決断
物語も終盤です。お付き合いください。よろしくお願いします。
しばらく劉禅は烈火のごとく怒っていたが、ひとしきり罵倒しつくすとやがて後悔し始めた。
「怒りに任せて趙兄弟を置いてきてしまったが、死んでしまいはせぬかのぅ~」
「さあ、わかりませぬ」
「滄海、気のない返事だのぅ。おまえの師匠の息子だぞ。もうちょっと心配せえ」
滄海が叱られる。完全にとばっちりである。あ~どうしよう。あ~どうしよう。劉禅は右往左往するばかりである。挙句の果てには、戻ろうかなどと言い始めたので滄海は慌てて
「今戻れば魏の大軍に突っ込んでいくようなものですぞ。おやめください。ここは丞相孔明様にご相談されたら如何でしょうか」
「う~ん。でも・・・」
煮え切らない。あれだけ反対されたのに、騙して勝手に来てしまったのでばつが悪いのだろう。
「こうしている間に死にますよ」
劉禅は、滄海のことを恨みがましい顔で睨みつけたが、滄海は顔を背けていた。
「はぁ~、仕方がない。丞相に頼むか」
情けない声を上げて、決断した。そこからは大急ぎである。何せ人の命がかかっている。二人は夜通し騎馬で駆け続け、何と2日で孔明の下へたどり着いた。
「相父、助けてくれ」と多少大げさに泣きついた。孔明は最初、成都で何かあったのかと思い顔を青くしたが、馬謖の話を聞くと顔を真っ赤にして怒った。
(なるほど、朕もこんな感じだったのだろうな)心の中で劉禅は思った。孔明は、しばらく荒れていたがやがて落ち着きを取り戻すと、
「事情は分かりました。しかし、すでに手遅れでしょう。敵将はあの司馬仲達、今から速やかに行軍しても、水を絶たれ弱った兵が殲滅されるところに間に合うかどうか・・・」
「いや、水は足りておる」
「陛下、なんとおっしゃいました?」
「いや、水はたくさん汲んでおったようであるから、100人では豊富にあるはずじゃ」
「100人?」
ここで劉禅は言いにくそうに
「朕が怒りに任せて、100人で登るように命じた」
孔明が俯き加減で考え始めた。そして、「あるいは・・・」と呟いた。
「いや朕も・・・」
と言い訳を始める劉禅を孔明は遮って、
「5時間後に出発致します。それまでお休みになってください」
拝礼すると、急いで軍議を開きに行った。滄海には余裕があるようだが、劉禅はもう限界であった。用意された寝室で泥のように眠る。
5時間後、劉禅は滄海に起こされた。まだ眠いと寝具に潜り込む劉禅に滄海は
「今頃、趙兄弟は戦っているかな?まだ生きてりゃいいが」とわざとらしく呟く。劉禅は飛び起きた。
「お目覚めか。孔明様からです。これに着替えてください」そこには、皇帝の正装が置いてあった。その煌びやかな服にしぶしぶ着替え出ていくと、すでに全軍揃って出発の合図を待っていた。孔明が、劉禅に出発の合図を促す。
「出発」
劉禅が言うとそれだけで大歓声が上がる。行軍を開始した。そのスピードがどんどん上がる。
(これなら間に合うかもしれない)劉禅の顔は希望に満ちてきた。
次回は「素の馬謖」です。楽しみにしていてくれたら嬉しいです。では!




