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賢英帝 劉禅  作者: 三国 志浪
14/21

解放

 それから二日が経った。対陣してから5日目である。そろそろ水を求めて敵がやってくるだろうと司馬懿は予想した。彼は、軍議を開いて、今日の夜に水に困った敵軍が下山してくるだろう。下りてくるところではなく、敵が水を汲んでいるところを攻撃せよという命令を出した。しかし、その夜蜀軍は来なかった。また、次の日も来ない。さすがに司馬懿はおかしいと考え出した。対陣して7日目である。そろそろ水に困っても良い筈だ。例え水に困っていなくても、大々的に攻撃を仕掛けてこないと山上に陣をとった意味が無い。そう考えて彼は愕然とした。挟撃の策か?もしも漢中方面から敵の一軍が来たら、前後に挟まれることになる。漢中方面は、歴戦の名将、張郃をはじめ、彼の息子である司馬師、司馬昭に守らせてあるので滅多なことでは破られることは無いと思うが、何か気持ち悪いものを感じる。8日目の朝、ついに司馬懿は全軍出撃の命令を出した。そして、いざ出発と思った矢先に味方の早馬が現れて、漢中方面から蜀の大軍が現れたことが伝えられた。すぐに次の早馬が来る。漢中の蜀軍には劉禅の旗とさらに丞相旗も立っていると伝えた。「なんじゃと?」彼は思わず叫んだ。本当であれば、皇帝の親征である。親征とは国の威信を賭けての全力の行軍、総力戦である。

「それは本当か?実際に見たのか?」

彼は何度も確認した。次の早馬が来る。

「張郃将軍、敵将魏延に討たれ戦死、その他の将軍は不明、お味方壊滅」

「なに・・・」

戦国の時代には珍しく司馬懿は家族を一番に考える男である。今、息子達が行方不明であるという情報を聞き、司馬懿はどうやったら息子達を救えるかを考え始めた。家族の安寧つまり中華の民さえ幸せであれば、魏が勝とうが負けようが、どこの誰が天下を統一しようが、全然構わなかった。この間、孔明の策により降級された時も家族の暮らしさえ十分であれば全然気にしなかった。(とりあえず行ってみるか)司馬懿は、劉禅の軍の方に、行軍を命じた。

 

山上の見張りの兵士が、馬謖の元に走ってきて、魏が移動すると連絡してきた。驚いて見に行くと、なるほど魏軍は漢中方面に向かって移動していく。しかもかなり急いでいるようだ。

「どうしたことだ?」

馬謖は驚いた。早速、趙兄弟も駆けつける。

「馬謖将軍、これは?」

「私にも分かりませんが、援軍が来たのでしょうか?それしか考えられません」

「援軍?」

「陛下がお二人を助けに見えたのだと思います。しかし、魏の後方は万全の構えのはず・・・、しかし、あの慌て振りは・・・?」

「追撃しますか?」

馬謖はちょっと考えてから、

「止めておきましょう。100人ではほとんど何の損傷も与えられない。悪くするとこちらに死人が出るかもしれない」

「しかし、何か功を上げて陛下にお許しを願わないと将軍の命が・・・」

馬謖は大きく頭を振って、

「いいえ、私の為にあなた達を危険にさらすことはできない。元々は、自分だけではなく何万という兵士を死に追いやる罪を負うはずだった。それが無くなっただけでも感謝しています。軍令違反の罪は大きい。私の死は当然です」

ここまで、強い口調で言う馬謖だったが、急にやわらかい表情になり

「せっかく敵が空けてくれたのです。この死地から皆で逃げ出しましょう」

そういうと全員で山を下りた。すると馬謖は天水に行くので、趙兄弟に100人を率いて本軍と合流して欲しいと言い出した。

(逃げるのか?)

趙統は思ったが、(それも良い。この人が蜀の害になることは絶対に無い)と思い直し、100名を連れて本軍を目指した。その時馬謖は、敵の後ろにはこちらの追撃を警戒して強力な軍を配置しているので決して近づいてはいけない。また、余り離れすぎると敵を安心させてしまい行軍速度が上がり、味方の有利にならないので付かず離れずの状態を保つように助言してくれた。趙兄弟はそれに従った。そのため、魏軍は後方を気にしなくてはならないため、仕方なく司馬懿と騎馬隊のみが大急ぎで漢中に進むことになった。その数たったの300騎、息子達が心配で司馬懿は必死で走った。すると前方に大軍が見えてくる。敵か味方か?その先頭を一騎で走ってくる騎馬がある。司馬懿は全軍に停止を命じるとその一騎を良く観察した。それは彼の次男司馬昭であった。ここを動くなと厳命を出し、自らは昭の下に駆けてゆく。

「父上」

一声叫ぶと、昭は馬から飛び降りそこに平伏した。司馬懿は息子の肩に手をやり、彼の長男司馬師の行方を聞いた。

「兄上は敵に捕らわれました」

「なに」

司馬懿の目の前は真っ暗になった。昭の話によると、少数の蜀軍がたびたび現れ、張郃将軍がそれを蹴散らした。戦えば必ず勝つ。その中には、蜀の魏延や張翼、馬岱など有力な将軍が率いている軍もあった。張郃将軍は得意満々であった。そして昨日の夕方、また敵が現れ、張郃将軍が蹴散らしに行くといつのまにか蜀軍にぐるっと周りを囲まれており、しかもその主力には、皇帝旗と丞相旗が立っている。慌てた魏軍は、包囲の薄いほうから突破を試みたが、そこには罠が仕掛けてあり突破できない。引き返そうとした張郃将軍は、不意をつかれ、魏延に討たれ、司馬兄弟も敵に捕らえられたということだった。そして今、昭は兄者を人質に捕られ、司馬懿が蜀に降伏するように説得して来いと使わされたということである。

「むむっ」

司馬懿は、低くうなって唇を噛んだ。すべて孔明の策だ。はじめに蹴散らされた蜀軍は、わざと負けて見つからないように潜伏していた。これを繰り返すのは、魏軍を油断させる効果も狙ったと思われる。

(わしならば、そんな手には引っかからない)と司馬懿は思った。しかし、魏に司馬懿は二人いなく、蜀に孔明は二人いない。どうするか?司馬懿は考えに考えた。時間は余り無い。

昭が司馬懿に孔明から預かったと書簡を渡した。

「なるほど」

司馬懿は、深く溜息を吐いた後しばらく遠くを見ていた。やがて二人は魏の陣営に引き返していった。

次回は「望まない再会」です。楽しみにしていてくれたら嬉しいです。

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