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賢英帝 劉禅  作者: 三国 志浪
12/21

ブックマークや評価が増えてきてとてもありがたいです。引き続きよろしくお願い致します。

翌朝、誰かの動く音がして趙統は目覚めた。複数ではない。独りである。じっとして様子を伺う。外の者は、気配を殺してここから遠ざかろうとする。幕舎の隙間から外を伺いみると、馬謖であった。外はまだ薄暗い。

(逃げ出すのか?)

相手に気付かれないよう注意して、後を追う。趙広も十分な距離をおいて着いて来た。30分も歩くと、空は明るくなってきた。馬謖は切り立った崖から下を見下ろして何か考えている。

(どうやら逃げるわけではないらしい)

趙統は少し考え、驚かせないように注意しながら声を掛けた。

「あの~馬謖将軍、どうされましたか?」

「いやー起こしてしまいましたか」

朝の挨拶をする。こんなときでも礼儀正しい。

「こちらの兵は100名、魏軍はどう軽く見積もっても5万はくだりますまい。情けないことに眠れません。ならば策でも考えようかとこうして地形を見にきた訳であります。そしてお二人は、私を見張りに来た?」

(うっ、鋭い)図星であるから、言葉に詰まる。

「どこに行かれるのか、心配になって」と苦しい言い訳をする。

馬謖は、ふっと微笑むと

「大丈夫です。昨日も申した通り、あなた達を陛下の所にお帰しするまでは私は死にません。ご心配なさらずに」

馬謖と趙統の目が合う。馬謖の目は昨日と違い血走りらんらんと妖しい光をたたえていた。しかし、その口調は柔らかい。何か吹っ切れたような印象を受ける。

「それよりも、魏軍は今日の昼ごろに到着するでしょう。まずは、ここを包囲して水を絶つでしょうね。ここにきて、自分の考えが如何に馬鹿げていたかを痛感しています。2万なら2万、5万なら5万、登らせれば登らせただけ水不足で死ぬでしょう。陛下の慧眼・・・」言いかけて馬謖は、頭を振る。

「いやいや、私以外は皆それに気付いていたのでしょうから、自分の愚かさを呪うしかありません。だが幸い、ここには100名しか居ない。100名なら、切り詰めれば3ヶ月は水に困ることは無いでしょう。ただ、ここにいる兵が少数であると看破されては、一気に攻められ、抵抗する暇も無く全滅させられてしまう。ここは如何にたくさんの兵が居るように見せかけられるかが重要になるところ、お二人にお願いした旗の配置、お見事であった。あれで当分は誤魔化せよう。しかし、ばれるのは時間の問題」

ここで言葉を切ると辺りを見回す。

「例えばあそこ」細い竹が大量に生えている一箇所を指差して、「あそこに大量の弓矢の罠を仕掛ける。竹に弓を張って、一人の兵が綱を切ると一気に50の連矢が飛び出す仕組みを仕掛ける」

次に、遠くを指差す。「あそこは、落とし穴を作るのにむいている」とそれから次から次へと指を差し、そこには何をという風に呟いていく。趙兄弟は、聞きながらどれもこれも効果がありそうなものばかりであったので、その観察眼に舌を巻いた。一通り呟きつくすと早速、兵に連絡して設置を命じた。しかし、その量に対して人手が足りない。作業は午前中では終わらなかったが、魏軍はまだ到着しないので、引き続き作業を続けた。作業は、午後2時30分に終了した。魏軍が到着したのが午後3時である。間一髪のところで間に合った。魏軍が、馬謖の予想よりも遅く到着したのには理由がある。魏軍総帥の司馬懿は非常に慎重な用兵を使う。彼の予想では、街亭にはまだ蜀の兵は来ておらず、魏軍が先にこの要所を押さえ、敵に圧力をかけ有利に戦を運ぼうと考えていた。しかし、孔明の神算はこの地を見逃さず、蜀の大兵がもうすでに街亭の山頂に布陣しているという斥候からの連絡を受け、非常に驚いたのである。実際に現地を遠くから眺めてみると確かに蜀の大軍が街亭の山頂に布陣している。しかし、彼はその布陣を見て大いに笑った。

「あそこに布陣している敵の大将は誰か?」

「馬謖という若い大将です」

「その馬謖という者は、大馬鹿者だ。水を絶たれたらどうする気なのだろう。早速取り囲んで水を奪ってしまえ。いや、待て待て」

慎重な彼はこれも孔明の策ではないかと疑った。

「敵の策かもしれん。斥候を各方面に放って奇策が無いことを確認してから包囲する」

ということで、しっかり確認をして、奇策が無いことを確認すると、司馬懿は喜色満面で自ら先頭にたち蜀軍を包囲し始めた。そのため馬謖の予想よりも3時間遅れて到着したのである。この遅れは、司馬懿にとっては痛恨、馬謖にとっては天佑であった。

次回は「囮」です。楽しみにしていてくれたら嬉しいです。では!

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