猫耳の友人と犬耳メイド2
大分更新が遅くなりました。新しいパソコンがほしいです。
まだ日は昇っておらず薄暗い空の中、小鳥たちも小さく囀る早朝の頃。
エクレールは一人静かにベッドから抜け出し背筋を伸ばす。
垂れていた尻尾はまるまり他の皆を起こさぬよう寝室を出る。
自室でパジャマを脱ぎ制服に袖を通していると、今日から当分昼食のお弁当はいらないと主人に言われた事を思い出しエクレールの尻尾が垂れる。
シロエールは基本的に大衆の視線に弱く、あまり友人を作ることが出来ないでいた。
しかし、学園に通う中で同居人を増やしクラスメイトまで出来るようになった彼女の成長は喜ばしい事なのだと思う。
だが、エクレールの胸中は自分の大事な主人がほかの人に取られないかという不安を抱え込んでいる。
元々奴隷で殺されそうだったのを救って貰っただけの存在。
だから、もっともっとシロエールが自分の事を見ていてほしいと願う。
フライパンから食欲をそそる香りと音が広がり朝を彩る。
今日はアカネの希望で彼女の国の食事、味噌という独特な香りのするものを使ったスープに焼き魚とご飯といたってシンプルである。
暖かい味わいがしてエクレールも好んでいるが、付け合わせの納豆という食材にはどうしても好きになれない。
料理が出来上がる頃、寝室から匂いに誘われたのか皆が出てくる。
「おはよー」
「おはようございます」
「おはようなのじゃ」
「おはようなのです」
「おはようございます~」
「皆様おはようございます」
それぞれ挨拶をしながら各自の部屋に移動する。
エクレールは其々を見送ってから料理の盛り付けにかかる。
皆はさらに着替えや髪の手入れなど時間がかかるのでゆったりと作業をする。
料理を並べ終え、使った調理器具を水洗いすると終わった頃には全員が席についていた。
本来、普通のメイドが主人と一緒の席で食事なんて恐れ多い事なのだろうがシロエールはエクレールを何時も一緒の席で食事を摂らせる。
そして、何時ものように鍵魔法で学園へ移動してそれぞれの学科、学部、クラスへと分かれる。
が、エクレールはクラスにはいかず別の場所へと足を進めた。
人気が無い場所まで来てから周囲を確認し、『飯綱神威』を唱える。
彼女の身体を電流が包み込むようにバチバチと鳴り響きわたると、壁や木々を蹴り、飛び跳ね、紫電が走る。
少しでも気を抜くと壁に激突したり、マナが切れてブレーキのない状態に陥る恐れがあるのをシロエールによって鍛えられたマナの総量とメリーに鍛えられた体術によって完成されたエクレールの『飯綱神威』(イヅナカムイ)は、本来の使い手であたガーランドよりうまく扱えているかもしれない。
エクレールは第七魔法学部の教室が見える木々に到着し主人の動向を監視ではなく、ストーキングでもなくあくまで見守る。
主人の隣に座っている猫耳尻尾科を目撃する。
恐らく、彼女がお嬢様の言っていたミルクだろうとエクレールは注視する。
肩を並べて親しげにしている様子をみていると安心するのと同時に寂しさを覚えてしまう。
情報ギルドのマハから個人的に集めさせたミルクのデータに眼を通す。
平凡だけど目指してることは誠実で、もしも自分の故郷があんな事にならずに平和に暮らしていたら彼女と似たような感じで過ごせていたのだろうか?
考えてもエクレールには分からない、両親のことを考えると今でも悲しくてつらいけどシロエールがいる今も幸せだから。
気がつくと昼休みを告げる鐘が鳴り響いていた。
シロエールがミルクと学食に向かう中、エクレールは別方向へ足を進めていた。
彼女はシロエールが学食に行けないのを確信している。
何故ならあの人ゴミの中を、シロエールが耐えられるはずがないからだ。
エクレールの予想するのはミルクのアルバイト先、情報によると学園から少し距離がある為かあまり生徒がこないらしい。
『飯綱神威』(イヅナカムイ)によって、街を縦横無尽に駆けるエクレールは2人よりも先にお店に到着し中へと入っていく。
席も一番奥が見える場所に座り店員から受け取ったメニューを開く。
予想通り2人はお店にやってきて奥の席に座る。
シロエールが家族抜きで外食するのはエクレールの記憶じゃ多分初めてだろう。
少しメニューと睨めっこしながらも問題なく過ごせているのを見ると少し安心する。
エクレールもふと思い出す、外食なんてものは出店なら何度かあるがお店で食事なんて初めてだ。
複雑な気分に陥っていると視線を感じてその方向をみるとミルクがエクレールを見ていた。
(眼鏡にマスクで完璧な変装をしているはずなのに気づかれた?)
エクレールはミルクを見るのは今日がはじめてであり、彼女も自分のことを見たことが無いだろうと考えていた。
しかし、エクレールもエクレールで有名人なのだ。
ミルクからすれば同い年には全く見えない綺麗なメイドさんとして話題に挙がる人物だ。
彼女がこうして自分達のことを見ているという事は監視つきの勉強会になるんだなと思うとミルクは緊張してきた。
「どうかしましたか?」
「え、ううんっなんでもないよー」
シロエールは気づいているのだろうか?エクレールの存在について聞いていいのだろうかと悩んでいる最中、料理が運ばれる。
「いただきますなのです」
「いただきまーす」
麺をくるくると巻いて口に入れる、何時も慣れ親しんだ味だけどやっぱり美味しい。
シロエールさんをみると自分と麺を巻く量が2倍くらい少ない。
少量の麺を小さな口で食べてるのを見ると育ちの差を感じてちょっと恥ずかしくなった。
「シロエールさんってやっぱりお嬢様って感じだねー」
「そうでしょうか?」
チクチクとミルクに視線が突き刺さる。
チラッと視線を向けると、エクレールがジッと此方を睨みつけており若干の敵意もある気がする。
ミルクはふと、狼王と獅子王縁の地方だと猫と犬の対立心が強いと昔祖母から聞いた事があるのを思い出した。
エクレールの出身地がそうなのかもしれないと考えると少しだけ彼女の態度に納得できた。
「ミルクさんほっぺにソースがついてるのです」
「へっ」
シロエールはごしごしとナプキンでミルクの頬を拭いていく。
綺麗になった顔をみて微笑むシロエールにミルクは少し顔を赤くした。
(うう、食い意地がはってるみたいで恥ずかしい)
「シロエールさんって何時もどんなの食べてるの?」
「そうですね……、アーレスからアルテミス、クロノスの料理まで大抵エクレールが作れる料理は何でもです」
お店の料理を軽く手伝うくらいなら私にも出来るけど伯爵、挙句に公爵やお姫様の食事を私と同い年で作るエクレールさんは完璧メイドなのだろうかとミルクにそう思わせる。
「やっぱりお屋敷のメイドさんも一種の才能がある人じゃないとなれないのかなー」
シロエールさんはきょとんとした顔でミルクを見ていた。
少し苦笑してから笑顔でミルクにシロエールは語る。
「違いますよ、エクレールは朝から晩まで努力して、誰よりも頑張り屋さんだったからです」
「それってシロエールさんより?」
「ええ、私の知っている中で誰よりもです」
(向こうでそのエクレールさんが尻尾を凄い振ってるよシロエールさん)
シロエールのエクレールについて話をする時、自慢のメイドですよと言っているのが何となくわかる。
エクレールを外見的にお姉さんっぽく見ていたミルクはシロエールに褒められて喜ぶ子供っぽい様子を見て、少し親しみを覚えていった。
食事を食べ終え、片付けられたテーブルにシロエールは特に気にしてない素振りで教科書とノートを広げ、ペンを走らせる。
店長にも許可を貰ってここで試験勉強を始める。
時折ドリンクのサービスを店長がしてくれて小休憩を挟みながら夕暮れまで二人は勉強を続けた。
無論、エクレールも居座り続けているのだが。
夕暮れ時、夕日が窓を照らし紅く染まっていく。
「もうこんな時間なのですね」
「夕食も食べていく?」
鞄に荷物を纏めているシロエールにミルクが提案する。
少しだけ考えた後、シロエールは微笑みながら首を横にふった。
「ごめんなさい、エクレールがきっと食事を作って皆、待っててくれてると思いますので」
「そっか、じゃあまた明日ね、シロエールさん」
シロエールは店長にも挨拶をしてからお店を出ると、ガラス越しにも既にその姿は映っていなかった。
おそらく、店の扉で鍵魔法を使ったのだろうとミルクは扉の先を見つめながら思う。
「あら、振られちゃったの?」
「違いますって」
ミルクは店員に茶化されながら未だに席に座っているエクレールの方へ向かう。
「エクレールさん、早く帰らないとシロエールさんのご飯遅くなっちゃいますよ?」
「な、なぜ私の事がわかったのですか」
エクレールの尻尾がぴんっと立ち驚きの様を表していた。
ミルクは苦笑しつつ対面の席に座る。
「エクレールさんも結構有名人だから、気をつけた方がいいよ?」
「変装していたのに……」
ぶつぶつと腑に落ちない感じで変装道具を仕舞っていくエクレール。
仕舞い終わると席を立ち、ミルクの事を避けるように出ようとする。
「あのっ、私の事エクレールさんはどう思っています?」
「私……猫は嫌いです」
ミルクの方を向かず扉に手をかけるエクレール。
エクレールが猫嫌いと分かったミルクはちょっと残念そうに彼女の背中を見送る。
そして扉を開けた時、エクレールはミルクの方を向いた。
「ですが、見た分には貴女の事はそこまで嫌いではないです」
「え、あ、う、うんっ、ありがとうエクレールさん」
パタンと扉がしまる、お店に残ったミルクは笑っていた。
シロエール達の夕食後、エクレールの部屋にシロエールが入る。
彼女の少し不機嫌混じりのその表情からエクレールの尻尾はヘタリと垂れている。
「エクレール、貴女私の事、監視していましたよね?」
「えっと、その……申し訳ございません」
エクレールはミルクが気付いていたからもしかしてと思っていたが、その予想は当たり今現在彼女の前で正座する形となっている。
「私の事信用していないです?」
「そ、そんな事ありません」
彼女の声に少し重みがあり、怒っていると肌に伝わって、ビクビクと体躯に似合わない小動物のように震えるエクレール。
「た、ただ……お嬢様が沢山の人と仲良くなって私の事いらなくなったらって」
「何時も言っていますが私の専属メイドは今後もあなただけと言っているのです」
「で、でも……」
もじもじと涙目で此方を見つめるエクレール。
奴隷で拾われた身という事で彼女は自分に何時も自信がなく、ネガティヴに陥りやすかった。
エクレールの態度に少しシロエールの眼は少しだけ怖かった。
「私の言う事が理解できないのです?」
「そ、そんな事は……」
「なら、私が貴女だけが私のメイドだと言ってるんだから安心するのです」
ぐいっと、シロエールはエクレールのあごに手を沿え此方を向けさせる。
じっと見つめられ、何時もとは逆の見上げての視点からのシロエールの顔にエクレールは指をもじもじさせ頬を赤らめる。
「言葉以外に何がほしいのです?」
「えっと、何とおっしゃられましても」
エクレールの視線が一瞬だけシロエールの唇に向かう。
シロエールの脳裏に、ヒュッケとの件で可也ご立腹の二人の姿を思い出す。
彼女の頬に手を沿え、耳がふわっと少し浮かぶのを見ながらシロエールは唇を奪う。
「んんっ!」
エクレールは身体を強張らせ固まりながらもシロエールのキスを受け入れ次第に脱力していく。
ヒュッケの時のように舌を絡まらせ、唾液が混じりあい、甘い吐息と声が漏れだす。
シロエールが唇を離すと舌同士でトロリと糸を引き、エクレールは頬を真っ赤に染めた恍惚感で一杯の表情でシロエールを見つめている。
「これで少しはずっと私のメイドだと自覚しましたか?」
「ふぁ…い」
シロエールが頬を撫でるとスリスリと甘えるエクレールは今日はベッドでぎゅっと彼女を抱きしめ続けたのだった。
夏に入りだしたこの時期、シロエールは若干暑苦しさを感じていた。




