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【コミックス第1巻発売中!】女キャラで異世界転移してチートっぽいけど雑魚キャラなので目立たず平和な庶民を目指します!  作者: TA☆KA
第一章:アムカムの村

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28話 アムカムの夏休み その2

百合風味がございます。苦手な方はご注意くださいませ。

 で、夏休みの午後なんだけど、大体お昼の片付けを済ませた頃にやって来るミアに拉致られる。


 晴れている日は当然の様に外を連れ回されるが、雨の日でもわたしの部屋で一緒に過ごすので本当に会って居ない日が無い。


 ウチのソニアママもハワードパパも、わたしが村の子達と仲良くするのが本当に嬉しいらしくて、いつもミアの事をとても歓迎してくれる。


 そんな夏休みの前半は、ミアに連れ回されながらもカーラ達お姉さま方に更に拉致られる事が多かった。


 あの人達わたしとミアが何処に行くか把握してるんじゃないかな?大体行く先で捕まるのよね!



 村の中を案内してくれる時は決まってビビが一緒だ。


 行く先々で村の人達への挨拶や施設の説明とか、本当にちゃんとしていてとても頼りになる。多分わたしはこの子の事を一番信頼している。


 因みにミアはわたしにとって一番の癒しポイントだ。


 軽くパニくりがあってもこの子が居ればすぐ落ち着く。特に胸部とか胸とか堕肉とか…わたしの中のオサンが愉悦に浸って行くのですよっ!



 カーラ達に拉致られた最初の頃は、そのまま誰かの自宅へ連れて行かれてた。


 そして始まる着せ替えゴッコ。


 初めは服を脱がされて下着だけにさせられると、とても恥ずかしくって涙目で縮こまってしまってた。

 まぁそんな時でもミアの胸部があれば直ぐに立ち直るんですけどね!



 やっぱりココに来て、わたしの中の羞恥心とか娘心的なモノは大きくなっている気がする。

 男だったなら恥ずかしかったとしても涙目になって縮こまるとか、ありえなかったんだけどね。


 結局服を剥ぎ取られた後は、三人が持ち寄った衣装に次々と着せ替えられるんですよね。


 普通に可愛らしい物からボーイッシュな物、お茶らけた物やファンキーな物まで。

 お姉さま方はキャッキャと喜んだり大ウケしたり。これスマホとかあったら絶対パシャパシャ撮りまくってるよね!


 特にアリシア!この人こう云うのが好きなのか何処から持って来たの?って言いたくなる様なの物をやたら用意してくる。


 ゴスロリっぽいのはまだ良い。

 レザーでベルトが沢山着いたパンクっぽいのも厨二臭いけど格好いいから良いよ?!

 でも同じレザーでも、このあちこち引き千切ぎられて大事な所まで見えそうになってるボンデージなのか世紀末覇者なのか分んない衣装は何処から用意したの!?


 でも、一つ分った事がある。

 おっきなリボン付けられて、幾重にも重なって大きく膨らんだティアードスカート。

 今まで着た中で一番フリルが大きくて沢山着いた衣装。


 そう、お話に出てくるお姫様か宝塚か!?みたいな恰好にさせられた時。

 自分でも分るくらい、テンションがダダ上がりになってしまったのだ!


 あぁ、わたしってばこういうのが好きなんだ! という事を自覚した。


 思わず鏡に映った自分を色んな角度から何度も見直してた。

 クルクルと回ると薄桜の生地のスカートが光を反射して、綺麗なローズピンクの光をヒラヒラと撒き散らしながら広がるのが楽しくって、何度も鏡の前で回っては一人ポーズを取っていたら……。


 いつの間にかお姉様方が悶死しそうな様相でのた打ち回ってた。

 ミアが赤い顔してハァハァしながら何度もわたしの名前を呼んでいたのはちょっと怖かったけど…その日は一緒に来たビビまで顔を赤らめプルプルしてた。


 ハタッと我に返りむっちゃクチャ恥ずかしくなって、その日はジェシカの家だったから、彼女のベッドへ うにゃぁぁぁぁ!! と叫びながら潜り込んでしまった。


 その後直ぐにベッドから無理クリ引き摺り出され、お姉様方とミアに思い切り滅茶苦茶捏ね繰り回される事になる。


 色んな柔らかい肉の弾力に挟まれ回されて目玉グルグルになってますが、こんなん状態のわたしの身体の様々な場所を…、それはもう大変なトコロも含む!を触りまくってる手!ミアの手でしょ?!最近気づいたんだからね!もう!!

 ……まぁわたしも堕肉を揉みしだき捲くってるから文句は言えないのだけれどね…。


 そんな姦しい日々を過ごし、夏休みの前半は過ぎて行ったのだ。






 夏休みも後半、4の紅月になるとカーラ達は進学の準備が色々あるので、それまで程頻繁には会えなくなった。


 それでも月の上旬にはみんなで海水浴にも行ったし、時間が合う時は立ち合いもやったし狩りもした。


 そんな月も半ばを過ぎた頃、多分これで最後だから、村の北西にある高台へ皆でピクニックへ行きたいとカーラが言い出した。


 そこは湧水も出ていてちょっとした湖があり、湖畔には今の時期色とりどりな花が咲き誇って一面花畑になっている筈だ。村も一望できるので最後に皆で行きたいというカーラの希望なのだ。


 わたしも初めての場所なので是非行ってみたい!とカーラの提案に乗っかった。

 当然の様にミアもダーナとコリンも。しょうがないわね!とビビも。


 結局やっぱり女子8人全員参加になったので当日は神殿もお暇させて貰い、9時ごろにわたしの家に集合して皆で出発する事になった。



 距離はウチからおよそ5キロ、標高差は200メートルくらいなのかな?

 それをのんびり歩いて行って、湖畔のお花畑を見ながらお昼にするのだ。


 何だかスタートからワックワクしちゃって、最初から興奮気味だ。


「そう言えば、みんな揃って、ピクニックって、はじめて?・・・なの!」

「そうだよ、スーとこうしてピクニックするのは最初で最後なんだよね」


 カーラがちょっとしんみりする様な事を言い出す。


「最後じゃない!もの!また・・・するもの!」


 わたしがそんな事言わないで欲しいと否定すると。


「も~~~!スーの可愛さが止まんないーー!」


 とアリシアが抱き付いて来る。


「ふみゅぎゅ」

「あーーっ!一人で抱き着くの禁止~~!」


 とジェシカにも後ろから腰回りに手を回され抱き付かれた。


「ぁひゃン!ジェ、ジェシカ!くしゅぐった・・・い!」


 そんないつもと変わらぬ安定の愛玩動物的扱いで、皆ではしゃぎながらハイキングの道中を楽しんで行った。



 今日の帽子は大きめのストローハットだ。


 頭周りを太く巻き、側頭部で大きなバラの様に編み広げられたリボンが陽の光で白く眩しい。

 今日も髪型はすっかりお気に入りに登録されたピッグテール。


 ノースリーブで勿忘草色のワンピースはフリルの白さと相まってとても涼しげだ。

 生地も軽くスカートの丈は膝上なので、下から上がって来る高台での風には注意が必要なのだ。


 一度強い風が吹き上げて来た時は危なかった!

 飛ばされない様右手で帽子を押え、もう片方の手でスカートを押えたのだけれど、巻き上がる風で太腿まで捲れ上がり、危うく中の布地が晒される所だった!


 ちょっと前まで、スカート捲られパンツを見られても何とも思わなかったのに何を今更!と思われてしまうかもしれませんが…。

 えーと、何と言いますか、その……自分が『思春期の女子』であると自覚する様になってからですかね?

 どんどん恥じらい的な物も大きく育って来てるっぽいのですよ!

 まるで年相応な物に早く大きくなれ!と言わんばかりに急速にっ!


 な・の・で!!今のわたしはパンツは絶対死守なのです!

 スカートめくり!ダメ!ゼッタイ!!

 この物語は痴漢行為やセクハラを肯定増長するものではございませんっ!!



 登りの途中で、小さな滝と沢で水に足を浸して小休止を取った。

 沢の水は強い日差しで火照った体にはとても気持ち良くて、皆で並んで座ってバシャバシャと水を蹴り上げて遊んでしまう。


 蹴り上げた水が体にかかってくると、誰とはなしに始まる水のひっかけっこ!

 キャーキャーと黄色い声を響かせて、水辺で無数の水滴が宙に舞い踊る。


 ひとしきり遊んだ後、水辺を後にした。

 高台の湖はもう直ぐだそうだ。

 多少皆の服が濡れて色んなとこ透けているけど、この日差しの中を歩いていれば直ぐに乾いてしまう。



 広葉樹に挟まれ、長いスパンで丸太を使った階段が作られている山道を進んで行くと、ちょっと先に木々が途切れて空間が広がっているのが見えてきた。


「ね?あそこ?あの先に、湖ある・・・の?」


 と先を指差してカーラに聞いてみた。


「そう!あそこの先にあるよ。あそこまで行けば直ぐ湖が見えて来る!」

「やったーー!いそご!早く行こう!ミア!ビビ!早く!!」


 そう言って二人の手を掴んで引っ張って行く。


「あ!待ってよスーちゃん!あぶな!あびない!スーちゃん速い!速いよ~~!!」

「待ちなさいってば!スー!アンタ速いんだから!速い!速いから!待ちなさいーー!!」


 と制止を求める二人の手を持ち、半ば強引に引き摺って山道を登って行く。

 大丈夫よ?ちゃんと転ばない様にバランス見てるもの!フフン♪



 樹木の切れ目が見えた辺りから感じている。ここまで香りが漂って来ているんだもの!


 木々の間を抜け、開けた空間へ出ると思わず目の前の光景に息を飲んでしまった。

 一面に広がる黄色い花々は揺れそよぎ、まるで水面の様に大きく波打ちうねっている。

 思わずその只中に飛び込むと、むせ返る様な花々の香りに全身が包まれた。


 辺りを埋めている黄色い花は、草丈がわたしの腰の上まである。

 中には顔の近くにまで伸びている物も!

 一つ一つの花は小さくて、一本の茎の先にブドウの房を逆さにした様な感じで沢山の花をつけていた。

 群生の中へ入り込むと、黄色の波間の只中に居るみたいになる!


 そのもの…こんじきののにおりたつべし 的な絵面だと思うんですよ!!

 あ!着てる物も薄目だけど青系だ!


 思わず両手を広げて黄色い群生の中を走り回ってしまった!

 なんか楽しくなって、いつの間にか口元から笑い声も漏れちゃってた。


 ひとしきり走り回ってから皆の元へ戻ったら、またお姉様方が悶死しそうな顔してた。

 あれ?ダーナも?ミアは…あ、これは平常運転よね、最近判ったわ。ウン。


 で、1人近づいて来たコリンが。


「これは『黄金の杖』と呼ばれている花なの、消炎作用があるから傷薬として使えるし煎じて煮詰めれば風邪薬にもなるの。だから乾燥させたハーブティーは香りも良いけど風邪予防にもなるのよ。あとでお土産に摘んで行きましょうね」


 ニコリと微笑みながらこの花について教えてくれた。

 さすが物知りな優等生コリン!いつでも沈着冷静に周りを見て状況分析出来る人って頼りになるよね!

 でもあれ?ちょっとミカン目がいつもより垂れ気味?

 メガネ少しずり落ちてるよ?口元も何か我慢するみたいにモゴッモゴッっとするし…ん?


 そういえば、もう一人のいつも冷静な筈のビビはどうした?と目で探すとミアの横に居た。

 目が合うとプイっと明後日の方を向いてしまったゾ!何故!?顔が赤かった気がしたけど…何で目を逸らすのよベア子!?解せん!!


「あぁ、今日のスーも安定の天使ぶりだわ……でも飛ばし過ぎよ!はぅぅ!」


 とアリシアの呟きが聞こえて来た気がする。



 『黄金の杖』の群生している先には水面が広がっていた。

 前に見た高原湖と比べると随分小さい。

 でもホジスンの池よりは大きく水の透明感がとにかく凄い。

 水の色がエメラルドグリーンで、まるで宝石が湖底に敷き詰められているみたいだ!


 湖の周りの緑地に、所々纏まって空に伸びている針葉樹。

 湖畔にはココに咲いている黄色い花以外にも、白や赤紫の色とりどりの花々が咲き乱れていた。


 水面には幾種類もの水鳥が漂っている。

 時折水面から跳ね上がる魚が居るのでそれを狙っているのかな?

 湖畔に立ちそんな湖の様子を眺めていると心地よい風が吹き抜けて行く。

 湖面で冷やされた風に優しく頬を撫でられ、スカートの裾もフワリと広がる。


 風の心地良さに身を任せていると後ろからカーラが来た。


「スー、こっち来てご覧。ココで一番の見所だよ」


 カーラに手を引かれて行くと村方面へ視界が広がる場所に出た。

 丸太で手すりが添えつけられている。

 手すりから先は樹木が殆ど無くて、緩い勾配が下へと向かっている。

 その斜面には所々に岩が突き出てるけど、殆ど一面を青紫の芝桜の様な小さな花で埋め尽くされてた。


 溜め息が漏れた。

 絨毯だ。青紫色の絨毯が敷き詰められて村まで広がっている。

 そんな風に見えた。


 帽子を取り、胸元で押え持って眼下の景観に見入ってしまう。

 ココからは村が一望できるんだ…。



 初めてアムカムに来た日に見て感動した麦畑も、今は綺麗に狩り取られ枯色の縞模様が広がり、所々に麦わらロールが転がっているのが見える。


 左手の方、ココから見ると東になるのかな?小さいけれど我が家が見える。

 チラチラと白い物が見えるのは今朝はエルローズさんを手伝えなかった洗濯したシーツだろう。

 帰ったらわたしが取り込むから待っててね。


 その右手には白い建物の神殿だ。


 アムカムの村役場も良く分る。

 さすが元アムカム辺境伯居城!ココからでもその荘厳さが見て取れる。

 スレート葺きの屋根が黒く輝いているのが良く分る。



 もっとずっと東には、ここからは見えないけど先月皆で行った海があるのだろう。


 北にはアムカムの森が広がり、その先にはデイパーラ山脈が聳えている筈・だ・が……わたしには何も見えない!

 主に自分の精神衛生上の問題で!!



「どう?いいロケーションでしょ?ワタシ、村を離れる前に皆と一緒に此処へ来たかったんだ」

「うん!凄いよカーラ!わたしも、皆と来れて、良かった!」

「ありがとうスー。お別れしてもワタシ達の事忘れないでね。忘れちゃ嫌だよ?」


 カーラの握っている手に力が入るのが分る。


「忘れない!忘れるワケ無い・・・モン!お別れなんて・・・いうの・・・やだ!」


 涙腺が緩む様な事を言い出すカーラの手を、両手で握り返し叫んでしまった。



 すると今度は別の手が後ろから肩を抱き、耳元で


「ありがとう、ボクも決して忘れないよ。可愛いボクのベイビィ」


 わたしの総毛が逆立つのとカーラのコークスクリューが減り込むのは、ほゞ同時だった。


 プギュルッ と何かが潰れる様な音を出して『ソレ』は後方へ飛ばされて行った。


「アンタ!!どっから…どうやって湧いたぁっ?!!」


 構えを取り、鋭い目つきで『ソレ』に問いかけるカーラ。

 完全に戦闘態勢に入ってる。



 ソレは何事も無かった様に涼しげに、綺麗なプラチナブロンドの髪をかき上げ。


「およしよ、愛し合う僕達に距離や場所など関係ない。何処から?なんて意味が無い質問だろ?」


 フッと目を伏せながらイミフな事語ってるけど、鼻血がダラダラピュッピュと出てますよ?


 騒ぎを聞きつけ皆が集まって来た。


「ヴィクター!?どうしてここに!?」

「どう云う事!?何故アナタが此処に居るの?!」


 ヴィクターは、アリシアとジェシカの問いに答える様に…。


「愛する人に逢いに行くのに理由などいらないよ?逢えない時間が愛を育てるのだからね。リルガール」


 どっかで聞いた事あるセリフな気がするが…、そんな台詞をダーナの後ろから返してきた。


 ダーナの背中に密着し左手でダーナの左手首をそっと持ち、右手を這わせる様に後ろから腰に回し…、そのままダーナの右肩に顎を乗せながら、耳にフッと息を吹きかけた。


「みぃぎゃやあぁぁぁぁっっーーーー!!」


 あ、ダーナも総毛立ったのが良く分った。


 直後、ダーナは何処からか取り出した棒状の物を勢い良く振り下ろす。

 それは折り畳み式の警棒の様に ジャココンッ!とスライドして伸び、短槍になった!


 ダーナはその短槍を素早く回し、ヴィクターの脇腹へ振り抜き叩き込んだ。


 メキョバキッ!!


 と何かが砕けたり折れたりする音を響かせ、ヴィクターの身体が『くの字』に曲がり吹き飛ばされて行く。

 そのまま先にあったブッシュに飛び込み、その先に在った大木が何かが当った様な音を響かせ、大きく揺れた。


「皆気を引き締めて!アレはこの位じゃ終わらない!」


 ジェシカが皆に声をかけ指示を飛ばす。


「ダーナ!アレが飛んで行った北側をそのまま警戒して!カーラ!カーラはその場所で南を!アリシア!貴女は西を!コリンはダーナを!ビビはアリシア!私はカーラに!それぞれ補助と警戒を!ミア!アンタはスーから離れるな!アレの狙いは間違いなくスーだ!!!」


 な、なんだか気合の入り方って言うか、緊張感とかチーム連携とかが、月頭に皆で森の浅層に狩りに行った時より集中度合上がってね?

 みなさん目が怖くてよ?



「なんなんだよ!イキナリこんなトコで湧くとか……、意味ワカンネェ!」


 ダーナが周囲を警戒しながら呟くと…。


「まぁ本当にたまたまなんだけどね。妹たちと暫しの別れの思い出作りに此処へ訪れたらマイハニー達が揃っているのだもの。これってもう運命だと思わないかい?ねェ?マイリルガール」


 ダーナの腰を抱き寄せながらヴィクターが語り出した。

 ダーナが驚いた顔で目を見開きヴィクターを見る。

 あぁ!今ヴィクターの手がダーナのお尻を撫でた!


「いぃやぁあああああぁぁぁぁああぁぁーーーーーーーーーーーー!!!!!!」


 わぁ!珍しくダーナの口から女子っぽい悲鳴が出た!!


 ダーナが涙目になって短槍を高速で振り抜くが、槍は虚しく空を切る。

 ヴィクターは既にそこには居ない。


「ボク達に必要なのは争う事じゃない。愛し合う事だ。そうは思わないかい?マイダーリン」


 ヴィクターを確認してダーナの元へ走るアリシアの腕を後から掴み、引き寄せ抱きながらヴィクターがどっかの愛の戦士たちみたいな事を呟く。


「アンタに必要なのは肉体言語による剛直且つ直接的な教育的指導よ!!!」


 アリシアがヴィクターの首に肘をかけそのまま右へ引き倒す。

 と同時に外側へ脚を払い、ヴィクターの身体をグルリと右方向へ回し倒す。


 しかしその身体が地に着く前に既にヴィクターの姿は無い。


 カーラが何かを察した様に、近くに立つ高い針葉樹の上へ幹や枝をクルクルと回る様にして登って行った。

 地上から15メートル程の枝に乗り、油断なく地上を見回してる。


「同じ言葉を語るなら、その愛らしい唇を合わせながら愛の言葉を語ろうよ。マイスイートハート」


 ヴィクターがカーラを後ろから抱き、カーラの唇に自分の口元を寄せながら更に寝言を語っていりゅ!


 カーラはスルリとヴィクターの腕から逃れ、その後ろに周り込み両腕を抱き付き拘束する。

 そしてそのままスープレックスをする様に、頭から地上へ向けて落下した!!


 あぁぁ!!そ、それは忍法I綱落とし!カーラ!その技はスカートでする物ではなくってよ!!!


「アンタは大地と唇合わせてなさい!!!」


 ヴィクターの頭が地上と接触する寸前、カーラはヴィクターから離脱し空中で何度か回転してから地上に着地した。


 それとほゞ同時にヴィクターの頭は地響きを響かせて大地にぶち当たる。


 しかし!地面に抉れた後を残したままその姿は何処にもない!

 ナニこの人!?この神出鬼没と不死身さ加減!ホントに人間!?


「口付けを交わすなら、この可憐な唇に愛の甘さを教えて上げるのが男子の務めだとは思わないかい?ボクのベイビィ」


 いつの間にかヴィクターが、わたしの左頬に右手を添えて顔を近づけながらそんな事を囁いて来た。


 あ…か、顔が…男の人の顔がこんな近くに、息が頬に当たる…なんで?なんで身体動かないの?

 ぁぁ…吐息が鼻に触れた…思考が…止まっちゃう……。


 メキョミキッバキキョッッ!!


 おかしな音を響かせ、ヴィクターの顔に綺麗な脚が回転しながら減り込んだ。

 そのまま彼の首も、捻られながら身体に潰れる様に埋まって行く。


 アリシアの錐揉みキックがヴィクターの顔面に炸裂し彼を吹き飛ばす!マジ卍キック!!


 ヴィクターから解放されて息を盛大に吐き出した。

 どうやら呼吸をする事を忘れていたらしい。

 胸の動悸が…、心臓が、物凄い速さで脈打っている。

 耳の奥に鼓動が響いているのが分る。


 思わず力が抜けて膝から崩れ落ちそうになった。


「ス、スーちゃん大丈夫?!スーちゃん!!」


 ミアに抱き留められた。

 ミアが心配げにわたしの顔を覗き込み、何度も名前を呼んでくる。


 何故わたしは彼の接近に気が付かなかったんだろう?普通に考えても行動意識を持っていれば察知できない筈は無いのに…。


 そう言えば…昔、後輩が言っていたっけ……。


『化け物みたいな師匠でも不意の一撃を貰らう事があるそうですよ。まぁ子供から、だそうですが。二歳の甥っ子の振り回していた玩具がスパコーン!と座っていた師匠の頭にヒットしたそうです。攻撃や行動する意識を持っている人ならともかく。純粋無垢で邪気の無い子供の一撃は師匠でも察知出来なかったそうです』


 もしそう云う事なら、彼の行動はやましい気持ちも邪気も何も無い、純粋無垢な行動と云う事になる…。


 ナニソレ?逆にコワイんですけどっ!


 欲望衝動無分別を純粋な本能と反射でやっているようなモノなの?

 ヤダ!ホントにキモコワイ!!

 思わず自分の肩を抱きブルリと震えてしまった。


「スーちゃんそんなに怖かったの?もう大丈夫よ?大丈夫だからね?」


 そう言ってミアが抱き締めて来た。

 嗚呼、この温もりと柔らかく包まれる堕肉の心地良さがわたしを落ち着かせる。

 今は何も考えず、この至福の脂肪を掻き抱き埋まろう。


「ス、スーちゃん…あの、あのね、唇…触れちゃった?…の?」


 思わずピクリと反応してミアを見上げてしまった。


「あ!ご、ごめんなさい!思い出しちゃったね?ごめんね!」

「ううん!違うの!触れてないから!されてないから大丈夫!なの!」

「ホント?!ホントに?…良かった、ホントに良かったぁ…、スーちゃんの初めて…大丈夫だったのね?良かったぁ」


 ミアがそう言ってわたしを抱き締めて来た。





 後ろでは怒りの闘気が吹き荒れているのを感じる。


 お姉様方だ。

 ミアと抱き合っているので直接は見えてないけど、闘気が物凄い勢いで吹出しているのが分る。


「ヴィーー・クぅーー・タぁーーーーぁっ!覚悟は…出来てるわよね!!?」

「今日と云う今日は、アタシも本気で潰すよ?…磨り潰すからね!!!」

「お!お尻まで撫でてきてっ!!その上スーにまで、あ、あ、あんな事をっ!!!」


「コリン、ビビ。二人はメアリーとシェリーを探して来て。きっとあのおバカは妹たちの事を放り出して来てる筈だから。あ、この後の事を見せたくないから成るべく遠回りして連れて来てね?」


ドッドンッ!ドドドンッッ!!!と凄い衝撃音が響き始めた。

 強烈な打撃音、破壊音が断続的に轟き渡る。



 わたしはミアを見つめながら考えてしまう。


 男だった記憶があるとはいえ、今は少女の身体で娘心も育っている。

 このまま成長して行けば何時かは男性を異性として意識して、そういった行為をする事になるのかもしれない。


 でも今はまだそれはキツイ!

 男を異性として受け入れるには時間が浅すぎだし、わたしにはハードルが高い。


 十分心の準備を整えてからじゃないと無理!

 そう思うのに、思ってたのに…それなのに男性の顔があんなに近くに来ただけで身体が強張るとか…、確かにヴィクターは顔だけ見るとドキリとするくらい美形なんだけど…。

 口元が近付くだけで、動悸が速くなってしまうのは肉体が勝手に反応しているからなのかな?


 もしかしてわたしってば迫られたら拒めない押しに弱いタイプ?

 自分が思ってるより早くそんな時が来ちゃう?

 文字通り心の準備なんて出来ないよ?!


 せめて、このミアみたいに柔らかそうな唇なら…こんな優しそうな口元がわたしの唇に触れてくれれば良いのに…、こんな…こんな綺麗な……。


「……スーちゃん?」


 ハッとした。

 わたしの視線に気付いたかな?物欲しそうな顔してたかな?

 居たたまれなくなってミアの胸に顔を埋め、恥ずかしさを隠そうとした。


「…ね、スーちゃん。お顔、見せて?」


 イヤイヤとミアの胸に顔を埋めながら首を振る。

 今、自分がどんな表情しているか判る。

 こんな顔ミアに見せられない!


「お願い、スーちゃん…見たいの」


 ミアの手がわたしの頬を包む様に広げられ、指先がわたしのうなじをサワリと撫で上げる。


「ひあぅン!んン!」


 あぁ!そんなトコロそんな触られ方したら…!

 ビクピクンっと身体が跳ね上がって顔が上ってしまった。

 そのままミアに頬を包まれ、顔をミアの方に向けられてしまう。


 息が上がってる…頬も染まって瞳が潤んでるのが分る。

 今、わたしきっと凄くはしたない顔をしてる。


「スーちゃん…あぁ、スーちゃん!こんな可愛い顔のスーちゃん初めて見た…」

「・・・やぁン」


 恥ずかしい!

 凄く恥ずかしくって顔を隠したいのに、ミアがわたしの顔を覗き込んでくる…。

 羞恥で更に頬が赤らみ胸の鼓動も大きくなる。

 きっとミアの胸にも、わたしの心臓の鼓動が伝わっている。


 膝から力が抜け崩れそうになり、ミアの背中に腕を回してしがみ付く。

 するとミアの顔がもっと近づいて来る…。

 このままだと…ダメだ、ミアの唇からもう目が離せない。

 自分の唇がわたしの意志とは関係なく、何かを期待する様に薄く開いて行く。


「スー…ちゃ……ンん」


 束の間、唇に触れる柔らかい感触。


 温かくって包まれるように吸い付いて来て、溶けてしまいそうになる。


 でも、それはほんの一瞬で、直ぐにその感触は失われてしまう。


 もっと…もっとそのままで居たいのに……。


「・・・ぁ」


 唇から離れるモノが名残惜しくて、切ない声が漏れてしまう。


 今わたしの目は、とても物欲しそうに離れて行くミアの唇を追っている。


 そんな私の顔を両の掌で包んだミアはとても優しげに微笑んで……。


「これがスーちゃんの…初めて…かな?」


 そう嬉しそうに聞いて来た。


「・・・ン」


 恥ずかしくて目線をミアから外してしまう。


「…もしかして…嫌、だった…かな?……わたしの事、キライに……なっちゃった…かな?」


 ミアがわたしの頬から手を離して、悲しそうにそんな事を言って来た。

 わたしは勢い良くミアに顔を向けて


「ならない!嫌じゃないの!キライじゃないの!!ちゃんと好きな・・・ぁ」


 つい剥きになって否定したけど『嫌じゃないキライじゃない』なんて言ったら、もっと欲しいとか取られちゃう。


 しかも好きとか言っちゃってる!

 恥ずかしすぎるぅ!!また顔が赤くなるのが分って下を向いてしまった。


「ありがとスーちゃん。わたしも…大好きよ」


 そう言ってもう一度わたしの頬を掌で包んで、額と額、鼻先と鼻先を優しく擦り合わせ、鼻先に優しくキスをして最後にギュッと抱きしめられた。


「・・・ンぁ」


 あ、もう唇にはしてくれないの?

 思わず吐息が漏れてしまった。


 物欲しそうな顔になってたかな?

 ミアは今まで見た事の無い様な、嬉しそうな微笑みを浮かべていた。


 その目は、初めて見るミアのその目は、酷く蠱惑的で真っ直ぐ目線を合わせられない。

 自分の中の、浅ましい情欲を見抜かれているみたいで居たたまれなくなる。


 でも、もっと見ていたい。

 見られてたい。


 わたしの頬を包んでいるミアの手に、わたしも手を重ねてミアの手に頬摺りしてしまった。

 ミアの目が更に嬉しそうに細くなる。


 ぁ、わたし、この目好きぃ…。


 さっきまでわたしの頭を占領してたヴィクターの事も、男性との今後の事も、どうでも良く成っちゃった。


 遠くの方ではまだ、地響きが連続で響き渡ってた。




 この後、拘束されたヴィクターがロープでグルグル巻きの簀巻きにされ、高い木の枝に逆さミノムシで吊るされてやっと落ち着いた。

 

 メアリー、シェリーとも合流して、都合10人でのランチを水辺で楽しみひとしきり水辺の花園で楽しんだ後、村へと戻った。


 村へ帰ってからヴィクターを吊るしっぱなしだったのを思い出したが、まぁ彼だから良いっか。

 と直ぐに頭からデリートした。


 わたしの彼に対する認識も、やっと皆と足並みが揃った様だ。


 その日の夜はなかなか寝付けなかった。

 色々な事を考え、妄想だか願望だかがグルグルと頭を廻り、いつも以上に何度も色んな事し続けてしまった。


 嗚呼、わたしってば…、一体何処へ向かおうとしてるのでせうか?





 夏休みも残り後3日、この日カーラ達はデケンベルの高等校の寮へと向かう。


 わたし達はコープタウンの駅馬車の停車場まで見送りに行った。


 カーラ、アリシア、ジェシカと順番に抱き合って別れを惜しんだ。

 アローズにも握手で。ヴィクターも居たかもしれないけれど視界に入らないのでワカラナイ。


 出発間際にもう一度3人とお別れを言ってカーラに じゃサヨナラね と言われたら急に何かが込み上げて来て サヨナラしたくない と口から洩れて涙もポロポロ零れてしまった。


 その後は涙で霞んで周りが見えなくて、ミアにしがみ付いてしまったから余り良く分らなかったんだけど。


 3人のお姉様方も泣き出して やっぱり行かない! とか スーを持って行く! とか 離れない離さない!! とか、ひとしきり騒動になったらしい。



 それでも駅馬車は定刻通り出発して、車窓から身を乗り出し手を振るカーラ達を此方も涙を溢れさせながら手を振り返して、お見送りを済ませた。



 その日、周りの大人達により傷心になったわたしを少しでも慰めようと、一番仲の良いミアの家へのお泊りイベントが計画実施された。


 確かに寂しさは癒やされ、物凄く慰められた刺激的過ぎるお泊りになった…。

 どんな慰められ方したかは言えないけれど…、言える訳が無いけれど!!!


 こうしてアムカムに来て最初の夏が、わたしを少しだけ成長させて過ぎて行った。


 やがて月が替わり、5の蒼月最初の週明けに新学年が始まった。




 そして、新学期が始まって3日後。

 その週の半ばに、彼が村へとやって来たのだ。

物語が動き始めます。

次回「クラウド家の客人まれびと

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― 新着の感想 ―
ピッコマで知りました。 まさかの好みな展開に行ったので、小説を読めばもっと詳細を知れるのではないかと思って読み進めてます! お泊まりは一体何が起きたのか一人悶々としています..! なう(2025/12…
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