい事はしない方がいいぞ」
「はい」
まぁ、あれはないな。次男でフォンという領主持ちの貴族が名乗る際につくミドルネームをつけちゃダメだろ。自分のプライドのためにそこまでして。ルドルフとかいう奴はあとでルイン様に怒られるな。
ちなみにフォンは領地を持つ貴族家の当主のみがつけ、フィンは領地を持たない貴族家の当主又は成年を迎えた領地なしの貴族がつける。家を継いでない未成年の貴族の子は嫡男でもフォン又はフィンをつけてはいけないんだよ。それも知らないのか?
まぁ、そんな奴はどうでもいい。それより下級貴族の子息と仲良くなろう。再来年の学院のためだ。数人に話しかけたらそれなりに話せた。中に1人だけいい人がいる。
何か面白そうな領の領主貴族の嫡男で父親同士の爵位も同じだし、領には面白い物が多いらしい。その領地に行ってみたいと思った。それに騎士に憧れているとかで、話も合う。
やっと、下級貴族の子らと数人仲良くなれたところに、また何か来た。
ああ、せっかく仲良くなった子らがいなくなる。
「おい、無能」
「・・・」
無視でいいだろう。失礼にも程がある。礼儀を学んできたのか?俺を呼んでると思いたくない。
「おい、無能」
「・・・」
「おい、シゼル様が話しかけているだろう」
「・・・」
「無能、シゼル様は公爵家の嫡男で、王位継承権10位だぞ」
「・・・」
「それに俺はレドニア子爵家の次男、ジダンだぞ。無視するな」
「・・・」
「失礼な奴だ。無能は礼儀も知らないらしい」
「・・・」
無能と、初めて会う者に言う奴はもっと失礼だろう。こいつ大丈夫か?騎士宿舎に入ったらボコボコにされそう。
「あの、誰に話しかけてらっしゃるのかわかりませんが、私がここにおるとお邪魔なようなので失礼します」
「お前、待て」
はぁこんなのばっかでこの国は大丈夫か?
フォン、フィンについて
フォン 領地を持つ貴族がつけるミドルネーム
フィン 法衣貴族及び領地貴族の嫡男 又は領地貴族又は法衣貴族の次男以降の男子又は女子で、成人し国に仕え、ある程度の役職を持つ、爵位のない貴族が付けるミドルネーム
例) ラルクやマルクの兄アルフはフィンがあり、エルカ、メルは役職が付けばフィンが与えられる。
なお、フィンのつかない苗字持ちは、国の役職を有す場合は準貴族、有さない場合は騎士爵や文官の官吏、各領地の役職者(重要な役職者は大抵騎士爵位を所属領地の領主からもらう)である。又は貴族の子、騎士爵の子である。
なお、騎士爵は準貴族扱いである。
そのために、正式に相手を呼ぶ場合は爵位を付けて呼ぶ。〇〇子爵、〇〇男爵などと呼ぶ。ただし、爵位の上の者が下の者を、又は爵位が同じ者を〇〇殿など呼ぶことは許される。同時に爵位が上の者を爵位の代わりに様付け又は役職付けで呼ぶことも許される。
偉さの度合いは爵位が関係しないと
フォン=叙爵されているフィン>叙爵されていないフィンを有する貴族(王宮内の役職付きの当主でない貴族)>準貴族=騎士爵>貴族の子で苗字持ち>ただの苗字持ち>苗字のない平民
レオナルク王国の爵位は 王家、公爵が一家、侯爵が二家、辺境伯が一家、伯爵が15家、子爵、男爵が100以上である。これは王国の成り立ちに関係する。ドンナルナ家の本家である辺境伯家と侯爵家が王国の独立に大きく関与したため、それらを他の家と分けるための施策である。




